明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)17・18話感想

 

 

第17話「復活の女帝」


脚本:井上敏樹/演出:坂本太郎


<あらすじ>
仲良くショッピングに出かけていたジェットマンのメンバーだったが、煮え切らない竜と香の関係に業を煮やした凱は突然香をエレベーターにナンパして口説きにかかる。心配になった雷太は遂に感情を暴露し、更に凱も凱で強引に香に迫っていた。一方、敵組織のバイラムの方には謎の隕石が飛んできて、「女帝ジューザ」と名乗る者がやってきて、不穏な空気に包まれるのだった。


<感想>
女帝ジューザ前後編、ここからジェットマンの物語は大きく動きます。大きなポイントは2つ、1つ目が凱と香の関係性の変化、そして2つ目にバイラムに突如現れた女帝ジューザ。
1つ目のポイントはこれまでのポイントからも予想できますが、2つ目に関してはやっとここで大きな動きのなかったバイラムに大きな動きが出た感じです。
ここからバイラムは後半に向けて崩壊の一途を辿ることになるのですが、最初のターニングポイントは間違いなくこの女帝ジューザにあります。


まず凱とのやり取りですが、ガチで凱と香について語る前に、思いっきりこれだけは突っ込ませて頂きたい。
そう、雷太についてです。

 


「竜なんかに僕の気持ちがわかるもんか!香さんに好かれようとは思わない。僕なんかださいし、 格好悪いし……だから決めたんだ。せめて「香さんを守ってあげよう」って」


おい雷太、お前さっちゃんを差し置いて「自分も香好きなんです」宣言は完全な浮気だろう!


ごめんなさい、ここだけつい私情に走ってしまいました。基本的に雷太のことは好きなんですけど、微妙に好きになりきれないのは香さんへの浮気心にあります。
というか、自覚してだろうから言わせてもらうけど、香みたいな上級国民があなたのような下級国民を一生恋愛や結婚の相手として見ることはないから諦めなさい。
もともと持っているものが違いすぎる…それから「香さんを守ってあげよう」も紳士なナイト気取りなんだろうけど、それはかえってありがた迷惑なのでやめましょう。
俺の友達の友達にもいたんですよね、失恋したからって「僕は〇〇さんを守るナイトで居たい」みたいな小っ恥ずかしいこと口にする人…それ失恋相手の女性に話したらめっちゃ嫌がってました。
こういうこと言う人っていい人のふりをしておきながら、結局奥底でその人のことをスパッと諦めきれないからナイトを気取ることで自己正当化したがるのがもう見え見えです。


まあそんな雷太に輪をかけて酷いのが今回の凱であり、もう男としてのはじもプライドも書き捨てて、真っ向勝負でエレベーターの中で口説きにかかります。

 


「ガキの頃ママに習わなかったか?男は狼ってな」
「好きでも嫌いでもねぇって言われるより、いっそのこと嫌われた方がすっきりするぜ!もっと嫌え!もっともっと思いっきり嫌ってくれ!」


ちょっと、笑わせないでくださいよ凱さん!いくら香に振り向いてもらいたいからって、そんなドMの性癖を自分から開きに行くことはないでしょう。
凱の必死さと台詞回しがあまりにも滑稽なので笑ってしまいましたが、真面目に話をすると、これはいわゆる「好きの反対は嫌いではなく無関心」です。
そう、香にとってあくまでも「好き」なのは竜であって、凱も雷太も所詮は下級国民、彼女にとっては将来を考える前に好き嫌いという感情すら持ちようがありません。
そしてその肝心要の竜は上級国民で雷太と凱にとっては高嶺の花である香ですら袖にしてしまえる程の美しき想い人がいるという…。


確かにこういうシーンを見てると「戦うトレンディドラマ」というのもむべなるかなという感じですが、これらはあくまでも後半に向けた崩壊の序曲でしかありません。
凱と香の気持ちの種類や矢印の向き方が全く違うので、凱は完全にストーカー…とまではいかなくとも、かなり偏執的な口説き方をしているだけなのです。
香を好きなのは間違いないんでしょうけど、それも半分以上は竜への対抗心故であって、逆にいえば竜との関係性さえ落ち着いてしまえば2人の関係性も収まります。
だから、もうこの辺りで全く気持ちが重ならない2人のすれ違いは決定的なものとなっており、決して上手くはいかないんだろうなあということが暗示されているのです。


さて、味方側がそんな泥沼になっている一方で、それまでなんだかんだ言いながら楽しくやっていたバイラムは女帝ジューザの登場によって一気にブラック企業と化します
その女帝ジューザが何者かについてですが、ラディゲたちの元上司だったものの、過去の裏次元侵略戦争で死んだと思われていたとのことです。
本当はいくつもの次元を征服した後に冬眠し、新たな力を得て復活したという石川漫画版のゲッターエンペラーのような存在でしょうか?蛹になって蝶々に進化みたいな…。
そんな女帝ジューザですが、突然復活してきた元上司に対するラディゲたちの冷たい反応を見るに相当ノルマの厳しい上司だったらしく、かなりの嫌な上司であることが伺えます。
半年近く前に加わったばかりの新人であるマリアに至っては「突然出てきて何マウント取ってんのこいつ?」って感じがモロに出ていて、リアルな反応です。


ジューザの目的は人間どもに悲鳴や絶望を味合わせること…これだけだと何だか臨獣殿や外道衆あたりと変わりませんが、真の目的は究極の魔獣・セミマルの誕生にありました。
セミマルを誕生させるには人間の苦しみや悲しみをエネルギーとして吸収する必要があり、しかも具体的に絶望させた人間を結晶体にすることで復活するのです。
このあたりのグロ表現は今じゃ無理だろうなという表現具合で、かなり迫力のあるものになっていて、大きな力には代償が必要であるというルールを敵側にも示しています。
やっていることは超展開のはずなのですが、そこに各キャラクターの反応と組織内の軋轢といった細かいドラマで肉付けしていくことでリアリティを持たせているのです。


そしてジューザは「今更てめえみたいな上司のもとで働く気なんかねえわボケ!」と言い張るラディゲを降格処分し、人間体にして記憶喪失にさせてしまうのでした。
うん、すごいね、80年代戦隊なら終盤で入れてくるであろう展開をもう中盤で入れてきますか…とにかく血路を開いてやるぜという作り手の覚悟を感じます。
それからなぜ「女帝」なんだろうと思ったのですが、おそらくこれは女性長官の小田切綾との対比として出した感じでしょうか。
田切長官が厳しいながらも割と冷静でメンバーのゴタゴタにあまり首を突っ込まないのに対して、ジューザのやっていることは物凄い恐怖政治ですし。


包容力のある長官に対して、とにかくハードでブラック上司なジューザという対比も面白く、そしてラディゲが反抗したばかりに思わぬ流れ弾を食らって転落したのも面白い。
とにかく演出といい脚本といい、それから特撮といい、いろんなシーンに小さなアイデアが詰まっていて、「井上脚本だから」で全てを片付けたくないですが、非常に濃密な一本。
ジェットマン側だけではなくバイラム側にも動きが出てきたことで物語にも躍動感が出始めました。評価はS(傑作)


第18話「凱、死す!」


脚本:井上敏樹/演出:坂本太郎


<あらすじ>
香を庇ってた凱は体から結晶が生え苦しみ悶え、香が心配して駆けつけるも袖にする。一方ジューザへの叛逆を目論むも失敗したラディゲは記憶喪失となって少女・早紀に助けられた。ラディゲの記憶は全く戻る気配がないが、少女は不治の病を抱えつつもラディゲに尽くそうとする。凱は体を元に戻そうとジューザに挑むのだが、その間に結晶化が進み、ついに凱は結晶体にされてしまうのであった。


<感想>
さあ来ました、女帝ジューザ編の後半戦です。見所は前回に引き続き凱の生き様と女帝ジューザの滅亡、そしてラディゲの復活なのですが、流れとして非常によくできています。
複雑に入り組んだ話ですが、まず凱に関して…文字通り死んでしまいました、凱。いやまあ結晶体にされただけで蘇生はしたのですが、見所はそんな彼の生き様です。

 


「寄るな!死ぬ時は独りで死にたい」
「なにを言ってるの! 死ぬなんて……諦めちゃ駄目!」
「へっ。まあそうマジになりなさんな……俺が死んでも、空は青い。地球は回る」


このあたりの凱はもう既にこの段階で「死への恐れ」を経験しているわけですが、これまで個人的欲望で動いていた凱が妙に悟りきったようなことを言い出します。
もちろんこれは痩せ我慢であって、惚れた香の前で格好つけたいからなのですが、いざ死が目前に迫ると彼もまた発狂するのです。


「香、怖いんだ。本当はどうしようもなく。死にたくねぇ!死にたくねええ!!」


ついに出ました、凱の人間的な脆さが…今まで必死に香の前で見せまいとして来た一匹狼の、誇り高き男の不器用ながらもまっすぐな生き様がここに凝縮されています。
本作が歩んで来た「ヒーローの中にある人間性」がこのシーンで結実し、決して美しくはなく生々しいけどもかっこいい男の魅力が詰まっているのです。
この辺りは「ザンボット3」の人間爆弾のエピソードを思い出しますが(爆弾を植え付けられた人間が死の寸前に怖くなって発狂する描写)、そのオマージュとも取れます。
同時にこれは70・80年代ヒーローが抱えていた「死をも恐れない覚悟」へのアンチテーゼともいえ、「ヒーローだって本当は死ぬのは怖いんじゃないか?」というシーンなのです。


ヒーローの死自体は初代「ゴレンジャー」や「バトルフィーバーJ」「バイオマン」などでも描かれましたが、いずれも死を恐れずに安らかな笑顔で死んで行きました。
しかし、本作の凱は「死にたくねえ!!」となおも死の寸前に発狂することでその流れを大きく変え、同時に13話で自身も口にした「俺たちは戦士である前に人間だ!男と女だ!」をリアルに体現しているのです。
単なる男と女の好いた惚れたがテーマなのではなく、それを通した人の生き様とヒーローとの関係性をきっちり炙り出すようにして本質を描いていくのが井上脚本の真髄といえます。
同時に凱と香を通して、「生々しい男と女の生と死」を描いているのが今回の話における2人だといえるでしょう。


それとは対照的に、不気味なくらい穏やかな関係として描かれているのが記憶喪失のラディゲと不治の病の少女ですが、凱の「死にたくねえ」と対照的になっているのがラディゲの「死ぬな」です。
不治の病という設定は正直ずるいといえばずるいのですが、死という運命をジューザに決められたが凱と、死という運命から逃れられない少女が対比になっているのですよね。
凱は必死に自分のために生きようと諦めませんが、少女はもう不治の病という運命を受け入れて死のうとしている、だから幸せそうでありながらどこか儚い関係です。
ついでにいえばラディゲも悪の組織の幹部というアイデンティティーを喪失しているので、演出的にもどこか「あの世」のような雰囲気を漂わせています。
つまり現実世界で必死に生きようよする凱と香は「生=この世」の象徴であるのに対して、現世からやや離れたところで生きているラディゲと少女が「死=あの世」の象徴でしょうか。


しかし、ラディゲもまた戦いのカルマから逃れることはできず、ジューザに呼ばれるように戦場へ足を運び、レッドホークたちの姿を見てラディゲとしてのアイデンティティーを取り戻します。


「我が名はラディゲ!バイラムの幹部」


後はもう雪崩れ込むように「ジューザが憎いからぶっ倒す」という目的のために呉越同舟で共闘したジェットマンとバイラムですが、ここで大事なのは「一時的な共闘」にすぎないということです。
ジューザは双方からボッコボコにやられ、さらに結晶化も溶けて凱も復活したので、怒りで魔獣化するジューザですが、時すでに遅し。
ラディゲ以外のトラン、マリア、グレイまでが駆けつけて「みんなでGO」という超展開になっているのですが、ここまでにドラマをしっかり積み重ねているので違和感がありません。
そして、これまでほとんどいいとこ無しだった結城凱がブラックコンドルへ変身し、まさに「真打ち登場」という感じでジューザを滅多斬りにし、ファイヤーバズーカで女帝を撃退しました。
本当にどんだけやらかしが多くて戦犯率が高い凱でもこの一瞬の活躍で全てを掻っ攫ってしまえるからずるい…それが竜にない凱のいいところですね。


しかし、ここで話は大団円では終わらず、虫の息となったジューザにラディゲはトドメを刺し、セミマルの卵を持って行き、育てることにします。
この「一度転落してからの下克上」は終盤で形を変えて出てくるパターンになっており、この前後編自体が伏線になっていますので覚えておきましょう。
更にラディゲは愛し合ったはずの少女に対してこう切り捨てます。


「愛だと?!馬鹿な。このラディゲが、そんな愚劣な感情を持つと思うのか」


素晴らしい、ここに来てラディゲが単なる悪ではなく、愛をも根本から否定する悪役の鑑であることが示されます…まあ徐々にこの人も倒錯した愛に目覚めていくのですけどね。
今回は第2話からずっと足を引っ張るトラブルメーカだった凱を追い詰めるとこまで追い詰めた上で、しっかりラストに美味しい見せ場を持たせています。
ここから徐々に凱は竜や香とのすったもんだもありつつ、頼れるNo.2に成長していくのですが、そのキャラクターの原点がようやくここで固まりました。
また、ジューザを倒して終わりではなく、残されたセミマルという脅威があるために、バイラムから組織としての威厳は失われていません。
しっかり描きべきことを描き切りました、評価はもちろんS(傑作)。ここから更なる飛躍が期待されます。

 

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