明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)後半2クール感想総括

ジェットマン」後半戦が終了したので、熱が冷めないうちにまとめておきます。

 


(1)後半2クール分析表

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

 

話数 サブタイトル 脚本 演出 評価
25 笑う影人間 荒木憲一 蓑輪雅夫 B(良作)
26 僕は原始人 荒川稔久 蓑輪雅夫 D(凡作)
27 魔界大脱出 荒木憲一 東條昭平 S(傑作)
28 元祖次元獣 荒川稔久 東條昭平 D(凡作)
29 最後の戦い 渡辺麻実、八渡直樹 東條昭平 C(佳作)
30 三魔神起つ 井上敏樹 蓑輪雅夫 B(良作)
31 戦隊解散! 井上敏樹 蓑輪雅夫 S(傑作)
32 翼よ! 再び 井上敏樹 雨宮慶太 S(傑作)
33 ゴキブリだ 荒木憲一 雨宮慶太 E(不作)
34 裏切りの竜 荒川稔久 東條昭平 E(不作)
35 鳩がくれた戦う勇気 荒木憲一 東條昭平 F(駄作)
36 歩く食欲! アリ人間 井上敏樹 雨宮慶太 A(名作)
37 誕生! 帝王トランザ/span> 井上敏樹 雨宮慶太 S(傑作)
38 いきなりハンマー! 増田貴彦 蓑輪雅夫 B(良作)
39 廻せ命のルーレット 荒川稔久 蓑輪雅夫 B(良作)
40 命令! 戦隊交代せよ 荒木憲一 東條昭平 A(名作)
41 変身不能! 基地壊滅 荒木憲一 東條昭平 S(傑作)
42 おれの胸で眠れ! 井上敏樹 蓑輪雅夫 S(傑作)
43 長官の体に潜入せよ 井上敏樹 蓑輪雅夫 C(佳作)
44 魔神ロボ! ベロニカ 井上敏樹 雨宮慶太 S(傑作)
45 勝利のホットミルク 井上敏樹 雨宮慶太 S(傑作)
46 トマト畑の大魔王 荒木憲一 東條昭平 C(佳作)
47 帝王トランザの栄光 井上敏樹 東條昭平 S(傑作)
48 死を呼ぶくちづけ 井上敏樹 蓑輪雅夫 S(傑作)
49 マリア…その愛と死 井上敏樹 蓑輪雅夫 S(傑作)
50 それぞれの死闘 井上敏樹 雨宮慶太 S(傑作)
51 はばたけ! 鳥人 井上敏樹 雨宮慶太 S(傑作)

 

(2)後半戦総括コメント


戦隊シリーズに革命をもたらした作品の後半戦がいよいよ終了しましたが、改めて大変素晴らしいクオリティ・完成度を誇る傑作でした。
前半2クールまでを経て29話までは息抜きの単発回が続きますが、大きく本筋が動き始めたのは31話と32話、ここでレッドホーク=天堂竜の物語が大きく動きます。
マリア=葵リエが判明するとともに、それまでずっと痩せ我慢して動いていた竜の理性が限界を迎え、32話の前半部分で決壊してしまいました。
そう、あれだけ「公私混同するな」と言っていた竜こそが一番公私混同していたわけであり、遂に竜のメッキが完全に剥がれ落ちてしまうことになるのです。


そしてこの瞬間に大きな仕事をしたのがブラックコンドル=結城凱であり、ここでの衝突を通して2人のわだかまりが一気に解けて2人はあっという間に親友となりました。
32話まででジェットマンはチームとして一旦のまとまりを見せ、同時に竜の戦いの動機が「地球の平和を守る」ことから「マリア=葵リエの救済」という方向へシフトします。
つまり心の針が「公」から完全に「私」に振り切れた瞬間であり、後半の竜は大雑把にまとめれば葵リエを取り戻すために動いていたことになりますが、これは決して唐突なものではありません。
元々竜の戦う動機が葵リエあってのものだということは1話の時点で示されていたのであり、前半はそれを無理矢理に覆い隠し、後半はその蓋が取れて剥き出しになっただけなのです。


逆に後半からどんどん崩壊していくのがバイラムであり、36・37話でトランがトランザに進化してからが大きなターニングポイントで、「帝王」という名前からも分かるように女帝ジュウザの再来といえます。
ヨーロッパの歴史にある「カノッサの屈辱」を彷彿させる「俺の名を言ってみろ」「トランザ様!!」のくだりから前半はそこそこに組織であったバイラムは組織ですらなくなっていくのです。
まあそもそもが個人事業主の集まりであって組織とは言えなかったバイラムですが、トランザの独裁政権がその本質を浮き彫りにしたといえ、しかし魔人ロボ・ベロニカが敗れたことでバイラムの瓦解は決定的なものとなりました。
本作を語るとき、どうしてもジェットマン側にばかり意識が向きがちですが、本作は「ヒーローとは何か?」「戦隊とは何か?」と同時に「ヴィランとは何か?」もまた示していたと言えます。


これはちょうどつい先日、Twitterのスペースで往来の友である黒羽翔氏と語り合ったことですが、本作を見ていると実にストレートに「悪の組織は負けるべくして負ける」ことが示されているのです。
野球界の故・野村克也監督も引用していた言葉に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」という言葉があるのですが、ヒーローが悪に勝つ時やその逆の悪がヒーロー側に勝つ時は何らかの奇跡が起こります。
ジェットマンが勝つ時は大体にして何かしら神がかった奇跡や時の運に恵まれているのですが、逆にバイラムがジェットマンに負ける時は何かしらうまくいかない原因があり、それが表面化して負けるのです。
そしてその敗因は大きく分けて「情報不足」「思い込み」「慢心」であり、バイラムは正にジェットマンに対する研究不足や驕り・油断・慢心といったものがあり、組織内の内ゲバもそれが遠因となって起こっています。


わかりやすいのは荒木氏が手がけた40・41話のネオジェットマンが登場する前後編であり、前半でバイラムは非常にいいところまで追い込んだにも関わらず、寸前で負けました。
原因は旧ジェットマンがネオジェットマンのバードニックエネルギーを手に入れたのを知らなかったこと、そしてベムを基地内に侵入させれば自動的に勝てるだろうと思い込んでいたことです。
そして負けたら負けたでその原因をトランザはラディゲたちに押し付けるしかできず、それがまた組織内の反発を生み出し、溜まりに溜まったものがベロニカ戦で噴出、という形に。
終盤の展開は「ジェットマンが真の戦隊ヒーローになるまでの物語」としてよくできていますが、同時に「バイラムが悪党として負ける理由を克明に描いた物語」としても秀逸です。


一見無敵と思われたラディゲ究極体=ラゲムもリエの謀反によって思わぬ弱点を作ってしまいましたし、グレイもグレイで結局ロボットなのにマリアへの思いに縛られてしまったことが敗因となっています。
逆に言えば、その陥穽にハマらずに地雷をしっかり回避して真のヒーローとして団結したのが終盤のジェットマンであり、特に天堂竜=レッドホークを通して「自己犠牲」「復讐」という要素としっかり向き合いました
そこで竜を救うために機能したのがブラックコンドル=結城凱ではなくホワイトスワン=鹿鳴館香であり、ヒロインとして位置付けられながら今ひとつ活躍できていなかった香が見事な成長を遂げるのです。
前半はどこか浮世離れしていて好感が持ちにくかった香を、リエを喪失して復讐鬼になっていた竜を正気に戻す真のヒロインとして活写し、また竜がリエと一体化した香をきちんと「個人」として認識することに。


これがあったからこそ、序盤からの紆余曲折を経て最終回の結婚式に繋がったのであり、それを持って真のヒーローであるレッドホーク=天堂竜が戦士としての完成を迎える、という構造がよくできています。
真の戦隊ヒーローになる」という構造を1年かけてしかり描き切った伝説の回ですが、さらに最終決戦では竜と凱のやり取りを通して「ヒーローは何のために戦うのか?」を竜の叫びを通して伝えるのです。


「やるんだ凱!全人類の、いや、俺たちの未来がかかっているんだ!」
「お前の命、俺が預かった!バードニックセイバー!!」


戦隊史に残る最高のやり取りですが、この竜と凱のやり取りに本作が歩んできた道のりが、そして「ジェットマン」としてのヒーロー像の全てが凝縮されていると言えます。
「全人類=公」なんて建前ではなく「俺たち=私」という本音で1年間向き合い、「自己犠牲」でも「復讐」でもない「未来」を生きるための前向きな戦だと宣言したのです。
つまり、「ゴレンジャー」〜「ファイブマン」までが暗黙の了解としていた「戦いとは犠牲が伴う虚しいもの」という後ろ向きのイメージをここで大きく崩しました。
その上で、今後ヒーローはどんな戦い方をしていくべきなのか、何のためにヒーローは存在するのか、それを「人間性」と絡めながら打ち出したのです。
もっとも、本作においてはこの「自己犠牲」「復讐」という壁を「すり抜ける」ことはできても「打ち崩す」には至っておらず、その課題は7年後の「ギンガマン」に持ち越されます。


最終回Bパートに関しては感想で語ったので今更多くは語りませんが、とにかく「やれることは全てやり切った」と言える最終回であり、時代性も含めて本当にいい作品だったなあと。
脚本はほぼ井上先生が重要回を担当していますが、演出は雨宮慶太・東條昭平・蓑輪雅夫のトロイカ体制で作られており、後半に入ると完全に脚本と演出の連携がスムーズになりました。
シリーズの中でも物語としての完成度が非常に高く、段取りが見事すぎるくらいよくできているのですが、玩具販促その他で縛りが厳しい現在ではここまでの挑戦・冒険はやりにくいのかなとも思います。
特に見直してみて驚いたのはレッドホーク=天堂竜の完成度の高さであり、どうしてもブラックコンドル=結城凱に目が行きがちですが、それは竜という主人公が良くできているからこそです。


見るたびに再発見の多いシリーズですが、恐らくは「ギンガマン」「タイムレンジャー」同様今後も見直すたびに新たな視点の批評や言説が生まれてくるのでしょう。
この時代の作品を生で体感できたことも含めて、YouTubeで既に3度目となる配信で見直して感想を書き直して言語化してみてよかったです。
でもなあ、だからこそ不安なのが今週末から始まる同じ井上脚本の「ドンブラザーズ」がここまでのクオリティになりうるかどうか、ということなのですが(苦笑)
現行の「ゼンカイジャー」が滑り出し順調だったにも関わらず微妙な終わり方だったので、あまり期待はせずに待つと綺麗に締めたところで終わります。
改めて、素敵な作品をありがとうございました。

 

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