明日の伝説

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戦隊レッド列伝 レッドホーク/天堂竜(『鳥人戦隊ジェットマン』)

戦隊レッド列伝、第四弾は『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)に登場するレッドホーク/天堂竜です。
各パラメータは戦闘力、技巧、知性、精神力、統率力、そして人間力の合計6つを元に5点満点で判断します。
このパラメータは決してシリーズを跨ぐものではなく、作品内での描写に基づく相対的なものとご理解ください。
その上でランクをS、A、B、C、Dの5段階判定し、総合的なキャラクター考を最後に述べる形式です。


S(超強い、一騎打ちで幹部クラスを倒せる猛者)
A(かなり強い、他のメンバーよりも一歩抜きん出ている)
B(強い、他のメンバーより少し上程度)
C(普通、他のメンバーと大体同じくらい)
D(弱い、他のメンバーと比べても劣っている)


レッドホーク/天堂竜(『鳥人戦隊ジェットマン』)

 

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レッドホーク/天堂竜のパラメータ


<パラメータ分析>
戦闘力:5
技巧:5
知性:4
精神力:1
統率力:3
人間力:2
数値合計:20/30
分析結果:A(かなり強い、他のメンバーよりも一歩抜きん出ている)


<キャラクター考>

 

「リエ……リエを、リエを探しにいかなければ!行かせて下さい、リエを探しに行かせてください!」


敵襲によって自分の命よりも大事な人の喪失を経験したレッドは数多くいるが、こんな風に生の感情を包み隠さず露呈させたレッドは後にも先にも天堂竜だけであろう。
無理もあるまい、竜とリエは公私共に最高のパートナーであり、冒頭の5分でも最高の恋人兼パートナーで、2人揃って正規のジェットマンになり得たかもしれないのだから。
次元船団バイラムの襲来は予想よりも早く、彼は予想だにしない形で「最も大切な人の喪失」を1話にして経験し、そこから復讐という狂気に囚われることになる。
しかし、ここからのリアクションが大きな違いであり、彼はそれをヒーローとしての正義感に昇華するのではなく、むしろ引きずりながらこんなことを言う。


「地球が危ないんだぞ!個人的感情なんて問題じゃないだろ!」


一見すれば正論に思えそうだが、それでも凱たちが納得できないのは正論が嫌いだからだけではなく、その意見が竜の本心から発されたものではないからである。
それを真っ先に見抜いていたのがブラックコンドル/結城凱であり、また香をはじめ他のメンバーもそんな竜の威圧的な物言いに納得していたわけではない。
事実、メンバーたちは事あるごとに竜の意見に反目・懐疑していたし、竜もまた部下や仲間を指導した経験がない以上真正面からぶつかっていく以外の方法を知らないのだ。
そして最も恐ろしいのはそんな竜こそが最も公私混同を起こしていて、一見メンバーに向き合っているようで常にその意識が亡き恋人・葵リエにしか向いていないことである。


劇中で度々リエとの回想が挟まれるが、単なる竜の内面を表しているだけではなく、過去の思い出に縋らないといけないほど竜が精神的に追い詰められていたのだ。
しかし他の戦隊ならいざ知らず、どこの馬の骨ともつかぬ素人の寄せ集めであるジェットマンでそのような付け焼き刃が通用するわけでもなく、後半でどんどん彼は弱さを露呈させていく。
22話ではメンバーたちに気遣いをした結果火に油を注ぐ結果となったわけだし、31・32話では恋人の葵リエがマリアだったという現実を受け入れられず精神崩壊しかけたのがその証拠だ。
そんな彼の姿はメンバーたちを呆れさせながらも、同時に完璧超人と思われていた竜も結局は1人の人間であると知ったことで親近感が湧き、かえって距離が近づいたと言える。


だが、問題はそれで終わりではなく、むしろ竜の戦う理由が「マリア=葵リエの救済」であると明確に自覚した後半が重要であり、彼はとうとう49話で葵リエ=マリアを人間に戻すことに成功した。
これでリエがジェットマンの一員に戻れば丸く収まったのであろうが、リエは洗脳されていたとはいえマリアとして実に多くの罪なき命を奪ってしまい多くの人の返り血を浴びてきたという罪悪感に苛まれている。
だからこそリエはラディゲに一太刀浴びせる代わりに死ぬという選択肢を取るのだが、それは竜自身が望んだ結果ではなく、しかもリエは残酷にも「忘れろ」と要求してくるのだ。
リエの死を看取ることもできなかった彼はついに50話で復讐鬼としての一線を越え、ファイヤーバズーカを復讐の道具として私物化してまでラディゲと心中しようとしていた。


結果として、竜の目論見は失敗に終わり、精神的な拠り所すら失ってしまった彼は身動きが取れなくなってしまうのだが、その中でずっと彼を見続けていた鹿鳴館香によって救われる。
葵リエの代弁者となる形で成長・変化を遂げた香の思わぬ横槍に竜は面食らってしまい、恐らくはここで初めて香を「メンバーの一員」ではなく「個人=女性」として認識したのであろう。
彼女の成長に驚きながらも初めて異性として認識した彼はようやくリエの喪失を乗り越え、「大丈夫か?香」という台詞と共にやっとそこで真のレッドホークとなったのだ。
そんな彼が最後のラディゲとの戦いで、もう1つの大切なものである親友・結城凱に対して自身の拠って立つところを明確に宣言した。


「やるんだ凱!全人類の、いや、俺たちの未来がかかっているんだ!」


1年間のバイラムとの命懸けの戦いの果てに苦悩・葛藤を繰り返しながら竜が辿り着いて見せた境地を表したのがこのセリフであり、明確に戦隊シリーズの歴史の流れを変えた瞬間である。
大義の為に己を押し殺す=自己犠牲」でも「個人的な欲望のために周囲を顧みない=復讐」でもない、「自分たちの未来を生きる」という新しい戦いの動機を彼は示してみせた。
この一言で「ファイブマン」以前の旧来ヒーロー像は通用しなくなり、「使命のために命を懸ける」ことを前提にしつつも「死んでも構わない」のではなく「未来を生きる」ために戦うのだと彼は宣言する。
つまりは「自己犠牲」と「復讐」という、それまでの戦隊ヒーローが多かれ少なかれ前提条件として持っていた要素に懐疑を示し、それに依存せずともヒーローは戦えると断言したのだ。


しかし、竜の存在はそれまでの戦隊レッドのあり方に「懐疑」を示すことはできたが「否定」することはできておらず、実際「リエの喪失」という壁を自力で乗り越えることはできなかった
それがステータスにも数字となって反映されており、竜は戦闘力・技巧・知性において高い数字を記録する強いヒーロー性を持ちながらも、精神力・統率力・人間力といった部分が弱い。
これはヒーロー性と人間性が必ずしも一致するわけではない本作独自の構造を裏付けてもいて、その上で仲間達との関係性を通して「ヒーローと人間」について1年をかけて問い直した本作の特徴をよく表している。
それでは竜が超えられなかったこの壁をどうすれば超えることができるのか?その問いに対する答えは本作より7年後の戦隊レッドが示してくれたのだ。

 

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