明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)1・2話感想

さて、ロボアニメだけだとつまらないので、せっかくだから少しずつ好きな特撮作品の感想を書いていこうかなと。


一応シリーズ自体は一通り評価を書き終えていますが、どうせなら個人的にS(傑作)A(名作)B(良作)あたりの作品群を優先的に見ていこうとかなと。
本当なら全シリーズ感想を制覇したいところですが、さすがに高評価でも好きでもない作品の感想は書いているこちらとしてもストレスが溜まります。
そのため、なるべくなら見ていて気持ちのよくなる好きなものから書こうと…第一弾は現在YouTubeで無料配信中の鳥人戦隊ジェットマン』(1991)です。
今の所ちょうど折り返し地点の24話まで見ていますが、毎日2話ずつの更新とし、できるなら3クール目に入ったあたりで追いつきたいなと。

 

 


第1話「戦士を探せ」感想


脚本:井上敏樹/演出:雨宮慶太


<あらすじ>
宇宙の衛星にある地球防衛軍スカイフォースのアースシップ、そこには天堂竜と葵リエという2名の若者が活動しており、2人は恋人同士だった。その優秀な戦績を見込まれ、女性長官の小田切綾の推薦で「Jプロジェクト」なる、地球を守るための特殊部隊となるはずだった。しかし、そのJプロジェクトに際し、次元船団バイラムという裏次元からの悪の組織が突然現れスカイフォースは基地ごと壊滅、唯一バードニックウェーブを浴びた竜は恋人との別れに悲しむ暇もなく、偶然バードニックウェーブを浴びた4人の若者を探しに出かけるが…。


<感想>
スーパー戦隊シリーズの転換点となった革命作だけあって、今見直してもかなり変則的なスタートとなっています。
地球防衛軍スカイフォースは「チェンジマン」まで使われていた軍人戦隊の系譜であり、基地が壊滅状態に陥るのも原点となる「ゴレンジャー」第一話のオマージュです。
そうした70・80年代戦隊シリーズのフォーマットを踏まえつつ、まずこの第一話の段階でいくつかの定石を外しています。
具体的に列挙すると以下の通りです。

 

  • 第1話でメンバー全員が揃わず、たった3人しか揃わない
  • スーパー戦隊シリーズ初の女性長官
  • ジェットマンとして選ばれた2人には正義感が全くない
  • 1人は「ジェットルマン」と勘違いし社交パーティか何かだと思っている金持ちのお嬢様(「バイオマン」の桂木ひかるのオマージュキャラ)
  • そしてもう1人は争いが嫌いで、地球の平和よりも農業が大事という太っちょの若者(名前からもわかるように大岩大太のオマージュキャラ)
  • 戦うこと自体はすんなり了承してくれた2人だが、戦闘訓練や修行を受けていないために全く役立たず
  • レッドも動けるといえば動けるが、バードニックウェーブは5人が揃わないと本領発揮できない


当時としてはかなり大胆なアプローチで崩しており、特に香の「浮世離れしているが故に地球の危機にピンときていない」リアクションは秀逸です。
普通は「戦士になれ」と言われれば多少ためらいがあったとしても事態の深刻さを察知しますが、香は全く危機感がありません。
同じことは雷太にもいえて、農業の方が大事というのはかなり大きいでしょう…そして戦いでは2人とも役立たず。
これは80年代の曽田戦隊に見受けられた「素人がいきなり宿命を告げられて、あっさり覚悟を完了して戦う」というお約束を崩したものになっています。
もちろん「宿命を拒否する戦士」も「第一話でうまく戦えない戦士」もそれぞれやっているのですが、本作はそこにうまく登場人物の背景設定や心情とリンクさせているのです。
また、そのことで視聴者がストレスを感じないように、唯一の正規戦士であるレッドホーク・天堂竜だけがまともに戦えることでバランスを取っています。


そしてその天堂竜がこれまたユニークなキャラ付けになっていて、完璧超人かと思いきや恋人と思いっきりいちゃつく等身大の青年です。
だからこそ、恋人の葵リエと別れることになった瞬間露呈する私情を押さえ込めず、次の一言を口にしてしまいます。

 


「リエ……リエを、リエを探しにいかなければ!行かせて下さい、リエを探しに行かせてください!」


スーパー戦隊史上、第1話でこんなに感情を露呈させたレッドが未だ嘗ていたでしょうか?(いやいない)
本作以前も以後も、ここまで恋人の喪失を引きずって情けなく泣きわめいた人は未だ嘗ていませんでしたよ。
そしてここで竜は恋人を失ってしまったことから精神に異常を来たし、己に厳しく振る舞うようになるのです。
地球の危機ということにいまいちピンと来ていない2人に思わずきつく当たるところからもそれが感じ取れます。
しかし、これでもまだ序の口であり、次のお話では戦隊史上に残るあの男との対峙が待っているのです。
評価はもちろんS(傑作)、当時の短い尺の中にもゆったりと余裕をもって物語を展開しており、よく練られています。


第2話「第三の戦士」感想


脚本:井上敏樹/演出:雨宮慶太


<あらすじ>
なんとか次元船団バイラムの猛攻をしのいだ竜、雷太、香だったが、状況が圧倒的不利であることに変わりはなく、残り2人の戦士を探すことが急務であった。1人は明るく可愛らしいがどこかこまっしゃくれた所のある早坂アコ、そしてもう1人がバーでサックスを演奏していた一匹狼の結城凱である。雷太と香はアコをジェットマンに勧誘するが時給をねだられ、更に竜は戦士の宿命を拒否する凱とすったもんだの殴り合いに発展する。アコは小田切長官から時給の切手をもらい、竜は凱を殴り飛ばしバイラムとの戦いへ…なんとか5人揃ったが相変わらずチームワークはバラバラで、戦いを終えた後凱はブレスを捨ててバイクで走り去った…。


<感想>
ようやくジェットマン5人が勢揃いとなって戦いますが、全くチームとしての足並みが揃うことなく、撃退はできたもののほとんどが正規戦士である竜のお陰です。
サブタイトルの「第三の戦士」とはいうまでもなくブラックコンドル・結城凱のことですが、もうこの男がとにかく戦隊史上のくくりで見ても癖が強い男として描かれています。
総合評価でも書きましたが、初登場がいきなり酒と女に囲まれ、バーでサックスを演奏しているなんて今では絶対こんな設定の戦士は通らないでしょうね(笑)
まさに井上敏樹先生じゃないと書けないキャラであり、いわゆるアオレンジャーポジションのキャラなのですが、単なる「かっこいい男」ではありません。


今回のハイライトはその凱と竜の衝突のシーンなのですが、ここでの2人のやり取りを抜粋してみましょう。

 

 

「しかしよぉ、いっそのこと人間なんざ滅んだ方がいいんじゃねえのか。公害問題に人種差別、確かに人類って愚かなもんだ」
「お前本気で言ってるのか?!命の尊さをなんだと思ってるんだ!?」

 


ここからすったもんだの殴り合いに発展するのですが、まず凱が口にする「人間なんざ滅んだ方がいい」というセリフは本気でそう思ったわけではありません。
しかし、こんなふざけたことを言うアウトローみたいな男がよりにもよってジェットマンのNo.2に来たというのがややこしいのです。
そして竜はそれに対して「命の尊さ」を説き、さらには「個人的感情なんて問題じゃないだろ!」と追い詰めますが、この1シーンは様々な屈折があります。
まず「竜=プロフェッショナル」「凱(とその他)=アマチュア」という配置にしていますが、これは同時に「外的(=公的)動機」と「内的(=私的)動機」の違いでもあります。
竜は「地球の平和を守る」という「外的(=公的)動機」、凱は「一人で自由に生きる」という「内的(=私的)動機」のために動いています。


その上で更にややこしいのは実はその竜こそが1話の段階でもう1つあった「内的(=私的)動機」である「恋人・葵リエのため」を喪失していることです。
第一話の「リエ……リエを、リエを探しにいかなければ!行かせて下さい、リエを探しに行かせてください!」は単なる心の叫びで終わりません。
そう、実はリエを失った悲しみから竜の中には「バイラムへの復讐」が生じており、それを無理矢理「地球の平和を守る」という大義にすり替えているのです。
だから一見まともなことを言っているようでいて、実は竜の方が遥かに人間としておかしいということになっていて、この歪みが竜を1年間苦しめることになります。


そして、ジェットマン5人が揃うタイミングもバラバラであり、戦場に来ても各々がまるで違う戦い方をしているので、全然チームワークができていないのです。
弱小のホワイトとイエローが2人がかりで倒し、ブルーは器用に敵を撹乱、そして実力が強いレッドとブラックもまた訓練されたプロのレッドとチンピラじみたアマチュアのブラックという風になっています。
特にブラックが金的を倒した後「どんなもんだい!」と自信をかました後にすぐ油断してやられるリアクションは見どころであり、戦闘において隙がないレッドホークとの違いなのです。
しかもここでブラックがレッドの戦闘技術を見て「やるじゃねえか」と認めているところもポイントで、実はこの時点で凱は竜の戦士としての腕前を認めています。
でもだからといってジェットマンになることを了承したわけではなく、使命を拒否して逃げるあたりは「バイオマン」第1話ラストの小泉ミカのオマージュでしょう。


他にも細かいポイントはありますが、本作が面白いのはレッド=プロフェッショナル他の4人=アマチュアという色分けがなされているところです。
その上で、使命感や戦士としての力量、判断力といった細かい書き分けが変身前と変身後の双方で徹底されているのもよくできています。
まさに戦隊史上最大のエポックといえる始まりであり、「地球の平和を守る」という大義名分がありながら、その実誰も覚悟ができないまま目の前の敵を撃退するのに精一杯なのです。
総合評価はS(傑作)、80年代戦隊シリーズのサブライターを長く続けて来た井上敏樹先生と本作初のパイロット監督に就任した雨宮監督の手腕が冴え渡るパイロットでしょう。

 

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