スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)感想前半2クール総括
まずは各話評価を元に、前半2クールを軽く振り返ってみます。
<1クール目評価>
- 第1話「戦士を探せ」…S(傑作)
- 第2話「第三の戦士」…S(傑作)
- 第3話「五つの力!」…A(名作)
- 第4話「戦う花嫁」…S(傑作)
- 第5話「俺に惚れろ」…S(傑作)
- 第6話「怒れロボ!」…A(名作)
- 第7話「竜の結婚!?」…B(良作)
- 第8話「笑うダイヤ」…B(良作)
- 第9話「泥んこの恋」…E(不作)
- 第10話「カップめん」…F(駄作)
- 第11話「危険な遊び」…B(良作)
- 第12話「地獄行バス」…A(名作)
<2クール目評価>
- 第13話「愛の迷路」…S(傑作)
- 第14話「愛の必殺砲(バズーカ)」…S(傑作)
- 第15話「高校生戦士」…D(凡作)
- 第16話「紙々の叛乱」…C(佳作)
- 第17話「復活の女帝」…S(傑作)
- 第18話「凱、死す!」…S(傑作)
- 第19話「見えます!」…B(良作)
- 第20話「結婚掃除機」…D(凡作)
- 第21話「歩くゴミ」…B(良作)
- 第22話「爆発する恋」…S(傑作)
- 第23話「新戦隊登場」…S(傑作)
- 第24話「出撃超ロボ」…S(傑作)
<前半戦総括コメント>
いやあ、やはり戦隊史上最大の革命作として評価されているだけあり、何度見直しても実に面白い。
今回の配信分と合わせて実に何十回と見直していますが、全然飽きないですねえ…本作最大の面白さは何と言っても戦隊内の複雑な人間関係。
唯一の正規戦士であるレッドが素人の4人を引っ張っていくという、当時としてはかなり冒険的な「プロと素人」のキャラわけが絶妙です。
その上で同じ「素人」でも各キャラクターの生まれ育ちと性格によって、戦い方に対する考え方や覚悟がまるで違っているのがドラマを面白くしています。
特に凱と香はそれぞれ凱が「トラブルメーカー」、香が「最弱ヒロイン」として扱われていますが、普通の戦隊ならこの2人は作品の「華」となる役割なのですよね。
原点の「ゴレンジャー」でいえば、アオレンジャーポジションとモモレンジャーポジションなのですが、その2人がレッドホークの最大の「敵」という描かれ方になっています。
特に初期1クール目は竜が散々この2人のことで手を焼くことになり、2人がやらかしたことの尻拭いを正規戦士の竜が必死になってやっている格好です。
そのため、初期の凱と香は全くいいところがなく、むしろ戦犯率が高いので危うく部隊が壊滅寸前という危機に陥ることが何度もありました。
しかも、ここで問題なのは2クール目に入ると香に憧れを持つ雷太までもが我もと主張したり、アコも面白がって茶化したりすることです。
普通の戦隊なら脇の2人はサポート役に回るはずなのですが、そうはならずむしろ火に油を注ぐような真似をして面白がるところが実に井上脚本の面白さとなっています。
そして、22話になると今度は竜が第1話からずっと隠してきた葵リエの死を打ち明けることで、凱と香をくっつけさせようとして、かえって事態を悪化させるのです。
そう、18話辺りまでは何だかんだ凱たちを引っ張り、正論をかましてマウントを取っていた竜が今度は己の不器用さをさらけ出してしまいます。
そのことでメンバーたちの人心がうまくまとまるどころかかえって香は略奪愛を宣言し、気を遣われた凱は「そういうことじゃねえんだよ!」と竜にブチ切れます。
ただでさえ、ギリギリのところで薄い皮一枚で繋がっていたジェットマンの脆い結束力はあっという間に壊れてしまい、ジェットマンは壊滅寸前に陥るのです。
で、竜が何とか説得しようとしてもまとまらず、結局「公私混同するな」しか言えなくなって、メンバーをまとめ上げるのに失敗してしまいます。
メンバーの弱点だけではなく、今度は竜の弱点・欠点が明るみに出ることになり、いよいよここから大枠を動かしにかかったという感じです。
また、敵組織のバイラムは前半2クールは「謎めいた敵」という不気味さだけが前面に出ているのですが、ジューザ編から組織として覇権争いが起こるようになります。
ジューザへの下剋上に成功しセミマルを私物化したラディゲはうまくセミマル誕生と共に主導権を握り、ジェットマンたちを壊滅寸前まで追い詰めるのです。
しかし、ギリギリのところで誕生したグレートイカロスによってセミマルが撃破されたことで覇権を失い、仲間内で嘲笑されてしまいます。
その間にグレイ→マリアやマリアと凱、マリアと竜などの因縁をつけておいて、少しずつ後半に向けた布石を仕掛けているのも絶妙なバランスです。
物語の構造としては、前半はどちらかといえばバイラムではなくジェットマンがドラマを作っているため、ジェットマン側に動きがないと敵も動きがありません。
そのためサブライターの回だとあまり動きがなく平凡な話が続くのですが、その中で一定以上のクオリティは何とか保とうとしています。
敵側よりもヒーロー側のドラマが重視されているのは前作「ファイブマン」までの上原・曽田戦隊とは大きく変わったところでしょう。
逆にいえば、前半2クールは敵組織との戦いよりも身内の人間関係の方が遥かにシビアな戦いが繰り広げられているともいえます。
しかし、これだけだとジェットマン側のすったもんだや好いた惚れただけで話が閉じてしまいかねないので、そこで2クール目の締めに裏次元戦士とジェットガルーダを持ってきています。
ここでジェットマン以外の戦士を出すことでジェットマン全員に戦士としての危機意識を持たせることに成功し、また裏次元戦士のシビアな死と引き換えのグレートイカロス誕生は最高のドラマです。
これによってジェットマンの戦いはあくまでも地球の存亡を賭けた命がけのものでありことを強調し、後半に向けたジェットマン側が克服していくべき課題を示しています。
大河ドラマとしてはかなりゆったりとした動きになっているのですが、その上でしっかり濃密なドラマを展開して用意周到に伏線を貼っているのが本作らしいところです。
歴代戦隊でも「物語」に重点を置いた作りになっており、賛否両論はあるかと思いますが、まずは前半戦でしっかり「ジェットマン」としての地固めに成功しました。
ここから後半に向けて竜たちのドラマやバイラムの動きがどのように推移していくのか、とても楽しみです。