明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)41・42話感想

 

第41話「変身不能!基地壊滅」


脚本:荒木憲一/演出:東條昭平


<あらすじ>
変身できない5人の鳥人戦隊は総司令の前にジェットマンを解任され、基地を追い出される。そんな最中、隕石ベムが基地に侵入した。基地壊滅の危機の中、竜たちが帰って来た。ひとかけらの人間らしさもない総司令を見限り、ネオジェットマンジェットマンにバードニックエネルギーを分け与える。ジェットマンの復活だ!

 

<感想>


「あなたは私に対する個人的な感情で、彼等を追放するのですか?! もしそうなら、この私を、追放してください!」
「君を追い出す?ははは、はは……とんでもない、ははは……鳥人戦隊の長官には私がなるべきだったんだ!そう簡単に辞めさせはしない。一生私の下で働き、私と同じ苦痛を味あわせてやる。ははははは、ははははは、はははははは!」


戦隊史上、こんなに醜い司令官同士のやり取りもありませんが、今回のドラマのハイライトは「戦隊メンバー対決」のみならず「戦隊司令官対決」になっているという構図です。
はっきりいってドラマ自体は月並みというかありがちなもので、一条総司令はとても器が小さく性格も矮小な男ですが、第1話から示された本作の積み重ねにより説得力を与えています。
この運命に選ばれた小田切長官と選ばれなかった一条総司令の関係性は竜と柳の関係を通して描かれていますし、また同じ組織内でも特に初期のライバルだった竜と凱から示されたものです。
こうした登場人物同士の生々しいコンプレックスを初期から提示してきたからこそ、ここでの2人の長官のやり取りが劇的なものになっているところに本作の積み重ねをすごく感じます。


一方でバイラムはジェットマン撃退ができたと喜ぶも、実はそれ自体がぬか喜びであり、トランザは敢えて心臓部分のみを抽出して基地内に潜入させるという上手を行きました。


「戦略とはこういうものだ!」


トランザ、ついにここに来て「戦略とは何か?」を語り出すのですが、その実やっていることは「部下の手柄の横取り」であるため、これが結果として失敗に終わってしまいます。
で、ベムはそのまま鳥人戦隊の基地に侵入してしまい、竜たちは基地を追い出されてしまうという状況ですが、ここでちゃっかり者のアコが連絡用のブレスを失敬していました。
こういうさりげないところにキャラクターの成長が織り込まれている辺りが本作のとてもいいところで、竜と凱の友情だけではなく雷太たちもきちんと成長しているのが伺えます。


「私は指揮官だ。そうだ、竜達を呼び戻せ」
「どこまで見下げ果てた人間なの!!」


ここで地球を守る使命にストイックな小田切長官と自分のことしか考えていない総司令の違いが浮き彫りとなりますが、これ一番悲惨なのはこんな上司に使われているネオジェットマンでは?
そして素晴らしいのは改めて小田切長官がネオジェットマンの5人も竜たちと同じように救ってみせるところで、まさに公10の小田切長官と私10の一条総司令の違いが出ています。
で、一条総司令は基地の放棄を決断するのですが、ここでの2人のスタンスの違いもまた素晴らしい。


「基地はいつでも作ることができる。でも、貴方達の命は1つしかないのよ!」
「基地は私のものだ……誰にも渡さん。私が指揮官だあ!」


ここで地位や名誉に固執する総司令にベムが襲いかかり、ブレスから基地がピンチに陥ったのを知った竜たちは自発的に(←ここがポイント)生身でベムと戦います。
この力がなくてもベムと戦ってみせる姿は第一話の変身後でも竜以外まともに戦えない姿とは好対照を成していて、こういうのがのちの「カーレンジャー」「メガレンジャー」にも繋がるのかと思うところ。
そんな旧ジェットマンの5人に感化されたネオジェットマンの5人はヒーローにとって何が大切か、力さえあればそれでいいのかを見直し、ジェットマン5人に力を託す決断をします。


「俺たちは力だけにこだわり、人を愛し、平和を愛する心を忘れていた。俺達は戦士としての力を失うが、君たちこそ、真のジェットマンだ!」


ここでネオジェットマンの似非エリートが単なる憎まれ役で終わるのではなく、双方にとって大切なものを見直し軟着陸させるのは非常に好印象。
実質のニューゴレンジャースーツ強化なのですが、単なるパワーアップではなく「地球を守る正統派ヒーロー」としてのジェットマンをきちんと再構築しています。
単なる男女の惚れた腫れたや昼メロだけではなく、きちんと要所要所で「ヒーロー」「戦隊」であることを忘れない本作のスタンスがブレがなくていいですね。
そして真のジェットマンにもう一段階近づいたジェットマンは今度こそベムに立ち向かう。


「彼らの与えてくれたバードニックエネルギーがバリアとなったんだ!」
「こうなりゃこっちのもんだぜ!」


着々と真の戦隊になって行っているチームの成長を描き、その後はスマッシュボンバーでトドメを刺し、巨大戦はグレートイカロスで綺麗に締めくくりました。


「お前たちの作ったバイオ次元獣など、所詮はただの石ころだ!」
「ヤツさえ邪魔をしなければ!俺は勝っていたのだ……おのれえええ、トランザ!」


ここでトランザの座る王座に剣を刺すところがとても印象的で、着々とバイラム崩壊のフラグが構築されており、やっとここに来て脚本家同士の連携が良くなって来た模様。
戦いを終えた5人の元に長官が駆け寄り、改めて長官は5人をジェットマンに任命…ノリノリの4人にやや斜に構えるも気持ちは同じ凱、こういうカタルシスがきちんとあるのが素敵です。
今回の話は前回の感想でも書きましたが、「帰ってきたウルトラマン」のベムスター編と「ザンボット3」のプロ軍人がザンボットを押収して操縦する回をミックスして前後編に仕立てたと思われます。
焼き直しといえば焼き直しですが、本作らしい人間ドラマもきっちり捻られており、またこれまで竜たちの紆余曲折をきちんと描いてチームにまとまる過程を描いているのでまさにベストタイミングのエピソード。


終盤でクローズアップされる竜とリエ、凱と香、トランザ政権崩壊といった要素を前にきちんと「戦隊ヒーロー」としてのジェットマンを描いて補強しているからこそ、本作が単なる異色作でも問題作でもないのです。
リーダーとして順調に成長している竜といったところを積み重ねて、プラスのジェットマンをここで描いており、また「カーレンジャー」以降、特に「ギンガマン」で突き詰められるヒーローのテーゼも盛り込まれています。
力はなくても生身で立ち向かう旧ジェットマンと力はあるものの心を忘れていたネオジェットマンを下敷きにしつつ、「力があるからヒーローなのではない」ということをここで示して来ました。
この部分を掘り下げたのが小林靖子であり、特に「ギンガマン」「タイムレンジャー」の2作は「力と心の在り方」を歴代でも徹底的に詰めて問う作品だったので、その先駆けとも言えるでしょうか。
評価はもちろんS(傑作)ジェットマン「面白い」だけではなく「楽しい」という感情もきちんと担保されているから大好きです。


第42話「命令!戦隊交代せよ」


脚本:井上敏樹/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
トランザに失敗作として捨てられたテスト用ロボ・G2が、グレイに救われる。戦いの後グレイは、雨の中で凍えるマリアを暖めようとするが、逆に「冷たい」といわれショックを受ける。それを見たG2は命の恩人のため、マリアをグレイの元へ連れて行く。グレイ、マリア、ジェットマンの三つ巴の戦いの中、G2の運命は?


<感想>
さて、ここからいよいよ本格的なジェットマンの決戦編へ入って行きますが、今回はその「嵐の前の静けさ」とでも言うべき静かな、しかしとても本作らしいエッセンスが凝縮された濃密な一本。


構造としては舞台劇のサスペンスものに近いのですが、映像作品としてのルールを大胆に破りつつ、同時に脚本的に様々な要素を濃縮しています。
具体的に挙げられるのは以下の要素でしょうか

 

  • 竜とリエ(マリア)
  • 凱と香
  • 凱とグレイ
  • グレイとマリア
  • G2とグレイ


実に細かい人間関係の網を張り巡らせて展開しながら、しかしそのいずれもが「重ならない一方通行」で終わりを迎え、最後にG2の爆発で終わってしまうという凶悪な構造。
非常に叙情的な一編と言えますが、このG2のエピソード自体が次回登場することになるトランザの強力な巨大ロボという伏線にもなっているので無駄がありません。
ちなみにG2のデザインですが、「ボトムズ」のスコープドッグみたいで、セミマルのサザビー似のデザインといい、どうして本作は所々80年代ロボアニメのテイストが入っているのでしょうか?
さて、まず個人的に気になったのはやはり破局を迎えつつある凱と香ですが、ここで早くも衝突が起こっています。


「香!確かに俺はお前に惚れている!だがな、俺を飼い慣らそうとするのはやめてくれ!」


凱と香に関してはこの後改めて語りますが、ここから窺えるのは凱の求める愛と香の求める愛が違っているということです。
なぜ香がこんな調教みたいなことをしているのかというと、次回で明らかになりますが香の両親に会わせることにあります。
しかし、凱は基本的にそれまで自由に生きてきた一匹狼ですから香のこういう部分とは反りが合わないのも当然の話でしょう。
上級国民と下級国民では立っているステージが違うのですから、生き様や人の愛し方に差が出るのも宜なるかなというところ。


そんな2人をまたもやグレイが襲いかかり、マリアも参戦して追い詰められるのですが、ここで対比としてグレイとマリア、そして凱と香を対比させています。
どちらも両想いのようでいて完全な片思い、しかもその思いが決して重なることはなく、そのまま戦いに突入し、グレイは基地から逃げたしてきたG2を助けました。


「連れていって、一緒に連れていって」
「失せろ!お前に用は無い」


このセリフ回しがいかにも井上敏樹らしいですが、グレイはバイラムに帰ることを拒み、またそんなグレイが機械の体であるばかりにマリアの熱を奪ってしまいます。
どうしようもないこの機械の体と人間の体の違いが示されつつ、皮肉だったのがそのマリアの体を温めに来たのが他ならぬ天堂竜その人でした。


「リエを殺す気か?!リエは人間なんだ、お前達とは違うんだ!」
「マリアはお前に預ける。だがマリアの体が治り次第、必ず奪い返す」


ここで興味深いのは竜はあくまで「リエ」と言い、グレイが「マリア」と言い張るというすれ違いで会話が成立していないことです。
終盤で明らかになりますが、竜は32話以降マリアを「敵」ではなく「救うべき恋人」という個人として見ており、一方で同じように愛する気持ちを持ちながらも、グレイはあくまで同僚としか見ていない。
その大きな差が終盤で現れるのですが、ここから話は急展開し、マリアは決して竜の元には戻らないし、かといってグレイにも憐憫の情みたいなもの以外はありません。


「グレイが……待ってる……グレイが……待ってる……」


ここでいきなりの落石によってG2が倒れるのは完全な御都合主義でしかないのですが、ここで大事なのはそのG2がヒーロー側であるジェットマンに一切認知されないことです。
そして笛を吹いてボロボロのままグレイに呼びかけるのですが、そのグレイに思いは全く届かないまま倒れてしまいます。


「ん?」
「どうした?グレイ」
「風か」


こうして一抹の虚しさだけでがそこに残り、G2は最後に大爆発して「つづく」という衝撃のカットで終わりを迎えました。
どちらかと言えば、今回のストーリーはヒーロー側であるジェットマンではなく、敵のバイラムサイドで物語が進んでいます。
その上でどの登場人物の思いも重ならないまま、完全に全てが自己完結で終わってしまうというのが実に本作らしいでしょうか。
かなりギリギリのところを突いて攻めているのですが、そうした意欲を非常に感じさせる至芸というか凄味が話の中に宿っています。


もちろんだからと言ってジェットマンのヒーローとしての描写がおろそかになるのでもなく、きちんとファイヤーバズーカも拾ってくれました。
本作の徹底して素晴らしいところはこうしたキャラクターの屈折や複雑な人間模様をこの終盤に来ても手を抜かないで表現しているところです。
シリーズ15作目にしてここまでやり抜いているからこそ本作は傑作なのだなあと改めて思わされますが、逆に言えばこのG2爆発は本格的なバイラム崩壊の最初の伏線かもしれません。
無駄だからと切り捨てて大切にしないバイラムがどのように倒れていくのかが楽しみですが、評価はもちろんS(傑作)

 

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