明日の伝説

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『愛國戰隊大日本』感想〜「戦隊」という言葉の本来の意味〜

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<あらすじ>
愛國戰隊大日本のリーダー・神風猛は悪の組織「レッドベアー」との戦いに備えて日々身体を鍛えており、また読書も忘れずに行っていた。そんなある日のこと、書店で立ち読みをしていた猛は「真っ赤な本」に出くわしてしまう。外見はいかにも普通の本だが中身は真っ赤であり、マルクス資本論共産党宣言など全部赤だった。それらは全て「レッドベアー」と名乗る敵組織による計画であり、子供達の教科書をシベリア版に改訂することで日本への侵攻を果たすという遠大な計画である。果たして、大日本のメンバーたちはレッドベアーの計画を止められるのであろうか?


<感想>
さて、次の戦隊に何を書こうか迷っていたのですが、その前に息抜きで一本パロディ作品である「愛國戰隊大日本」の感想でも書いておこうかなと…理由は今庵野監督が旬だから。
庵野監督というとGAINAX出身として「トップをねらえ!」「ナディア」「エヴァ」が有名ですが、「シン・ゴジラ」の大ヒットを皮切りに特撮方面にも進出しています。
今年はそれこそ「シン・仮面ライダー」や「シン・ウルトラマン」もやっていたそうで、そうなればやっぱり庵野監督の特撮の原点といえばこの1982年の愛國戰隊大日本を忘れちゃあかんだろと。
実はこの作品は私ビデオを持っていまして、今はなきβ(ベータ)というビデオで見ていました…単なる特撮パロディに収まらない面白さがあるので、是非とも書いてみます。


まずOPの主題歌の歌詞が物騒で、「もしも日本が弱ければロシアはたちまち攻めてくる」とか「君はシベリア送りだろう」とか、よくこれで映像化できたなと。
今や日本には「戦争」自体が存在せず、完全な対岸の火事になって平和ボケしているからわかりにくい感覚でしょうが、この当時は本当に冷戦の緊張感が半端じゃなかったんですよね。
アメリカもロシアも臨戦態勢で、いつお互いが戦争を仕掛けるかが全く読めず、それこそ核兵器一発あれば簡単に世界が滅びてしまいかねない、まさにそういう時代でした。
しかもその脅威は未だに去ったわけではないから、その意味でもこの作品がフィルムとして世に残っているというのはいいことなのかもしれません。


内容もまた一々冷戦に対する揶揄・皮肉が凄くて、神風猛が日夜身体を鍛えてランニングしてるシーンとか典型的な昭和のスポ根という感じで、今見ると結構シュール。
で、読書シーンでの次のセリフがもう抱腹絶倒もの。


「これは!外見は普通の本だが、中身は赤じゃないか!マルクス資本論共産党宣言、みんな赤じゃないか!!」


直後、書店の店員が敵組織「レッドベアー」の戦闘員だったのに気づいて戦闘態勢に入るのですが、護身用の十手「バンザイスティック」を常備しているという(笑)
日本でそんなものを振り回していたら確実に職質案件なのですが、まあ愛國戰隊自体が軍事組織っぽいからいいのか。
その後、敵を撃退して「ビックリ!きみの教科書も真っ赤っか!」というサブタイトルが出て、敵組織の描写へ。
敵組織の計画は5年がかりで日本人を自分たちの思考に洗脳して染め上げることであった…めちゃくちゃツッコミどころ満載の計画ですが、5年って気の長い話だなあ。


で、本を運ぼうとしていたら、戦闘員の1人が罠ならぬ縄にかかってしまい、なぜか粛清されてシベリア送りに…そこから大日本の5人が出現。


「仲間割れとはレッドベアーもおしまいだな。レッドベアー!貴様らの企みはお見通しだ!」

「子供達に赤の教科書は読ませないぞ!」

「そうよ!子供達を露○から守るのよ!」


いやもうこの右翼も左翼もロシアも全方位をバカにしまくるスタイルが凄いですが、今じゃ絶対規制食らうだろうなという表現ばかりです。
特にピンク役の舞子ユキが言う「露○」は今じゃ絶対に使えない差別用語なので、今見ても凄い表現だなあと思ってしまいます。
そして、意を決して変身する5人。


「大日本!アイ・カミカゼ!」
「アイ・スキヤキ!」
「アイ・ハラキリ!」
「アイ・ゲイシャ!」
「アイ・テンプラ!」
「「「「「戦え!愛國戰隊!大日本!」」」」」


名乗りの形はサンバルカンゴーグルファイブというところですが、今見ると本当に外国人受けしそうな「日本といえばこうだろ?」なイメージの名前。
アイ・ゲイシャだけが見切れてるのは気になりましたが、アクションシーンはとても自主制作と思えないほど凝って撮られています。
特にアイ・ゲイシャの「色街遊び・天国と地獄」は完全にゴーグルピンクの技のパロディなのですが、酒に酔い潰させて高額請求し、参らせるシーンが面白い。
もう結構!資本主義は怖い!」というセリフとかいちいちセンスありすぎて、もうこれだけでもお腹一杯です。


その後も各自技を披露していくのですが、「特攻」だの「天誅ボール」だのと凄まじいネーミングセンスの技の数々が繰り出され、巨大ロボ戰へ。
ダイニッポン・ロボの巨大特撮ですが、ここでロボのスーツアクターをやっているのは他ならぬ庵野監督でして、流石に東映スーツアクターに比べたら動きは素人ですが、巨大感は出ています。
国防シールドで敵を防ぎ、必殺技の日本剣を用いた「愛國富士山返し」によってサメ戦艦怪人を撃破、こうして日本の平和は守られるのでした、おしまい。


以上ですが、流石にドラマ性とかは今日の作品の方が進歩していても、いわゆる「戦隊とは何か?」というのをしっかり押さえていて、非常に好印象の一昨。
特に上原正三大先生がメインライターで担当していた「ゴレンジャー」〜「サンバルカン」までの戦隊の基本構造が何だったのかをパロディによって明らかにしています。
「ゴレンジャー」〜「サンバルカン」までの戦隊はほとんどが軍国主義というかガチガチの公的動機(組織の規律で動く者)で動く戦隊なのです。
本作はおそらくその辺りも踏まえつつ、冷戦とロシアを下敷きにしてパロディしてみせた一作で、それこそシリーズものでいうと「カーレンジャー」の前身とも言えます。


公的動機と私的動機という観点で見ると、この大日本は名前からもわかるように完全な公的動機で動いていて、おそらくは国が認めているとかだったはず。
その軍国主義のおかしさや滑稽さを醸し出しつつ、しっかりと「戦隊」としてまとまっていて、ゴレンジャーボールやその発展系のサンバルカンボールのパロディなども含めて面白い。
本作を見ていて感じたのはスーパー戦隊はもともと「国家戦争」として始まったというところで、そもそも「戦隊」自体が軍事用語だったのです。
仮面ライダーが単独ヒーロー、そしてウルトラマン自衛隊の話だとすれば、戦隊シリーズは正に戦争に駆り出される5人の兵隊というコンセプトになっています。
それが曽田博久の「ゴーグルファイブ」で国家戦争から学生運動をモデルにした「全共闘」へとスライドし、今度は「自発的な闘争」へと切り替わっていくのです。


それからもう1つ、これは「ゴレンジャー」第1話の感想でも触れたかったことなのですが、なぜレッドだけは全てのシリーズに共通しているのかがわかりました。
軍事戦争という文脈と絡めると、戦隊シリーズにおける赤色って「召集令状赤紙」の意味もあるのではないかと…つまり「これから命がけの戦いが始まる」という警告の色です。
思えば「ゴレンジャー」第1話では4人の仲間の元をアカレンジャーが1人1人訪れて「合格」を言い渡し、スナックゴンへ集まるように指示します。
他にこういうことをやった例といえばそれこそ「ジェットマン」は2話かけて竜と小田切長官が仲間集めに行ったり、「シンケンジャー」の第一幕でも家臣たちの元に丈瑠が駆けつけるのです。


スーパー戦隊シリーズにおいて「どのような経緯で戦士になったか?」はとても大事であり、その中心にレッドがいるのは単に目立つ色だからというだけではなく、これから戦いが始まることをも意味します。
アイ・カミカゼこと神風猛もそういう役割を背負っているのだと思いますね…残念ながら第3話しか映像化されてないので、どのようにしてこのチームが結成されたかはわからないのですが。
そういうスーパー戦隊シリーズが元々は何だったのかを受け手に再確認させる、気付かせる役割を担った作品としてよくできており、評価はS(傑作)です。