明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ33作目『侍戦隊シンケンジャー』(2009)47・48話感想

 

 

第四十七幕「絆」


脚本:小林靖子/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
彦馬の忠告も虚しく十臓との死闘に没頭する丈瑠を千明、茉子、ことはの3人が救いに行く。流ノ介は薫姫と丈瑠の間で揺れていたが、その時舵木折神を釣った時に出会った元黒子の人に再会し、「主は自分で選べる」と諭される。その会話をたまたま聞いていた薫姫も思うところがあるのか後ろめたい顔をした。丈瑠と十臓との戦いは凄まじい業火の炎にまでもつれ込み、果たして丈瑠はこのまま外道に堕ちてしまうのであろうか?


<感想>
さて来ました、ある意味ドラマとしてのクライマックスはもうここで頂点に達したというか、「殿と家臣」の関係性に関してはここで決着を見ました。
ぶっちゃけここ以降の四十八幕、そして四十九幕はドウコクとの決戦を前後編に渡って描いているだけですから、ドラマ的な見所は少ないです。
丈瑠と十臓を救いに行く3人の家臣たち、そして姫と丈瑠の間で揺れる流ノ介…ここからして見所満載でした。


「侍として守るべきは姫です!これは間違ってない!ただ、ただ私は……」
「あの殿なら命を預けて一緒に戦える!あんたが言ったんだ。あんたが命を預けた殿というのは志葉家当主という器か!?それとも中身か!?勿論、姫は守らなければならない、当然だ。が人は犬じゃない、主は自分で決められる。どうか、侍として悔いのなきように」


ここで流ノ介の原点である「なぜ丈瑠について行くのか?」を改めてしっかり拾い直して、流ノ介自身の戦う動機にしてくれたのはとても良かったところ。
前回の感想でも述べましたが、本作における「殿と家臣」の関係性は決して「公」ではなく「私」として、つまり流ノ介たち自身の覚悟と意思で紡いで来たものでした。
それをわかっているからこそ彦馬は丈瑠に「嘘だけではない筈」と言ったのであり、千明たちが率先して彼を救いに行こうとするのです。
しかもこれを後ろでたまたま聞いていた姫にも聞かせるようにいうのですからタチが悪いというか、ただまあ確かに姫も姫で家臣たちへの配慮が足りませんでした。


そしてその丈瑠は十臓と闇堕ち寸前の死闘を繰り広げ、いよいよ引き返せないところまでやってくるが、そこに千明たちがやって来ます。
しかし戦いは激化するのみで、丈瑠が究極の一撃を放っても十臓はなかなか死ねないからであることが説明されるのですが、ここで何と裏正が足から抜けません。
妻が十臓を止めに入り、丈瑠との勝負をつけられないまま…ここで素晴らしいのはあくまでも十臓の最期をかっこよく描いていないことです。
丈瑠との死闘で綺麗に追われず、かといって綺麗に成仏することもできず、ただ虚しさだけが残ったまま絶叫とともに爆発。
一連のシーンに私は何も感じるところはなかったのですが、むしろこれは小林女史が意図したところで、我儘を貫いて来ただけの十臓の最期はカッコ良くあってはなりません。


丈瑠にとってもこの戦いは完全に「生物兵器」としての戦いだったからこそ、そこには何も残らず得るものなど全くなかったのです。
当たり前、これは「志葉丈瑠」でも「志葉家十八代目当主」でもない「名無しの強者」としての戦いだったのですから。
そして流ノ介たちは丈瑠を説得するのですが、今回のハイライトはここにあったといえるでしょう。


「嘘じゃないと思います!ずっと一緒に戦ってきたことも、お屋敷で楽しかったことも全部、ほんまのことやから。せやから……」
「俺が騙してたことも本当だ。ただの嘘じゃない。俺を守る為にお前たちが無駄に死ぬかもしれなかったんだ。 そんな嘘の上で何をしたって本当にはならない。早く姫の元へ帰れ」
「丈瑠」
「たく……よけんなよ馬鹿ぁ!今ので、嘘はちゃらにしてやる。だからもう言うなよ、何も無いなんて言うなよ!何も無かったら、俺たちがここに来るわけねえだろ!」
「志葉、丈瑠。私が命を預けたのは貴方だ、それをどう使われようと文句はない!姫を守れというなら守る!ただし!侍として一旦預けた命、責任を取ってもらう!この池波流ノ介、殿と見込んだのはただ1人!これからもずっと!」
「俺も同じくってとこ。まだ、前に立っててもらわなきゃ、困んだよ」
「うちも……うちも同じくです。それに、源さんや彦馬さんも」
「黒子の皆さんもだ」
「丈瑠……志葉家の当主じゃなくても、丈瑠自身に積み重なってきたものは……ちゃんとあるよ」


ここで十二幕で描かれた「殿と家臣」の関係性が1つの完結を迎えるのですが、丈瑠自身を苦しめていた絆が今度は丈瑠を救う希望の光となってくれるというのは見事です。
ただし、ここで勘違いしてはならないのは単なる「救い」ではけではなく「義務」「責任」という部分もしっかり含まれているということ。
「絆」というと、どうしてもプラスの意味ばかりが日本では語られがちですが、語源は「馬、犬、鷹など、動物をつなぎとめる綱」という意味です。
だから、丈瑠にとっては「救い」であるはずの家臣たちとの関係性は同時に丈瑠自身を縛り付ける綱にまでなっていて、丈瑠はそこから自由になれません。


主従関係とはそれだけ拘束力の強いものであり、だから丈瑠自身の苦難はまだ終わったわけではないことがここで示されているのです。
むしろ丈瑠は十臓との戦いで家臣たちとの絆から解放されることをどこかで嬉しく思い、だからこそ望むまで没頭したのではないかと思います。
特に流ノ介の「ただし!侍として一旦預けた命、責任を取ってもらう!」や千明の「まだ、前に立っててもらわなきゃ、困んだよ」は脅迫ですらあるのです。
侍として命を預かるつったのはお前だろ!散々それで美味しい思いして来てトンズラかコラ!!」という感じで、これが任侠映画なら殿が指詰める可能性すらあります。
しかもまだ「志葉家当主ではない」という問題は何も解決していないため、まだまだ丈瑠と家臣たちの問題はこれからという状態です。


そしてもう1つ、丈瑠と家臣たちとは別の絆(こちらは肯定的な意味)が発生するのです、そう、源太と薫姫。
流石に丈瑠と家臣たちだけだと姫と丹波が悪者になってしまいかねないので、しっかり姫の方にもフォローを入れます。
まず丹波を姫がハリセンでぶちのめし、更に怪我から全快した源太がカッコいいんですよ。


「侍達に連絡を。私は先に出る」
「寿司屋で良ければ、お伴するぜ」
「おまえは侍では!」
「頼む」


ここで改めてずっと「丈瑠の幼馴染」というところの関係性でしかなかった陽キャの源太が初めて丈瑠以外の者と関係性を築いた瞬間です。
流ノ介たちとも関係性は深めましたが、それはあくまで「丈瑠を通じて」仲良くなった人たちでした。
しかし、ここで源太が「自分の意思で」姫の護衛をする展開によって源太の男前っぷりというか江戸っ子キャラがいい感じに生きて来ます。
やっと「不思議コメディ世界の住人」から「真の寿司屋」になった源太が姫と最高にクールな絆をこの一瞬で作り上げるのです。


実は二次創作界隈だと丈瑠と茉子、丈瑠とことは以外にも源太と薫姫のCP小説が多いのですが、ここから生じた関係性でしょう。
こりゃあ同人界隈は賑わったでしょうね、これだけ人間関係で色々妄想ができる戦隊も他になかなかないですから。
そのあとのナナシ軍団との戦いで丈瑠もフォローに回り、姫と源太の元に家臣たちも追いつき、改めてフラットな状態で戦闘に。


そのあとは茉子と太夫の戦闘なのですが、こちらに関してはどうも丈瑠と十臓に比べるとややインパクトが薄いのが残念
尺的にドウコクとの決戦に割かなければならない事情もあるのでしょうが、ここをもう少し色気たっぷりに撮って欲しかったところです。
ただ、太夫に関しては茉子にわざと切られることによって自分の執着すらも消そうしていることが対比されていました。
まあ一番の理由は女同士のキャットファイトはどうあがいたってカッコよく見せられないということなんでしょうが。


そしてその太夫の死と引き換えのようにして、遂にドウコクが復活しました。
ズルいなあ、ドウコクは出て来ただけで今までの諸々を「しゃらくせえ」で吹っ飛ばしてしまえるのですから。
しかし、ドウコクが出てくる前に終わらせるべき人間関係は全て精算させ、改めて序盤から拾って来たものを丁寧に拾い上げています。
丈瑠と十臓、そして茉子と太夫の因縁を挟み、更に殿と家臣、そして姫と源太の二重の「絆」が描かれることで闇から抜け出すことに成功。


夜明け前が一番暗いとも言われますが、今まさにこのタイミングこそが最も暗い夜明け前なのでしょう。
ここからどう最高の朝日へ持っていくか…評価S(傑作)。描くべき本作のテーマがしっかり結実しました。


第四十八幕「最後大決戦」


脚本:小林靖子/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
長い間丈瑠と家臣たちを隔てていた嘘が終わり、茉子もまた太夫との因縁を終了させた。しかし太夫の死と引き換えに、遂に血祭ドウコクが復活してしまう。家臣たちと丈瑠は封印の文字を使う姫のフォローに回り、封印の文字を発動するが、太夫の体を取り込んで弱点を克服した今のドウコクには効かなかった。封印することができなくなったシンケンジャーは果たして、ドウコクを打ち倒すための策があるのだろうか?


<感想>
さあ、いよいよ来ました…ドウコク復活!!


四十幕以来となるドウコク出陣ですが、これがもう圧倒的に強い。
流ノ介がスーパーシンケンブルー、そして千明が恐竜折神を使うのはパワーバランスとして良かったところで、特にずっと忘れられていた恐竜をここでまた使ってくれたのは良かったです。
ただし、それでもドウコクは圧倒的に強く、姫が封印の文字を使うまで持ちこたえるのも厳しいほどでしたから、歴代でも上位に入る屈指のラスボスではないでしょうか。
そして丈瑠もまた奥の方で何かあったときのために配備していて、全体的にすごくいい立ち位置にあります、というかフォロー役としても美味しいなあ殿。


で、何とか封印の文字には成功したものの、ドウコクが太夫の体を取り込んだことで変質しており、隙が亡くなっていました。
そのため封印することができず、姫も家臣たちも満身創痍となってしまい、丈瑠が一旦撤退することに…ここで元々のドウコクの強さに加えて「封印の文字」すら効かないことで、倒すしかなくなったのです。
封印の文字は序盤から示されていたのできっちり回収して使ってくれたのは良かったし、カッコよかったのですが、流石に封印して終わりというのは嫌だったので、うまく回避してくれました。
撤退した後ですが、ここでことはをはじめ家臣たちが丈瑠だけではなく姫様にもきちんと心配しているのはよかったところで、姫も丈瑠も大事にするのが筋を通していてよかったです。


そして今回のドラマとして最も色気ある丈瑠と薫姫の一対一のやり取り…今までまともに顔を合わせて話したことがないだけに、ここでのやりとりは一番好き。


「許せ。丹波は私のことしか頭にないのだ」
「当然です」
「ずっと、自分の影がどういう人間なのかと思っていた。私より時代錯誤ではないな。私は丹波のせいでこの通りだ。でも……会わなくても1つだけわかっていた。きっと、私と同じように独りぼっちだろうと……幾ら丹波や日下部が居てくれてもな。自分を偽れば、人は独りになるしかない」
「それでも、一緒に居てくれる者がいます」
「あの侍たちだろ。私もここへ来てわかった。自分だけで志葉家を守り、封印までなど、間違いだった。独りでは駄目だ」
「俺もやっとそう思えるように……」
「丈瑠、考えがある」


短いやりとりですが、ここで「光」である志葉薫と「影」であった丈瑠が会話を交わし、姫が自分の思いを丈瑠だけに吐露するのがよかったところ。
同時にこれまでずっと完璧超人な男前だった姫が一気に女性らしく見え、やっと丈瑠に「私」の部分を見せ、丈瑠もここで初めて「私」を見せます
志葉家の宿命に翻弄されて孤独な2人が近づき、初めて和解する…ここでずっと溝があった2人が急接近してお互いの孤独を理解することで、ストレスからのカタルシスとなるのです。
しかしもっと思うのは本作のサブテーマの1つが「ディスコミュニケーション」、すなわちお互いにやり取りや段取り、根回しをしなかったこともまた原因だったことが示されています。


このように和解できるのであれば、最初からきちんと会って話をしておけば、丈瑠から姫に代わった時も上手く引き継ぎや交代式ができたのではないかと思うのです。
ああ、もしかして武家社会でひっそり暮らしているうちに、あまりにも現代社会の感覚とズレが出てしまったのかなあ……なんか切ないものですね。
しかし、ここで改めて姫と丈瑠が宿命のために自分を押し殺して生きて来たと示されたことで、本作の「ヒーロー性」と「人間性」が反比例であると示されることに。
まじで先代シンケンレッドはこの2人並びに家臣たちに詫びるべきだと思います、状況的に仕方なかったとはいえ影武者なんて考えなければこんなことにならずに済んだのですから。


そして翌朝、薫姫は意を決して志葉家十八代目当主から降り、その代わりに丈瑠が改めて堂々と入場し、志葉家十九代目当主として座ることに。


「私の養子にした」


何と薫姫が丈瑠の義母となるという衝撃の展開…影武者よりもむしろこっちの方が驚きましたよ私は。
多くの視聴者は丈瑠を当主にするために「結婚」という形も考えられたと思うんですよ、私はしませんでしたけど。
でもそれは「マジレンジャー」のヒカル先生と麗で使ったパターンですし、それだと結局「愛」で逃げることになります。
本作における「絆」「殿と家臣」という主従関係の絆は決してそんな「愛」どうこうでどうにかなるものではありません。
だからこそ、「養子」にするという形で絶妙に回避し、丈瑠も薫姫も、そして家臣たちも彦馬も救うという最強の寸法です。


実際時代劇でも養子にする展開自体は昔からあったので珍しい話ではなかったのですが、ここでそれを用いるところがさすがは小林女史。
それまで幾分戸惑いがあった家臣たちも、今度こそ正式に丈瑠が当主として復活したことでわだかまりがなくなりました。


「無礼者!年上であろうと、血が繋がってなかろうと、丈瑠は私の息子、志葉家十九代目当主である!頭が高い!一同控えろ!」
「「「「「ははああああ!!」」」」」


ここで改めて薫姫の男前ぶりも描かれており、演技力には若干の難があったものの、丈瑠を当主として正式に戻すことで6人が正式なシンケンジャーとなる。
十二幕の段階だとまだどこか後ろめたさや距離感もありぎこちなかったのですが、今度こそ晴れて真の志葉丈瑠に、そしてシンケンレッドになりました。
そしてここからのドウコクを倒す策が「力尽く」というのもやはり過剰武装でパワーアップして来た丈瑠たちらしいなと。
一応フォローはしてましたけど、やっぱり本作の強さはあくまでも志葉家当主の力にあったことが示されています。


確かに封印の文字で多少なりダメージは与えていて全快していないので、と焦る可能性があるだけでも大きいです。
ただし、ギリギリの戦いにはなるので勝率としては50%といったところか…というところで、三途の川が溢れ出し、クジもまた溢れ出します。
ここで丈瑠が家臣たちと共に威風堂々と出陣するところがもうね、最高にかっこいい。


「殿の御出陣!」


ここで丈瑠の背中を見送る彦馬爺の顔と声が嬉しく、そして誇らしげでとてもいいなあと思うところです。
決してシンケンジャーのメンバーたちがこの1年で築き上げて来たものが嘘ではなかったことが示されます。
大量に溢れかえったナナシ連中を前にしながらも、威風堂々と揃ったシンケンジャーはまさに「真打登場」という感じです。


「おお、いるねえ」
「久々の殿様ご出陣だ!こんぐらいじゃなきゃなあ」
「どうあっても外道衆は倒す!俺たちが負ければ、この世は終わりだ」
「「「「「はい(おう)」」」」」
「お前達の命、改めて預かる!」
「もとより!」
「当然でしょ」
「何度でも預けるよ」
「うちは何個でも」
「いや、一個だから!」
「じゃ、俺たちは2人合わせて、更に倍だ!」
「持ってけ泥棒!」


ここで改めて6人揃ってこそのシンケンジャーと示した上で、最後を決戦前の名乗りで締めくくります。


「シンケンレッド!志葉丈瑠!」
「同じくブルー!池波流ノ介!」
「同じくピンク!白石茉子!」
「同じくグリーン!谷千明!」
「同じくイエロー!花織ことは!」
「同じくゴールド!梅盛源太!」
天下御免の侍戦隊」
「「「「「「「シンケンジャー、参る!」」」」」」」


さあ、いよいよやって来ました。ドウコクとの最終決戦、ドラマ的な見所はほとんど消化しましたが、嬉しかったのはやはり丈瑠と薫のやり取りが入ったこと。
そして改めて丈瑠を真の当主に返り咲きさせるための絶妙な策を用意していること、しっかりお膳立てが整いました。
評価はS(傑作)、心置きなくドウコクとの最終決戦に挑みます。

 

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