明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ30作目『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)11・12話感想

 

Task11「孤島の決戦」


脚本:會川昇/演出:竹本昇


<あらすじ>
大邪竜ザルドとギラドの強力タッグ攻撃によってダイボウケンは完敗し、ダイボウケンは大邪竜2体の手によって連れ去られてしまった。一方、波右衛門の人形に隠されていた地図を見てから、様子がおかしかった暁は、ダイボウケンから脱出せず、ひとり、活動停止したコクピットの中に残るが……。


<感想>
さて、「ボウケンジャー」1クール目の実質のクライマックスであるこの決戦編ですが、前回までを踏まえて1つの美しい形に集約されました。
結論から申し上げるなら、やっぱりチーフはただ仲間を置き去りにしてでもプレシャスが欲しかっただけという、真墨が言う通りただの「冒険バカ」でしたということに。
さらに申し上げるならこの人は昭和のワーカーホリック体質もある人なので(リアルに「24時間戦えますか?」を実践している人)なので、冒険バカ+ワーカーホリック=冒険ホリックという称号を贈呈します。
そんなチーフの取った独断専行を残された4人は「自分たちを危険に巻き込まないようにするため」といい方向に解釈していますが、本人は全くそんなことはありません。


まあそんなチーフの独断専行に同族嫌悪の観点から気づいているのは真墨1人であり、あまりにも自責の念が強いさくら姉さんに対して素敵な助言を。


「悪いのはまた仲間を置き去りにした明石だろ。見つけたら、思い切り殴ってやれよ!な?」


わかりますかね?セリフ自体は短いですが、まずチーフがやっていることを決して美化せず独断専行と容赦なく切り捨て、チーフに会ったら何をすべきかまで助言し、さらに「な?」と寄り添うというこの凄さ。
後に真墨はチームにとって欠かせない存在へと成長し頭角を現していくのですが、さくら姉さんの心情を慮った上で状況整理と対策と心配を全部やっちゃう高度な会話術は彼にしかできません。
チーフは基本的に「正論めいた詭弁」しか言わない人なので(「俺様は冒険が全てだ!」という冒険ホリック)、とにかく24時間365日頭の中は冒険しか考えていないのです。
だから、(蒼太、菜月、みんな悪いな。だがここは俺一人で行くしかなかったんだ)と一見仲間を心配している素ぶりを見せつつ、彼らの奥底の心情への思いやりが全く足りていません。


チーフって自分が強い人間だからこそなのでしょうが、弱い者の苦悩や葛藤にまで気が回らないのが今回はかなり裏目に出てしまった感じですね。
まあそんなだから過去に冒険仲間を失うことになってしまったわけですし……要するにどう綺麗事で糊塗したところで仲間を裏切ったことに変わりはありません。
そしてもう1つの裏切りがネガティブシンジケート側でも発生していて、ガジャ様がリュウオーンを裏切ったわけであり、ボウケンジャーとネガティブシンジケートはやってることが同じと示しています。
しかし、そんな状況があっても真墨たちはその宝の地図をヒントにチーフの元へ追いつき、尺のほとんどがチーフに割かれていながらも、最後は仲間たちがしっかり追いつきました。

 

 

「チーフ、スーパーリミッターは、解除してあります」
「テスト無しであれを試すつもりか。そいつは」
「ちょっとした冒険、ですよね!」
「フッ……よし、行くぞ!超轟轟合体だ!」
「「「「「スーパーダイボウケン、合体完了!!」」」」」


ここでTask4、Task7を踏まえて戦隊シリーズの本質の1つである「団結」をロボットの「合体」で表現するという技巧をしっかり凝らして持ってきたのは見事です。
まあぶっちゃけこのスーパー合体自体はあまりにもゴテゴテしすぎではあるのですが、「ゴーオンジャー」「シンケンジャー」に比べれば全然まとまっている方ではあるのでまだ見られます。
何より「戦い」以外の用途がきちんと設定されているために違和感がなく、紆余曲折あったもののチームの絆は表向き強まりました……まあ裏で真墨とさくら姉さんが頑張ってくれたおかげですが(笑)


「9つのパラレルエンジンを直結させる。失敗すれば吹っ飛ぶぞ!いいな!」
「はい!」
「うん!」
「うん」
「ああ。5人の心を合わせるんだ!」
「ブラックらしくないアドバイスですね」


この流れも見事で、一見協調性がなさそうな真墨が実は一番協調性があって仲間思いであり、チーフは逆に仲間思いと見せかけて実はとんでもなくわがままで単独主義というのが表面化してきました。
つくづく思うんですが、チーフってマネージャータイプじゃなくプレイヤータイプだからどう考えてもリーダー向きじゃないのですが、表向きのカリスマ性みたいなのだけはあるのですよね。
ロボアクションは非常によくできたカタルシスであり、ボウケンジャーがひとまず「チーム」としてまとまるという集約を見せてきたのは非常に好感が持てます。
今やっている「ドンブラザーズ」の方が予想の遥か斜め上をやっているため、本作がいわゆる「いつもの戦隊」をきちんとできていることに安心感を覚えるのですよ。


そしてガジャ様たちを撃退したチーフは改めて蒼太たちに事情を説明するのですが、ここでいよいよ冒険ホリックとしての地金を出します。


「だって宝の地図だぞ!カーッと熱くならないか!?」


ここで4人中3人が「へ!?」と呆気にとられる中、1人だけ「やっぱりな」と真意に気づいていた真墨だけが呆れた反応を示す。


「そしたらダイボウケンがさらわれそうになったんで、これで地図の島に行けるって思わず体が動いてた」
「やっぱり駄目だ、こいつはただの冒険バカだ」
「命令して下されば、どこまでもついていきました!」
「冒険は命令されてするもんじゃない。だからお前たちにはヒントだけ残しといた。そして、お前たちは自分たちの意志で来た、それでいいんだ」


ここで改めて本作の戦いの動機が私的動機であることがチーフの口からはっきりと示され、本作の公私の比率が決まりました。
本作において「命令=公」で動くさくらだけが規律を頑なに守ろうとし、後のみんなはなんだかなんだ個人的動機で動いているのです。
そしてチーフが「いい話」としてまとめ上げるのではなく、冒険ホリックとしての本性を包み隠さずドヤ顔で全員にさらけ出すというのが反応として秀逸。
だからこの人って統率力は確かにあるのですが、それは「まとめる力がある」というより「カリスマ性に仲間たちがくっ付いている」という感じです。


これは前回も言いましたが、本作がしっかり「戦隊」としての作劇の基本を守りつつ、00年代戦隊の括りで見ても異色なのは普遍的なヒーロー像へと安易に着地していないこと。
スーパー戦隊シリーズにおいては「ジェットマン」以降いかにして「等身大の正義」を普遍的な公的大義に繋げていくのか?というところが重視されていました。
しかし、本作ではそこを決して普遍的なヒーロー像へ繋げるのではなく、むしろボウケンジャー=正義のヒーロー」と「5人の冒険者たち=私人」というわけかたをしています。
その上で戦隊としてまとまるところはまとまりつつ、それですらあくまで個人の決断が重なった結果でしかないという、「タイムレンジャー」の延長線上といえるわけです。


Task7を経てチーフがもはや単なる冒険ホリックでしか無くなってしまったわけですが、本作の凄いところは決してそれをチーフマンセーへ持っていかないこと。
ラストシーンで、真墨のアドバイスをしっかり覚えていたさくら姉さんが腹パンをかましてチーフが倒れるという……これに関しては完全なチーフの自業自得です。
視聴者としても「このクソ野郎!」とチーフの独断専行が行き過ぎていたのでそこをなかったことにせずしっかり責任を取らせるのはよかったのではないでしょうか。
思えば「ニンニンジャー」の天晴はこの辺りの線引きがなあなあで天晴マンセーにしかなっていないので、やっぱりキャラクターに対してしっかりシビアになれるかどうかが大事です。


総合評価はS(傑作)、改めてTask7のステップアップを踏まえて初期から提示してきた要素がしっかりまとまり、1クール目の集約として見事でした。
そして次回はメンバーでほぼ唯一公的動機で動いているさくら姉さんに再びスポットが当たりますが、「ボウケンジャーとはどんなヒーローか?」をしっかり構築することに成功。
この基礎基本すらまともにできていない戦隊が今同時で見ている中で多いので、本作が相対的に大傑作に見えてしまうという異常事態が怒って起こってしまっています(苦笑)


Task12「ハーメルンの笛」


脚本:小林靖子/演出:竹本昇


<あらすじ>
13世紀、ハーメルンで子供たちを連れ去った男が吹いていたプレシャス=ハーメルンの笛を巡りボウケンジャーダークシャドウは激突するが、さくらの機転によりなんとか笛を回収した。しかし、菜月は仲間よりも笛を優先したかのようなさくらの行動に不安を抱き、さくらに真意を訊くのだが……。


<感想>
今回の話は「タイムレンジャー」以来6年ぶり、ライダーでは「龍騎」以来4年ぶりとなる小林靖子女史が参戦となりますが、この頃に入ると円熟味を増してきましたね。
Task7のチーフ、Task9の真墨に続いてさくら姉さんは元自衛隊の特殊部隊に所属していたという納得の背景が明かされましたが、ここで公的動機をしっかり入れてきたのはよかったところです。
思えば戦隊ピンクとして見ても「タイムレンジャー」のタイムピンク/ユウリ以来となるクールビューティー系のピンクですが、その系譜をしっかり受け継いでいるせいか小林女史の筆致も乗っています。


「既に落ちてしまった以上、出来ることは何もありません。優先すべきはプレシャス回収。そうでしょ?」
「さくらさん、2人が心配じゃないの?」
「心配ですよ!でも、任務があったでしょ」


え?前回までのあの深刻さはどうしたの?と言わんばかりにハッチャケているさくら姉さんですが、本作の良識派だったさくら姉さんこそが実は一番とんでもない思考回路を持った人でした。
まさに「ブルータス、お前もか!」なのですが、本作の侮れないところは一見ヤバそうな真墨が意外にも「いい人」で、一見頼れそうなチーフやさくら姉さんが実はとんでもなくぶっ飛んだ基地外というのが面白いです。
更にチーフが「冒険ホリック」という私的動機、さくら姉さんが「職業軍人」という公的動機に振り切れており、ある意味では釣り合いが取れている2人ともいえます。
そんな非情ともいえるさくら姉さんの合理的すぎる判断に戸惑いを隠せない菜月を真墨がしっかり汲み取るのです。


「確かにさくら姐さんは間違ってないんだけどな……」
「ま、女性としてはもうちょっとこう、可愛げがね」
「菜月が言っているのは、そういうことじゃないの」
「俺たちは冒険のプロであって戦闘のプロじゃない。仲間が死ぬかもって時に、ああ冷静にはなれない」
「そう、そういうこと!さすが菜月の気持ちわかってんじゃん。さくらさん、頭もいいし頼りになるし、菜月すっごい尊敬してるけど、菜月の目指す冒険者とはちょっと違うかなあ」
「安心しろ。お前はなろうと思ったって、さくら姐さんみたいにはなれやしない」


まあ明らかに論理的思考で動いている人と直感的思考で動いている人ですからね、あまりにも違いすぎる。
また、真墨の「冒険のプロであって戦闘のプロじゃない」というセリフは同じ小林女史が脚本を担当した「ゴーゴーファイブVSギンガマン」を彷彿させます。
あの作品では確かマトイ兄さんに「リョウマ!お前たちは俺たちとは違う戦いのプロだ!だがな、要救助者がいる限り、こいつは救急(レスキュー)だ。救急を戦いのプロなんかに任せられるかよ!」と言わせてましたね。
小林女史自身「ギンガマン」で戦闘のプロ、「ゴーゴーファイブ」で救急のプロを描いていますから、そのあたりの違いをしっかり俯瞰して書き分けることができる人なのでしょう。


もはや今回は今までのおとなしさは何処へやらと言わんばかりのさくら姉さん無双ステージであり、はっきり言って他の4人はほとんど蚊帳の外と言っていいレベルです。
特に真墨、蒼太、菜月は完全に下僕に成り下がってしまっており、前回チーフに正拳突きをかましたことで吹っ切れたのか、途端に圧倒的強者のオーラを出してきました。
それにしても「一見ヤバそうだけど実は意外に話がわかるやつ」の黒、そして「一見良識派だけど実はとんでもないタカ派」の桃というのは「ドンブラザーズ」にも通じるところが(笑)
あっちも犬塚が意外に普通そうですし(やっていることは明らかな犯罪ですが)、逆に一番良識派っぽい雉野が実は一番ぶっ飛んだヤンデレですからねえ。


同時配信で見ている戦隊の横の並びは今年はどうも過激路線というか、どれもぶっ飛んだ作品ばかりですねえ。
だって生身で伝説の武器を構える戦意剥き出しの古代恐竜人類、明らかにやばい過去を持ち合わせた冒険者たち、ラストニンジャになるためなら身内の殺し合いも平気な従兄弟たち……。
更に現役で放送されている戦隊があの「ドンブラザーズ」ですし、今年の戦隊はとにかく狂気が濃色120%の作品ばかりで、ある意味充実してはいます(苦笑)
ラストでは菜月のなかでさくら姉さんが憧れの冒険者の1人となり、これまで大人しかったさくら姉さんも一気にこの回で頭角を現しキャラ立ちしました。


今の所キャラ立ちがしっかりしているのはチーフはもちろん真墨とさくら姉さんですが、反面まだくすぶっているのが蒼太と菜月の2人です。
蒼太は色々技巧派というか老獪かつ軽快な男としてキャラ立ちしていますが、一番パンチの弱い菜月が中々キャラ立ちしません。
総合評価はA(名作)、前回までを踏まえて2クール目に向けて弾みをつけてくれました。

 

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