明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ30作目『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)9・10話感想

 

Task9「折鶴の忍者」


脚本:會川昇/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
江戸時代に国禁を犯して貿易を続けた冒険商人・唐物屋波右衛門が残した珍品のひとつ「波右衛門の人形」をサージェスは長年の交渉を経てついに譲り受けることになった。 ミスターボイスの指令で人形を受取りにいったボウケンジャーだが、そこにはすでにサージェスを名乗るひとりの女性が…。


<感想>
今回からTask11までは三部作であり、実質的な基礎土台固めということで、かなりカロリーの高い回が続きます。
やはりTask7でチーフのバックボーンをしっかり掘り下げたのが良かったのでしょうか、會川先生もやっと戦隊シリーズに馴染んで来たなあというのがわかる回です。
その第一弾が闇のヤイバですが、今回は真墨のバックボーンに焦点を当てており、1話からかなり尖った感じを出していた真墨のキャラがしっかり描かれたのはとてもよかったところ。
そんな真墨の過去ですが、チーフと違って「自分が原因で壊滅させてしまった」のではなく「不可抗力の存在によって壊滅させられた」というのが大きな違いでしょうか。


真墨を見ていると「菜月に対してデレデレ」以外は私と割と近い部分があるなあと感じていましたが、トレジャーハンターとしての小さい頃の過去は私が小さい頃に近い感じです。
そんな彼と闇のヤイバの一騎打ちが今回の見どころだったのですが、うん、今週配信の「ニンニンジャー」の天晴と蛾眉の一騎打ちを見た後だけに、とんでもない大傑作に見えてしまいました。
同時配信の恐ろしいのはこういうところで、本来であれば「普通に面白い」レベルのものが同時で見ることによって「とんでもない大傑作」にまで昇華されてしまうことがあります。
今回のボウケンブラックと闇のヤイバの一騎打ちは双方のキャラクターのバックボーンがしっかり乗っかった上で、今後も非常にいい展開をしてくれるであろう名勝負です。


基本的に私は戦隊シリーズでは二番手のブラックやブルーより主人公のレッドが好きなのですが、本作に関してはどうしてもレッドのチーフより二番手の真墨の方に思い入れが発生してしまいます。
さて、そんな彼の活躍が描かれていたのですが、リアルタイムから疑問に思っていたのはどうして保護者のようにしてチーフが後ろで見守っていたのか?ということです。
4話でチーフがかつての冒険仲間を喪失した過去が描かれていたことと併せて考えると、多分大きな理由として「真墨の戦いが「復讐」にならないようにするため」ではないでしょうか。
終盤の展開まで知った今だからこそというのはあるのですが、真墨の心の闇はヤイバの存在によって発生したものなので、下手すればそれに呑まれかねない可能性があります。


復讐を明確に否定した戦隊シリーズ史上の大傑作である『鳥人戦隊ジェットマン』と『星獣戦隊ギンガマン』を経て、以後のスーパー戦隊シリーズはいかにして「復讐」によらない戦いをするかに腐心していました。
特にこういう「過去の因縁」という要素がある宿命系の戦隊の場合はよりその「復讐」という要素が乗っかりやすい反面ストレートにそれを描くと露骨にダークな作風となってしまうのです。
そしてそれはスーパー戦隊シリーズのみならず、「同族殺し」を本テーマとしている「仮面ライダー」から抱えていた要素であり、仮面ライダー/本郷猛の戦いだって見方を変えれば「復讐」と言えなくもありません。
だってそうじゃないですか、自分の体を勝手に改造して世界征服に利用するなんて本郷猛のように人間の自由を愛する純粋な青年からすればそれは自分の意に反することなのですから。


市川森一氏がなぜ仮面ライダーのテレビ版制作に際して「人間の自由のためにショッカーと戦う」というキャッチフレーズを考案したのかというと、理由の1つは「復讐の否定」にあったでしょう。
もしその大義名分がなくて、単に「自分の体を勝手に改造して自由を奪いやがった奴らだから殺す」となればそれは単なる復讐鬼の物語になってしまうわけであって、そこを本郷や後付けで入った一文字にはさせていません。
思えば、続編の「仮面ライダーV3」で風見志郎や結城丈二を通して「復讐」というテーマと向き合って描いたのも、おそらくその辺りのことと決して無縁ではないでしょうし。
実際その後もXやゼクロス、BLACKなど昭和ライダー全体が抱えていた戦いの動機の1つに「復讐」があって、いかにしてその「復讐」を避けながら戦うか?ということにありました。


この仮面ライダーにおける「復讐」という要素はまた別で記事を書きますが、話を戻すと本作の闇のヤイバやそいつと繋がっているシズカが忍者モチーフなのもその辺りと繋がっているのかもしれません。
そもそも仮面ライダーの「敵組織からのドロップアウト組」という発想やライダーのデザイン自体が白土三平先生の「カムイ外伝」などに代表される「抜け忍」というところに着想を得たものです。
しかも奇妙なことにこの時代はちょうどジャンプ漫画の「NARUTO」でもサスケが抜け忍として木の葉の里を裏切って暁側についたということが大きな話題となった時代でした。
そういう時代性のようなものも取り入れつつ、チーフという冒険バカを挟むことによって真墨と闇のヤイバの戦いが「復讐」に陥らないようにチーフをバックとしてつけたのでしょう。


スーパー戦隊シリーズの一騎打ちで「復讐」という要素がクローズアップされた例だと、それこそ「ジェットマン」終盤の竜とラディゲだったり「ギンガマン」の黒騎士ブルブラックだったりという例はあります。
しかし、これらの戦いでも最終的に「復讐を遂げたとしてもその後には何も残らない」という虚しさが募るのみだったわけであり、ブラックの真墨が「光」の力で戦っている理由もそこにあるのだろうなと。
そしてその個人の因縁が関係する戦いに公私共に仲のいい菜月を同伴させなかったのは真墨の良心の呵責だったわけであり、真墨の性格があれだけ尖っているのも闇のヤイバがその元凶だったと示しています。
今回ではとりあえず真墨の勝ちで終わったものの、終盤までなんども争う関係性となり、チーフとリュウオーンとはまた違った真墨の「復讐」をここでピックアップしたのは良かった点です。


また、それ故にこそ今回は赤黒の二強と闇のヤイバ、そして残りの3人と風のシズカという形で分けたのは絶妙でしたし、「ニンニンジャー」に足りないのはこういう基礎土台の構築なのだなあと。
だから「ボウケンジャー」も作劇やモチーフ自体は歴代でも相当に異色でありながら、根底の部分できちんと「戦隊ヒーロー」としての一線を守っているところが好感が持てるところです。
何よりも、これまでメンバーのツッコミ役として機能していた真墨がしっかりバックボーンを含めてキャラ立ちしたのはとてもよく、総合評価はS(傑作)


Task10「消えたボウケンレッド」


脚本:會川昇/演出:中澤祥次郎


<あらすじ>
ボウケンジャーは1組の人形のうち、ダークシャドウの妨害により片方の人形しか譲り受けられなかった。しかし、波右衛門の人形はプレシャスではなかった。一方の人形をダークシャドウに強奪を依頼したのはゴードム文明・大神官ガジャ。今度はジャリュウ一族と共闘し、ボウケンジャーから人形を奪い取ろうと計るのだが……。


<感想>
ボウケンジャー、もう一体の波右衛門の人形を必ず取り戻せ。そしてただちに二体とも焼却処分するのだ。これは命令だ」


改めて見直すととんでもねえブラック企業だなサージェス!
今なら確実に労働基準法はもちろんのこと脱税その他諸々で訴えられてもおかしくないであろうブラックぶりをいよいよここで露呈させてきました。
思えば同年の「仮面ライダーカブト」のゼクトもサージェスに引けを取らないレベルのクソ組織で、この時代はヒーロー作品でもこういうブラック体質の組織が描かれていますね。
そして今回はほぼ初めてと言っていいほど単独行動を取ったチーフですが、それに対してライバルと認定している真墨はこんな風にフォローしています。


「あいつは闇のヤイバとの勝負を俺に託してくれた。気持ちがわからない奴じゃない筈だ」


真墨、気持ちはわかりますがそれは限りなく正解に近い誤解なので、決してチーフを買いかぶってはなりませんよ!(笑)


チーフはそんなこと考えていません、これまでの状況を考えると一見チーフが「大局的に物を見据えながら動く冷静沈着なリーダー」に思えますが、彼の本質はそこにありません。
次回明らかになりますが、表向き「理想の上司」として見せているチーフのそれはただの仮面であり建前であって、本質はただ冒険が楽しければそれでいいというトレジャーハッピーですから。
ただし、こういうところにこそ「ボウケンジャーとはどんなヒーローか?」が深く見えるところであって、私がいわゆる戦隊シリーズのチームカラーを分類するときにどうやって算定しているかを今回は紹介します。
昨日Twitterのスペースで「公的動機と私的動機」を話した時に、「メンバーの決断が試される場面でどう動くかによって、その戦隊が公的動機で動いているのか私的動機で動いているのかが決まる」と私は言いました。


まさに今回はその「メンバーの決断」が試されたところであり、本作はチーフの思惑と真墨たちの困惑、そして理不尽なサージェスの命令などあらゆる要素が盛り込まれていました。
そしてチーフは独断専行を選びメンバーを見捨てるという非情にも思える選択をし、そして真墨たちもまた自分たちの決断でどうするかが問われているのです。
本作を公的動機と私的動機で分けるならば確実に私的動機が強いのですが、それは決して「冒険が好き」というだけではなく、チーム全体の動き方にあります。
ボウケンジャーはあくまでも個人事業主の集まり」であり、元々スパイだったりトレジャーハンターだったりといった過去をそれぞれに持つ者たちです。


それが「自分だけのプレシャスを集めたい」という利害の一致によってたまたまサージェスに集まっているに過ぎず、自分の責任は自分で持つしかありません。
誰かがフォローするわけではなく、だから遺産の破壊ですらも平気で行うわけですし、世間一般からは「サージェスは信用ならない」と言われているのです。
その辺りの構図が前回の真墨VS闇のヤイバという復讐をテーマにした構図によって浮き彫りとなり、こういう突っ込んだところになると話が見えてきます。
序盤でいきなり中盤の山場レベルのハードルを設定している本作ですが、それを通してボウケンジャーとはどんなヒーローか?」が示されているのが秀逸です。


ただまあチーフにしてもサージェスにしても、私はこんなダメな大人には絶対についていきたくありませんけどね(苦笑)
でもそんなチーフに対してすら「最高の上司!」と持ち上げて崇拝しているファンすらいるのですから、世の中本当に「ダメンズに惹かれる人」というのは一定数いるようです。
総合評価はS(傑作)、ここまでの流れを受けてどのようなオチへと持って行くのかが楽しみ。

 

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