明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ30作目『轟轟戦隊ボウケンジャー』(2006)1・2話感想

 

Task1「魔神の心臓」


脚本:會川昇/演出:諸田敏


<あらすじ>
5人の精鋭部隊・轟轟戦隊ボウケンジャーの今回のミッションは、海底神殿に隠された「ゴードムの心臓」と呼ばれる未知のエネルギーシステムの確保。ボウケンレッドは、ブラックとイエローに探索を命じる。海底神殿の中、仕掛けられた恐ろしいトラップを乗り越えて、二人はプレシャスを手にすることができるのか?


<感想>
普通に面白かった。


現在同時配信で見ている「ジュウレンジャー」「ニンニンジャー」「ドンブラザーズ」がいずれも掴みの段階がイマイチな中で、相対的評価としても単品での評価としてもなかなかいい感じの1話でした。
流石に「ジェットマン」「ギンガマン」みたいに1話の時点で完璧というわけではありませんし、やっぱり會川脚本は理屈っぽいなあと思いつつも、今見直してみるとかなり高いクオリティでまとまっています
役者さんが全員それなりに演技ができるのもあるのでしょうが、役者とキャラのシンクロという意味では「ボウケンジャー」が今のところ感想を並行している作品群の中では一番トップクラスです。
冒険者」という歴代でも類を見ないピカレスクロマンを提示しつつ、まずはボウケンジャー側のキャラ描写をしっかり立ち上げの段階で描いているのは非常に手堅い出来。


改めて見直して見て面白いと思ったのが明石暁チーフと伊能真墨のライバル関係であり、いわゆる「やらかし」も含めて真墨がいい感じのスパイスになってくれています。


「プレシャスはこの伊能真墨が頂いた!わかったか、俺があんたを超えるトレジャーハンターだと。明石暁……いや、不滅の牙!」


敢えてチーフを出し抜き、その上で「こいつは返すぜ!」とボウケンジャーとしての使命を拒否するのですが、ここでチーフが「動じる」のではなく「期待以上だぜ」と不敵に笑うところがいいですね。
で、早速やらかしの自業自得と言わんばかりに真墨はプレシャスを奪われ、更にマグマに突き落とされそうになるのですが、ここでのチーフが面白い。


「ボウケンブルー!ボウケンピンク!俺は既に命令した、このボウケンレッドが!……お前も行け」


チーフは真墨の元へ降りて行った後、改めて強引に真墨を勧誘。


「もう1度選べ、このアクセルラーを受け取るか、このままマグマに焼かれるか!」
「何だと!?」
「お前が言ったんだ、俺の牙から逃れられる獲物はいない。その獲物は……お前だ」
「初めらわかっていたのか、俺が裏切ると」
「わかっていたが、見事に出し抜かれた。そう来なくちゃ、部下にする価値はない」


このシーン、普通ならチーフがあまりにも不甲斐なさすぎて大笑いするシーンなのですが、真墨が同じくらいやらかした上で、客観的に真墨がボウケンジャーに入るしかない状況を作り上げているのが見事です。
チーフのやっていることは完全なモラハラ&パワハラ、更に「お前が言ったんだ、俺の牙から逃れられる獲物はいない。その獲物は……お前だ」に至っては完全な職権乱用による詭弁でしかありません。
しかし、真墨たちも決してチーフの言いなりというわけではなく、これからそのチーフの鍍金が剝げることを考えると、もうこの時点で既にその伏線は貼られていたのだなあと思うのです。
まあチーフに関しては7話がとてもおいしいエピソードになっているとして、まずは真墨とのライバル(というか上下)関係を使ってドラマを盛り込んでいるのは男心をくすぐります。


その後、改めて真墨はアクセルラーを受け取り、ボウケンジャーに変身、全員揃った段階で名乗り。


「我ら、轟轟戦隊!」
「「「「「ボウケンジャー!」」」」」


ここで真墨が「ブラック」と名乗り、ピンクが「今、ブラックって言いましたね?」というのを含めて、本作は明確に変身前と変身後の呼称を区別するという昭和戦隊の方式へと回帰しています。
これは前作「マジレンジャー」が変身前も変身後も名前で呼んでいたのとは対照的ですが、もう1つは「職業戦隊」として区別する意味もあるのでしょうか。
サブタイトルが「Quest」「Adventure」ではなく「Task」であり、ミッションの内容も「プレシャスの入手」なので、正に「お仕事」という感じなのですよね。
「素人が偶然に巻き込まれた」というアマチュア型が「デカレンジャー」を除いてしばらく続いていた00年代戦隊において、明確に「プロフェッショナル」として描かれています。

 

gingablack.hatenablog.com


以前にも戦隊シリーズのチームカラーを区別する分布図で述べましたが、00年代戦隊シリーズの中でプロフェッショナル戦隊は「デカ」「ボウケン」「シンケン」の3作のみ
それを明確に示した上で1号ロボのダイボウケンを使っての巨大戦まで見せてきて、情報量としてはかなり詰め込んでいるのですが、このゴーゴービークルは個人的に高く評価しています。
ゴーゴーファイブ」の救急マシン以来となる「戦い以外の用途を持ったメカ」を本作では「プレシャス回収」のために使っているのが見事な組み合わせです。


「プレシャスは素晴らしい力を持っている。だけど悪用されれば、地球の1つや2つ、ボーンさ」
「だからこそ、安全に管理されなければなりません」
「プレシャスを悪から守り抜く。それがボウケンジャーだ!」


ここで本作における「善と悪」を提示することで、ボウケンジャーがいわゆる「正義の味方ではない」ことを示しつつ、「プレシャスを守る」ことで「結果的にいいことしている」と示しています。
まあそういう意味で見ると、一番信用ならないのはそんな彼らを雇っているさージェスなのですが、ファンからも散々指摘されている通り、めちゃくちゃ信用ならないブラック企業です(笑)
個人武器までは流石に見せられなかったものの、いわゆる「特撮!特撮!特撮!」といういかにも勢い重視な戦隊の1話ではなく、変則的に「新入りの入隊テスト」という形での展開。
そのため、既にチームとしての結束ができている赤青桃の中に新入りの黒黄が入る形にし、その上で黒がやらかしも含めていい感じに物語を引っ掻き回してくれます。


とはいえ、まだがっちり歯車が噛み合っていない部分もあり、手堅いできではあるものの、もう少しここぞというところで突き抜けて欲しかったのもあり、評価はA(名作)でしょうか。


Task2「竜の略奪者」


脚本:會川昇/演出:諸田敏


<あらすじ>
プレシャスを奪還したボウケンジャーだが、ゴードム文明の末裔・大神官ガジャを謎の恐竜にさらわれてしまった。 真墨と蒼太は、「ジャリュウ一族」の仕業だと睨み出撃する。一方、さくらは新人隊員の菜月を不安視するが暁は「面白いだろ」ととりあってくれない。5人の前に現れるのは?そして菜月の正体は?


<感想>
「誰にでもたった1つ、大切な宝がある。俺たちはみんな、そんな宝を見つける為にこのチームに集まった。誰のものでもない、自分だけの宝を見つける為に。違うか?」


いやチーフ、そのことと「部下が信用できる奴かどうか」はまた別問題ですって!(笑)


2話目にして早速危険な匂いがしてきたボウケンジャーですが、2話目にして言っていることが全て詭弁に聞こえてしまう戦隊レッドも珍しいのではないでしょうか。
表向き爽やか風を装っていますが、チーフの場合役者が妙におっさんくさいこともあって胡散臭さが5割増しで聞こえてしまいます。
前回の真墨の裏切りに対して「裏切り上等!それくらいの奴こそ俺の部下!」な説得もそうですが、この人一番ついて行ってはならない上司なのでは?(笑)
何だろう、同じ「バカ」でも、いわゆる「ニンニンジャー」の天晴に代表される「バカレッド」のバカさとチーフのバカさは種類が違うのですよね。


代表的なバカレッドというと、バン・魁・ジャン・走輔・天晴辺りが想起されますが、こいつらはいわゆる「アッパー系コミュ障」に類する奴らです。
アッパー系コミュ障がどんな特徴なのかに関しては「ニンニンジャー」初回の記事にまとめていますので、こちらをご覧ください。

 

gingablack.hatenablog.com


で、チーフはその「アッパー系コミュ障」とはまた違った「専門バカ」と呼ばれる類のバカであり、「専門家」と似て非なるものです。
今回でいえば、本来は菜月に対するさくら姉さんや真墨に対する蒼太のような慎重かつ懐疑的な対応が当たり前なのですが、チーフはそれを「冒険好きという理念があるならそれでいいだろ?」で強行突破してしまいます。
要するに「冒険さえできれば人間性は重視しない」という危険なタイプの典型的なブラック企業の上司であり、だから私はこの人のいうことが全て詭弁にしか感じられないのです。
特に象徴的なのが変身後のボウケンレッドとリュウオーンの以下のやり取り。


「ジャリュウ一族の長か。どんな気持ちだ?多くの部下を犠牲にし、プレシャスを見つけるのは!」
「部下など幾らでも作れるわ!奴らはこのプレシャスに比べたら、なんの価値も無い!」
「部下の命を使い捨てにする貴様は、俺には勝てない!」
「何ぃ?!」
「俺には仲間が居る。そのパワーがある!」


実はこのやり取り、一見チーフが正しくリュウオーンが間違っているかのように見せていますが、実際はチーフの方がはるかにタチが悪いです。
何故かって部下の裏切り・不義理を「そういうことができる奴こそが欲しい」と言い、さらには菜月の記憶喪失に対しても「冒険好きだからそれでいい」と言いくるめてしまっています。
しかもサージェスもサージェスで、「プレシャスさえ回収してくれるなら人間性は問わない」で、真墨・菜月らに装備一式を貸与するのですから信用なりません。
そのため、2話目にして「王道VS邪道」「聖なる冒険者VS俗なる冒険者」のつもりが「覇道VS邪道」「我儘な冒険者VS俗なる冒険者という凄まじいねじくれ具合。


そもそもプレシャス見つけるために遺跡破壊やら普通にやってるボウケンジャーの方が実は遥かに悪どいという凄まじく露悪的な作風であり、こりゃあ賛否両論別れるわなと。
今日會川先生もTweetしてましたが、主人公たちの好奇心がネガティブシンジケートを呼び寄せてしまっているわけであり、このあたりは意識的なのか偶然の産物か。
で、そんな爆弾を抱えたボウケンジャーが今回初めての正式な名乗り。


「熱き冒険者!ボウケンレッド!」
「迅き冒険者!ボウケンブラック!」
「高き冒険者!ボウケンブルー!」
「強き冒険者!ボウケンイエロー!」
「深き冒険者!ボウケンピンク!」
「果て無きボウケンスピリッツ!」
「「「「「轟轟戦隊!ボウケンジャー!」」」」」


何がすごいといって、名乗りのどこにも「正義」という言葉が出てきておらず「俺たちはとにかく冒険さえできればそれでいいんだ!」というキャッチーフレーズになっていることです。
それが結果としてヒーローっぽいことをしているという、いわゆる「結果的な正義」であって、ボウケンジャーの5人には「世のため人のため」といった英雄的思想のようなものはありません
前作「マジレンジャー」が家族の絆を大事にした真っ当な正統派ヒーローだったことと比べると、かなり意図的な差別化だったのではないでしょうか。
あれだけストレートな王道をやった後ですからこれくらい尖ったことをやらないと勝負にならないということでしょうが、それをしっかり成り立たせる會川脚本と諸田演出・役者たちの演技合戦が見事です。


現在同時で感想を書いている「ニンニンジャー」もこれくらい突き抜けられれば良かったのでしょうが、あちらはそもそもの基礎土台の設計からズタボロですからね。
で、変身後は個人武器を披露し、ラストは「俺も忘れてもらっちゃ困るな」と真墨も加わりますが、なんだかんだ一番チーム愛があるのが真墨というのもこの段階から既に組まれています。
それぞれのキャラクターをしっかり基礎の部分で立てつつ、やや消化不良がありつつもまとまりはいいので総合評価はB(良作)というところでしょうか。

 

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