明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ46作目『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022)第1話感想

ドン1話「あばたろう」感想


脚本:井上敏樹/演出:田崎竜太


<あらすじ>
「ことし、ことし あるところに 4人のお供と1人のアバタロウがいた」
令和版 桃太郎見参!風流人のサル、会社員のキジ、逃亡者の犬、女子高生の鬼、この4人を率いるドンモモタロウ。個性的な5人の暴太郎は謎の組織“脳人”から人々を守る為戦うことに!
でも肝心のドンモモタロウが行方知れずだって!冒頭から展開が予測不能な桃太郎ヒーロー物語を見逃すな!


<感想>
さて、YouTubeで「ジェットマン」配信が終わったと思ったらちょうど同じ井上先生の「ドンブラザーズ」が開始だなんて、なんて奇妙な「縁」なのだろう?


そんなことを思いながら見たこの「ドンブラザーズ」ですが、既に3回ほど視聴しての総合点は正直なところ50点という感じ。
東映特撮YouTubeTwitterなどのSNS界隈では(私の知人・友人も含めて)盛り上がっているようですが、個人的にはいまいちピンとこない第1話でした。
最初に見た時は30〜40点くらいでしたが、3回目まで見直してやっと50点くらいかなというレベルで、2回目を見直してもそんなに上がらなかったのでそれ以上は上がらないでしょう。
周りが盛り上がるのに反比例して私はめっちゃ冷めた目で見ていたわけですが、その理由は大きくわけて以下に集約されます。

 


1、レッドとイエローに全然「華」が感じられない


最初に見た時から感じたのは、メインを構成していたレッドの桃井たろうと鬼頭はるかに全く「華」が感じられないことで、これは相当なマイナスです。
これに関しては正直役者が発表された段階から感じていて、「このビジュアルだと正直厳しくないか?」と思ったのですが、まさに不安的中。
まずレッドに関してはビジュアル・スタイルは満点なのですが、前半の爽やか好青年キャラとしては満点である反面後半の殺意高めなキャラがしっくり来ません
新人の役者が演じているためにまだ役をものにできていないせいなのかもしれませんが、変身後のアフレコがあまりにも迫力なさ過ぎて正直ガッカリしました。


変身後のドンモモタロウの殺意高めで俺様ながらも決してバカレッドでもゆるふわレッドでもない感じはなかなかによかったのですけどね(特にここ10年くらいはゴセイレッド/アラタみたいなやつが多かったんで)。
個人的に戦隊シリーズを評価する上での大きなポイントは「レッドがカッコいいかどうか」なのですが、本作のレッドに関しては変身前:100点、変身後:-50点で相殺して50点くらいのイメージ。
ここからアフレコが上手くなってキャラが役者に馴染んでくるともっと点数は上がると思いますが、現段階ではまだまだ私が求める「レッドの華」の基準値には到達していません。
それこそ、同じ井上脚本の「ジェットマン」のレッドホーク/天堂竜はこのラインを見事に1話の段階でクリアした上でそれ以上のものを見せてくれたので、非常に高く評価しています。


そして今回の8割を担っていた鬼頭はるかですが、彼女は演技力は悪くないのですが「上手い」とまでは言えませんし、レッド同様まだ役者がキャラをものにできていない印象です。
初回で示されたイエローのキャラクターは「順風満帆な生活を送っていたが、突然に漫画家としての挫折を味わいクラスメートからもハブられた女子高生」というキャラ造形でした。
言語化してみると「天才の挫折」を描いたつもりだったのでしょうが、井上先生が描くキャラ造形自体があまりにも複雑なこともあってか、その複雑さに中の人のビジュアルと演技力が追いついていません
こういうのは見るからに「この人は天才だ!」と一発で感じさせるビジュアルや演技力を持つ人が演じるから様になるのであって、中の人が役に対してあまりにも力不足(役不足ではなく)です。


なぜメインをレッドではなくイエローで見せようとしたのかというと、それこそ「ゴレンジャー」から長らく戦隊シリーズの伝統として「レッド=主人公」があり、それを打ち崩そうとしたのでしょう。
しかし、そのレッドである桃井たろうを差し置いてまで目立たせたメリットがあるかというと、少なくともこの1話を見た限りではかえってデメリットの方が大きいように感じられました。
なぜ今までスーパー戦隊シリーズが立ち上がりの段階でレッドを中心にして動かして来たかというと、その方が動かしやすいからであり、決して変えてはならない黄金律だったのです。
要するにシリーズの中で決して崩してはならない要素だったわけであり、そこを崩したことで新しい面白さが生じているのかというと、全くそのようなことはありません。


逆に、地味で出番も少なかったですが、ピンク役の中の人が1番キャラとの違和感が少なく、既に彼は1話にしてキャラをものにしているように感じられました。
変身後のフラットなツッコミも含めて、非常にいい塩梅であり、ぶっちゃけ第1話で一番キャラがわかりやすかったのは実は尺が最も短いピンクです。
これに関しては脚本自体はそこそこ悪くなかったと思うので、完全に役者の演技力とビジュアルの問題であり、早く馴染んでものにして欲しいところ。


2、アクションシーンが明らかに物量を詰め込みすぎてて、どこを中心に見せたいのかがわからない


これは本作に限らないのですが、アクションシーンも含めて情報量が多すぎるせいでかえってどこを見せたいのかがわからなかったのです。
今回一番辛かったのはここであり、変身後のドンモモタロウのアクションを見せたいのか、カイザーギアを見せたいのか、それとも巨大戦を見せたいのか、全くわかりませんでした。
すっかりここ10数年の戦隊シリーズのお約束になってますが、この構成ならむしろ1話で無理して巨大ロボ戦まで見せなくても良かったのではないでしょうか。
スポンサーの圧力に屈したのか、それとも局の要請があったのか、最初からこの方針だったのかはわかりませんが、何れにしてもただ一定のペースでイベントをこなしているようにしか見えません。


他はいざ知らず、スーパー戦隊シリーズにおける「戦闘」って単なるノルマとしてのイベントじゃなく、如何にそこに「物語上の意味づけ」をわかりやすくできるかが重要です。
特に「変身」という要素や「どれだけ戦いに備えて来たか?」は大事であり、その意味で本作の戦闘シーンはどうにもその「物語上の意味づけ」が上手く行っていないように感じられました。
レッドがいきなりプロ級に戦えたのは「ジェットマン」の竜と同じでずっと戦いに備えて鍛えて来たことが想像されますが、そのように捉えるには普段の「宅配員」という設定が邪魔です。
この設定があるせいで、どうしても戦いのプロとして描かれていることに違和感が生じてしまい、これから明かされるのだとは思いますが、変身前と変身後のキャラが分断してしまっています。
カイザーギアを使った戦闘と普通のモモタロウギアの使い分けも現状だとどう使い分けているのかが不明瞭なので、その辺りもきちんと定義づけをして欲しいところです。


そして最も謎だったのが、いわゆる「公と私」の比率で見た時に、ドンブラザーズの力が組織=公に属する力なのか、個人=私に属する力なのかという問題です。
5人全員が揃ってない段階でもレッドは敵に勝利していたので、おそらくは個人=私に属する力でしょうが、それが本当に地球を守るための力なのかがわかりません。
ジェットマン」のバードニックウェーブや「アギト」のアギトと比べると一目瞭然ですが、少なくともこの2作では地球の平和を守るには最低でも強大な敵に太刀打ちできる力が必要でした。
ただし必要条件ではあっても十分条件ではないというのが先達の井上作品の力の位置付けなのですが、本作ではその辺りもはっきり定義されていないので、戦闘シーンにドラマツルギーがありません。


ここはおそらく井上先生というよりは現場のアクション監督や田崎監督の責任になると思うのですが、もうちょっと演出側がアクションにしてもドラマにしてもメリハリをつけるべきだと感じました。
田崎監督自身も明らかに「ギンガマン」〜「555」辺りまでの全盛期と比べて力量が衰えているのが伝わってしまい、CG自体はとてもいいだけにイマイチ良さが伝わって来ません。


3、「ゴーバスターズ」と同じ過ちを繰り返してしまっている仮想空間「アバター」の表現


これは多くの視聴者が困惑した要素だと思いますが、「ゴーバスターズ」と同じ失敗をしてしまったなと思うのが仮想空間「アバター」の表現であり、これは特に巨大ロボ戦で目立ちました。
巨大ロボ戦で最初に敵のアバターがビルを攻撃すると、その被害が現実世界にも反映されてる仕組みになっていて、それをレッドとピンクが止めていましたが、こういう中途半端なリアリティはかえって邪魔です。
「ゴーバスターズ」の場合は崩れたビルの中に人がいたのを支えて元に戻すなんて描写を半端に入れてしまったがために、「ゴーゴーファイブ」のような救助シーンの必要性があったはずなのを吹っ飛ばしてしまいました。
本作の場合はおそらく崩れたビルの中に人はいなかったのでしょうが、その後の仮想空間で敵がビルを繰り出して主人公ロボを囲って攻撃する演出が反映されているのかというと、そうではないようです。


どうにもこの辺りの「異世界の表現」は疑問で、演出的に「攻殻機動隊」「マトリックス」を彷彿させますが、この辺りに関しても定義づけがはっきりなされていないので、現段階だと単なる陳腐な仮想空間という印象。
CGでの表現が発達しているだけに余計にこの部分の詰めの甘さが惜しまれますが、どうせやるなら「龍騎」のミラーワールドのように、はっきりと「ネット上の仮想空間」と定義した方が良かった気がします。
そうすれば、ピンクが変身前と変身後であんなにも体型が様変わりすることに説得力が生まれますし、それこそ「グリッドマン」の先をより行くものとなったのではないでしょうか。
まだ1話の段階を見ただけなので今後の話できちんと説明はされると思うのですが、とはいえ白倉・井上コンビのことだから、そのまま放置して何と無くで進める可能性も無きにしも非ずです。


そもそもが「桃太郎」という日本昔話をモチーフにして物語を展開しているので、いかにして「異世界感」を出すかというところに注力した結果このようになったのかもしれません。
最初の項目では書き忘れましたが、レッドが主君で神輿に担がれて登場するとか、そんなレッドをイエローが「あんなのが殿?あり得ない」という反応を示したのは「シンケンジャー」のパロディでしょう。
シンケンジャー」がとても丁寧かつ真面目に「殿と家臣」という主従関係を描いていて、劇中の世界観もしっかり和風のもので整合性を取っていたのですが、本作はその点中途半端にSFっぽくしています。
これがかえって良くないところであり、「SF」なのか「ファンタジー」なのか、それとも両者のいいとこ取りとして「SFファンタジー」として見せたいのかがはっきり見えないのです。
その点でも「ゴーバスターズ」の1話と同じ失敗を繰り返していて、現段階ではどうにもこの「アバター」の表現が成功しているとはいえないでしょう。


さて、ここまで厳しく論じてきましたが、いいところを挙げるとすればレッドとピンクは変身前のキャラがいい感じで、特にピンクの中の人は見かけの地味さに反して安定した演技力です。
反面、メインで見せたいイエローの子がどうにも魅力的に見えず、ヒーローになる経緯が微妙なので感情移入できず、また役者自身も手探りで演じているように見えてしまいました。
スタートダッシュなのでまだこれからだとは思いますが、スタートダッシュとしてお世辞にも成功しているとは見えず、高く見積もっても総合評価はD(凡作)でしょうか。
例えるなら本作は「金八先生第7シリーズ」のようなもので、長年ニチアサの現場から離れていた大御所が里帰りして頑張るも、イマイチうまくいかず空回りしている感じです。

 

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