明日の伝説

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『機動武闘伝Gガンダム』考察その2〜本編に登場する様々なパワーアップ・特殊能力の種類〜

Gガンダム」といえば有名なのはなんといっても「パワーアップ」にあり、「ドラゴンボール」のような「可視化された気」を身に纏う「変身(覚醒)」という概念を定着させました。
しかし、最初の考察記事でも書いたように、本作における変身(覚醒)の概念は決して本作独自のものではなく、「勇者ライディーン」から富野監督が念能力という形で導入してきたものです。
それを大衆向けに一般化して定着させたのが「ドラゴンボール」の界王拳超サイヤ人ガンダムシリーズでいえば本作の怒りのスーパーモードや明鏡止水がそれだといえます。
そこで今回の記事ではそうした「Gガンダム」におけるパワーアップや特殊能力と呼べるものを紹介・考察していきますが、果たしてどのようなものがあるのでしょうか?

 


(1)怒りのスーパーモード


まず「Gガンダム」で最初に出てきたパワーアップ形態が6話でドモンが初めて見せた怒りのスーパーモードであり、シャイニングガンダムの機体も変形します。
レッグカバーとショルダーパーツが解放し、さらにヘッドパーツについている角も上がり、更には口の部分も開き、ドモンの髪の毛が逆立つ形態です。
この形態は前半の23話まで劇中で数回登場していますが、発動条件としては「強烈な怒り」があり、実際にドモンの必殺技の時の口上にも入っています。


「食らえ!愛と怒りと悲しみの!シャイニングフィンガー!!!」


そう、「愛と怒りと悲しみ」と書かれているように、「怒りと悲しみ」といった「負の感情」がトリガーとなっているのですが、もちろん単なる怒りでこうはなりません。
悲しみや絶望といったことから沸き起こるもっと根深くどす黒い禍々しい怒り、それこそ本当に「復讐」というべき強い憎しみが根底にある負の波動を放つ「怒り」です。
ドモンがこの禍々しい「怒り」を手にしたきっかけは母親を殺し、父が冷凍刑に処されるきっかけを作った自分の兄キョウジ・カッシュへの復讐でした。
つまり愛する家族を兄が壊してしまった(と思い込んでいた)ことがトリガーとなったわけであり、「兄への復讐」が前半のドモンにあったガンダムファイトの動機です。


まあいうなれば「仮面ライダーV3」1話の時の風見志郎のような状態であり、復讐鬼の動機としてはありがちですが、案外ガンダムの主人公でこのタイプは少ないでしょう。
ほとんどは未成熟な少年が「生き延びるため」に戦うのであり「復讐」はあっても後から生じるものですし、翌年の「ガンダムW」のヒイロはただ機械的に任務を遂行していました。
だから、ガンダムシリーズの主人公の中で古典的な復讐鬼と呼べる例は後にも先にもドモンくらいであり、その象徴として怒りのスーパーモードを持ってきたのは面白いところです。
そんな怒りのスーパーモードの特徴は「一時的にパワーアップするが、肉体・精神面の磨耗が激しく隙を生みやすい」というものでした。


この特徴はカッシュ博士とシュバルツから指摘されており、実際これに陥ったドモンは何度も心の隙が生じ、その弱点を利用されて何度も師匠である東方不敗に惨敗しました。
なぜこのように扱われたのかというと、それは大元となる「Zガンダム」最終回でカミーユが強烈な怒りでパワーアップしたものの、それと引き換えに精神崩壊を起こしてしまったというのがあります。
同時代にやっていた「ドラゴンボール」でも孫悟空しかり孫悟飯しかり「親しい人の死」がきっかけで覚醒したはいいものの、決して完璧な勝ち方をしたわけではありません。
実際孫悟空フリーザを圧倒し勝ったもののナメック星の消滅を止められなかった上に土壇場で甘さが出てしまい、フリーザを殺し損ねてしまったという苦い思い出があるのです。
そして孫悟飯もまた超サイヤ人2に覚醒してセルジュニアを仕留めてセルを圧倒したはいいものの、変な方向に増長してしまったせいで悟空を死なせることにもなってしまいました。


つまり「怒り」を基にした戦いというのはそれがどんなきっかけであったにしても最終的にいい結果をもたらさないことが示されているわけであり、そういう事例を「Gガンダム」のスタッフは見ているわけです。
そう考えると、「怒りに囚われれば隙が生じる」というのは決して本作独自ではなく他のシリーズや作品群にも当てはまる不変の真理であり、そこを前半のうちにクリアしたかったのでしょう。
怒りという要素を消化して真の強さに目覚めることで初めて真の武道家になり勝つことができる、そういう結論に持っていくために考えられた界王拳超サイヤ人のハイブリッドが怒りのスーパーモードの本質だと思われます。
意外に思われるかもしれませんが、実は怒りのスーパーモードの時点で既に超サイヤ人の特徴が盛り込まれており、その上を行くための叩き台として扱われているのです。


(2)DG細胞


本作で怒りのスーパーモードの次に出てきたのが10話で初登場した「DG細胞」であり、これは「ドラゴンボール」でいうところの人造人間編のセルと魔人ブウの細胞を組み合わせたものでしょう。
デビルガンダム(アルティメットガンダム)の設定自体は悪ではなく、主人公の敵側に巨大なガンダムが出てくるのは「Zガンダム」のサイコガンダムからやっていることであり、珍しくも何ともありません。
しかし「生物のように無限に進化し続けるガンダム」という生物学的な要素が取り入れられたのは本作が初であり、それを可能にするためのDG細胞だったのではないでしょうか。
効果としてはいわゆる麻薬によるドーピングみたいなものであり、人知を超越した強さを与える反面脳機能などに異変を生じさせ人ならざる存在に変化させてしまうものです。


劇中でDG細胞に冒された人物はキョウジ・カッシュ、シュバルツ・ブルーダー、ウルベ・イシカワ、レイン・ミカムラ、アレンビー・ビアズリー、ドモン以外の新シャッフルの4人、デビルガンダム四天王、超神ゼストです。
デビルガンダム事変に関わった人物でDG細胞に侵略されなかったのは主要人物だとドモン・カッシュ東方不敗マスターアジアの師弟コンビくらいであり、よくもこの2人は無事で入られたものだと思います。
特にアレンビーは終盤になるとバーサーカーモードと併用していましたから、下手すればそのままアレンビー死亡の可能性すらあったわけであり、相当に危険なことをしているわけです。
新シャッフルのメンバーがDG細胞の汚染から復活できたのも旧シャッフルのメンバーが命と引き換えに浄化したからであり、それだけ大きな代償を伴うものだったといえます。


その点で改めて驚きだったのがレイン・ミカむらの細胞が一片たりともDG細胞に侵されていないことであり、この辺りについては後々考察していきたいところです。
とにかく、自己進化・自己再生・自己増殖という驚くべき能力を秘めたアルティメット細胞が悪の形で変質したものでしたが、こうして考えてみると実に両極端な細胞といえます。
言うなれば「究極の善」の象徴がアルティメット細胞、そしてその逆の「究極の悪」の象徴がDG細胞であり、究極の善と究極の悪は本質的に同じくらい暴力的で恐ろしいものだということでしょう。
自己鍛錬によって成長していくドモンたちガンダムファイターの精神とは真逆のものであり、非常によく練られた設定であると言えます……まあだからこそスパロボシリーズでは便利設定として擦り倒されるのですが。


(3)真のスーパーモード(明鏡止水)


23話で具現化する「Gガンダム」の代名詞といえるパワーアップ、それが真のスーパーモードこと明鏡止水であり、劇中でこの姿に達したものはドモン・カッシュ東方不敗、そして新シャッフルの4人でしょう。
演出としては超サイヤ人と同じ黄金色のパワーアップですが、本質的にはまるで正反対の概念であるということができ、なおかつ超サイヤ人のような便利な代物などでは決してありません。
超サイヤ人は気のコントロールを修行によって鍛錬を積めば誰でもなれる上に2・3・4とパワーアップ可能ですが、明鏡止水にはそのような特性はなくいつでも自由に引き出せるものではないのです。
いわゆる後述する普通のスーパーモードとハイパーモードとも違うのがこの明鏡止水としてのスーパーモードであり、ラストのデビルガンダム事変を除いてこの姿になったのはドモンと東方不敗だけでした。


ここで言う明鏡止水とはモビルファイターごと黄金色になる演出であり、この演出はシャッフルの4人もなっているのですが、なぜだかハイパーモードのドモンや普通のシュバルツに負けています。
これに関しては別個書きたいのですが、とりあえず機体ごと黄金色になった中でも別格に強いのがやはりドモン・カッシュ東方不敗マスターアジアの師弟コンビなのかなと思うところです。
この形態になると気を発するだけで周囲の岩が浮いたり飛散したりするレベルであり、何者も触れることはできない圧倒的強者のみのオーラであると言えます。
また、心がとても澄み切っていて穏やかであるといえ、わだかまりや負の感情といった煩わしい思考の邪魔になるものが一切ありません、というか思考すらしていないでしょう。


発動条件は2クール目でシュバルツから提示されていますが、復讐や感情の暴走といったものを克服し、心を極めて穏やかに保ちその上で気を高めることにありました。
しかし、決して鍛錬だけでたどり着ける簡単なものではなく、条件として「自らの死」という恐怖・絶望に打ち勝つことが大事なのです。
ドモンは実際にガンダムシュピーゲルとの戦いで負けかけた時、そしてマスターガンダムとの対決で死にかけた時水の一滴が見えるほどに心を研ぎ澄ませた時に覚醒しています。
つまり臨死体験をくぐり抜けた上で心の高みに到達することこそが明鏡止水覚醒の条件であるといえ、しかしこの状態に到達するのは決して簡単なことではないのです。


実際ドモンがこの姿になったのは23話と45話、そして終盤のデビルガンダム事変のみであり、それ以外の時はドモン自身が黄金色になることはあっても機体ごと金色になったことはほとんどありません。
明鏡止水関連は別個で1つの記事を書きますが、とにかくこの状態に至るのは簡単なことではなく、劇中でもこの姿に到達できた人物も機会も少ないのではないでしょうか。


(4)普通のスーパーモードとハイパーモード


ガンダムファイト決勝大会の時のゴッドガンダムとシャッフル戦の時に初登場するのがいわゆる普通のスーパーモードとドモンのハイパーモードです。
これらは劇中での明確な説明こそないものの、真のスーパーモード(明鏡止水)と似て非なるものではないでしょうか……少なくとも私にはそう見えます。
普通のスーパーモードはシャッフル戦の時の4人がそれぞれ最終奥義を披露する時になっており、一見エフェクトとしては真のスーパーモード(明鏡止水)と似ているようです。
機体ごと金色になり最終奥義を放つためそのように見えますが、しかしいずれもがハイパーモード状態のドモンやスーパーモードになっていない状態のシュバルツに敗れています。


一方でドモンのハイパーモードですが、こちらはゴッドガンダムノーマルモード以上真のスーパーモード(明鏡止水)未満といったところでしょうか。
ゴッドガンダムで爆熱ゴッドフィンガーや石破天驚拳を使う時にこのモードになっており、ゴッドガンダムのスペック自体が相当に高いことも相俟ってかなり強いです。
この状態になったドモンに勝てた人物は1人としておらず、強いて言えば東方不敗がギリギリ対等になったくらいであり、逆に言えば終盤のドモンはもう師匠クラスしかまともに相手できません。
ウルベ・イシカワもグランドマスターガンダムで何とか追い詰めはしたものの、結局のところ本気で覚醒したシャッフル5人には敵わなかったことからそれがわかります。


なぜこのように色分けがなされているかというと、劇中で明鏡止水に覚醒するプロセスが明確に描かれた人物がドモンだけだったからです。
他の4人はギアナ高地での修行こそ描かれていましたが、スーパーモードに覚醒するタイミングはまちまちでしたし、またそれが明鏡止水と同じであるとも描かれていません。
ゲーム「スーパーロボット大戦シリーズ」でも色分けがなされていて、ドモンだけがパイロットの能力に「明鏡止水」と示され、他のメンバーは「スーパーモード」のみ示されています。
単なる表記違いならともかくスパロボシリーズの製作陣はおそらくこの違いをはっきりわかった上で敢えて違う表記にしているのではないでしょうか。


(5)バーサーカーシステム


そして最後に、アレンビー限定ですがバーサーカーシステムと呼ばれるモードがあり、今までの流れとは若干違うものになります。
エフェクトとしては「怒りのスーパーモード」と類似していますが、大きな違いとしては「外的なシステムで強制的に引き出す」か「内的感情からそれが引き出されるか」です。
怒りのスーパーモードもバーサーカーシステムも極度の興奮状態に陥って暴走しているのは似ていますが、怒りのスーパーモードはドモン自身の復讐が動機となって引き出されています。
だからドモンは怒っていながらそれをきちんと自覚していますし、披露こそするもののきちんとセーブして使いこなしていますから、極度な負担がかかるわけではありません。


一方でこのバーサーカーシステムはアレンビーの望む望まないに関わらず強制的にアドレナリンを刺激して怒りのスーパーモードを引き出すというものです。
要するに勝つためなら卑劣な手段も厭わないという戦法ですが、アレンビーの意思を完全に無視してのものであるため、見てて気持ちのいいものではありません。
実際ドモンはこのバーサーカーシステムのアレンビーを前に一度ハイパーモードを説いてこのように伝えます。


「俺たちファイターは自分の心を拳で伝えるより術がない!だからアレンビー、魂を失った今のお前と戦うことに俺は何の興味も湧かない。退屈なだけだよ…」


ガンダムファイトに強い使命感を持ちながら、強い相手との戦いを望みながら、ドモンはただ暴走しているだけのアレンビーにこのように言い放つのです。
なぜドモンは「何の興味もわかない」「退屈なだけ」と言ったのか、それはバーサーカーシステムで暴走したアレンビーにかつての自分を重ねていたのでしょう。
復讐の為なら手段を選ばず周りを傷つけても何とも思わないサイコパスが前半のドモンだったわけであり、それを克服して真のファイターに覚醒したのが後半戦でした。
そんなドモンにとって、ファイターとしての純粋さと気高さを持ち素晴らしいスキルを持ちながらもただ力を持て余して暴走ているだけのアレンビーは退屈に映ったのだと思われます。


しかもここで終わりではなく、終盤ではランタオ島の決戦でDG細胞と併用して暴走させられ、挙句にレインと女の泥沼にまでなりますから大変です。
おそらくバーサーカーシステムとDG細胞の併用がなければ、アレンビーはここまで暴走しなかったのではないでしょうか。
アレンビー自身はとても溌剌として気立てのいい娘であり、終盤ではドモンとレインのキューピッドにもなっています。
そんな彼女を暴走させる強制的な怒りのスーパーモード、それがこのバーサーカーシステムです。


今回の記事では「Gガンダム」に出てくる数々のパワーアップや特殊能力を思いつく限りで言語化してみましたが、いかがでしたか?
こうしてみると、先達の作品群をきちんと分析しつつ本作独自の特殊能力としてきちんと打ち出そうとしているのが窺えました。
また、ここまで言語化したことで今後また様々な考察・批評ができそうなので、その叩き台というか参考になれば幸いです。