明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ打ち切りの危機に関する個人的な所感

現在放送中の「機界戦隊ゼンカイジャー」があと3回終わりを迎え、次作「暴太郎戦隊ドンブラザーズ」が3月6日より放送開始だ。
主人公の五色田介人が続投となったわけだが、ここ数話の傾向や香村純子メインライターの戦隊のラストを鑑みるに、最終回まででまとまるかも危惧されている。
白倉Pのことだから、かつての「ディケイド」最終回がそうだったように「続きは「ドンブラザーズ」で!」みたいな可能性もないわけではない。
しかしそんなことは私にとっては取るに足らないことであり、あと3回でそんなに大した話ができるわけでもないから、「ゼンカイ」に多くは求めない。


そんなことよりも問題は、「スーパー戦隊シリーズは打ち切りになるんじゃ?」などと騒ぐファンがこの時期になるとなぜかわんさか顔を出すことである。
はっきり言って鬱陶しいことこの上ないが、フォロワーのある方に聞いたところ、Twitter界隈の戦隊ファンはここ数年ほぼ例外なくそのように騒いでいるのだとか。
なぜ毎年そんなことで騒ぐのかかが分からず理由を聞いてみると、やはりというか多くのファンが口にするのは「玩具売上が低いから」だそうだ。
あまりにもアホな根拠とすら言えない根拠に私はため息が出たが、今回はなぜ売上を根拠に否定するのかを整理しながら、改めて個人的な所感を述べてみたい。

 


(1)「ファイブマン」〜「ダイレンジャー」の頃にあったスーパー戦隊シリーズ打ち切りの危機は本当か?


まずシリーズ打ち切りの危機というと、1990年の「地球戦隊ファイブマン」〜「五星戦隊ダイレンジャー」の時期にそう囁かれていたことはこの年代の戦隊ファンならばご存知だろう。
内容を軽く説明すると、「ターボレンジャー」「ファイブマン」の時期にスーパー戦隊シリーズはマンネリ化し、数字が下がったから打ち切りの危機があったという噂だ。
そして「ファイブマン」までで下がった数字を「ジェットマン」が回復させ打ち切りの危機を救い、続く「ジュウレンジャー」「ダイレンジャー」で軌道修正を果たしたというものである。
このような事実か嘘かもわからないような言説を鵜呑みにしているファンはいるのだが、何故そのような噂が立つのかと言えば、作り手がそのようにファンを煽る発言をしているからだ。
例えば「ジェットマン」に関連するWikipediaの項目にはこのような記述がある。


テレビ朝日プロデューサーの梶淳は、「戦隊は永遠に続くとは限らない」という危機感を持った人間が集まっていたと述べている。

 

 

前作『地球戦隊ファイブマン』の視聴率不振から「戦隊はこれ(『ジェットマン』)が最後になるかもしれないから」と、鈴木は不断の覚悟を持って依頼をしてきたという。(中略)鈴木はこの時のスタッフ刷新について、2011年のインタビューの際に「一部のスタッフに『慣れ』と『マンネリ』を感じたんです。このままではいけないので新しい血を入れようと。旧スタッフには辛い決断でしたけど、後々のことを考えたらこの時の判断は間違っていなかった」と述懐している。


また、この時期からスーパー戦隊シリーズに関わり始めた白倉伸一郎プロデューサーは「ファイブマンからジュウレンジャーまでの間は常に打ち切りの危機に瀕しながら作ってた」と述懐していたそうだ。
しかし、私が思うにこれらのことはあくまでも自分たちの立場を有利にするためのポジショントークであり、ファンに向けたリップサービスという側面が強いのではないかと思う。
特に白倉Pは炎上商法の達人として有名であり、受け狙いのためなら事実と違うことでも平然と言うし、この打ち切りの危機に限らず、公式側が言ったことをその裏も取らずに真に受けるファンは多い。
では何故こんなことを公式側が言うのかといえば、そのように言っておけばジェットマン」という作品がスーパー戦隊シリーズに数々の革命をもたらした名作であるという評価に箔がつくと思っているからだ。


仮にスーパー戦隊シリーズが本当に打ち切りの危機に陥りかけていたとしたら、このような形で関係者が漏らすのは情報漏洩という禁忌を犯しているのだからまずいことになる。
しかし現実にそうなっていないということは打ち切りの危機などまるでなく、週刊誌のゴシップと同じレベルで勝手にそのような嘘の情報を都合よく作り話として話しているだけだろう。
第一、東映及びテレビ朝日側のスーパー戦隊シリーズ制作の関係者でもないファンがこのような噂話が事実かどうかなんて確かめようがないし、関係者であっても守秘義務が発生する。
だから、多くのファンが口にするスーパー戦隊シリーズの打ち切りの危機というのはこの辺りのことを鵜呑みにしてネットで広まった言説を批判も疑うこともせずに信じたからではないだろうか。


(2)ファンに売上や視聴率のことなどわかりようがない


白倉Pが話している「ファイブマン」「ジェットマン」「ジュウレンジャー」の3年間は打ち切り覚悟で作っていたというのも、そう考えると相当怪しい話である。
決して無根拠で言っているわけではない、というのも「ファイブマン」の売上と視聴率が悪く、それを「ジェットマン」「ジュウレンジャー」で回復したという流れがあるかららしい。
だが、他はいざ知らず私はとてもその言説を信じられない、まず具体的な「ファイブマン」の売上が記録として残っていないから売れたかどうか確かめようがないのだ。
2つ目に、視聴率に関しても同様のことであり、よく言われるのが「ファイブマン」のある回が当時歴代最低の1.8%という視聴率を記録したことを例に挙げている。


しかし、これらはあまりにも根拠として浅はかとしか言いようがなく、売上や視聴率などの数字の扱い方をわかっていないとしか言いようがない。
まず数字がはっきりしている視聴率だが、視聴率とは一話単位で見るものではなく、1クール毎の推移や年間の平均視聴率、あるいは録画環境やどの世代が見ているかなども含んでいる。
ファイブマン」の平均視聴率は6.5%で「ジェットマン」が7.1%、そして「ジュウレンジャー」が同じ7.1%となっており、0.6%しか差がない
だが、バラエティ番組「しくじり先生」ではこの辺りの事実関係をろくすっぽ整理もせずに、以下のような大ボラを吹いている。

 

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ジュウレンジャーの視聴率


この書き方だと、まるでジュウレンジャー」の平均視聴率が13.2%だったかのような印象を受けるが、事実は全く異なるものだ。
だがこのように煽っておいて、「最高視聴率」と「平均視聴率」を混同して語っておけば、さも「ジュウレンジャー」が凄いかのような印象を受けるのである。
バラエティ番組における特撮作品の扱いなどまるで信用ならないし、この他にも「怒り新党」「アメトーーク」などで戦隊シリーズが扱われたことはあるが、きちんと扱えてたとは言えない。
逆にいえば、こんな根も葉もないものを鵜呑みにしてしまうほど戦隊ファンの数字に対するリテラシーが低いということでもあるだろう。


そしてもう1つの売上だが、売上そのものの高低を論じてもまるで意味はなく、最低でも以下の図式を理解しておかなければならない。

 

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売上高の構造


このように売上高の背景には様々な必要経費が嵩んでおり、それら全てを差し引いた純利益がどれくらいあるかまで見て、初めて本当に売れたかどうかがわかるのである。
しかも玩具や映像ソフトなどに払ったお金は直接バンダイナムコ東映テレビ朝日に入るわけではないから、ファンがどれだけ購入したところで実際の利益率はわからない。
だがそんなのはファンはおろか社内外の人間でも知りようがなく、経理や経営者しかわかりようのないものであり、本来ファンが議論するのは無意味ということになる。
ましてや「ファイブマン」の売上と利益率が記録として残されていない以上、ファンは確かめようがないのだから打ち切りの危機を売上や視聴率で論じるのはナンセンスだ。


なぜここまで言うのかといえば、例えば「ガオレンジャー」「ゴーオンジャー」「キョウリュウジャー」などを批判するとこのように言う輩が居るからだ。
大きなお友達には不評でも玩具売上と視聴率は良かったんだから子供には人気だった、名作だろう」という反論である。
だが、上記してきたように数字はあくまでも制作側が気にするべき問題であり、受け手が気にするべき問題ではない。
本当にその作品が魅力的だというならば数字ではなく内容の良し悪しで語るべきであるが、どうにも特撮ファンはこうした数字の扱い方のリテラシーがないらしい。


(3)お店の売上を気にしてファミレスに行く客はいない


あまり料理に例えるのもどうかと思うのだが、もっと分かりやすくいうならば、例えばレストランなどで外食する時にそのお店の売上を気にする客がいるか?ということだ。
たとえば「このお店の味は美味しいのに、客が来ないから可哀想」という同情心で食べに行く人なんてよっぽど打ち解けた間柄などでもない限り、まずいない。
なぜ客がそのレストランに足を運ぶかというと、料理が美味しいから、もしくはその味が値段に釣り合っているからかのどちらかであろう。
少なくとも「このお店の売上はどれくらいなんだろう?」ということを気にしながら行く客は競合かコンサルタント、経営者くらいしかそんなことを気にしない。


我々がその作品を見て玩具を買うかどうかというのはお店に行ってその料理を食べるかどうかというのと似たようなものである。
普通に考えれば簡単にわかるはずのことなのに、なぜだか特撮ファン・戦隊ファンの中にはそのことが理解できない人が多いようだ。
それではなぜ上記した売上や視聴率を持ち出すファンが多いのかというと、内容できちんと評価できないから数字を持ち出して誤魔化しているのである。
数字の低さを根拠に作品を批判するのはよろしいことではないが、一方で数字の高さを根拠に作品を褒めるのもまたナンセンスだ。


(4)スーパー戦隊シリーズの打ち切り危機に関する所感


さて、最後にスーパー戦隊シリーズの打ち切りの危機に関する個人的見解だが、ここまで長々と書いた上での結論は「どうでもいい」である。
勝手に打ち切るなら打ち切ればいい、我々にできることはただその作品を見て良し悪しを判定・評価することだけなのだから。
何より私はスーパー戦隊シリーズなど「タイムレンジャー」までで実質的に文芸として完成しており、「ガオレンジャー」以降は別物と割り切って見ている。
だからファンではあるものの、打ち切りなら別に打ち切りでも構わないし、スーパー戦隊シリーズがつまらないならつまらないで他にいくらでも楽しむものを見つければいい。


ドライに思われるかもしれないが、誤解のないように言っておくと、私自身はスーパー戦隊シリーズが好きだし、続けてくれるなら続けてくれるに越したことはない。
だが、スーパー戦隊がないからといってロスに陥るような寂しい人生を送ってきたつもりはないし、実際スーパー戦隊を見ていない時期なんて過去にいくらでもあった。
しかしまあ、ここ数年の作品としての行き詰まりを見る限り、本格的に「打ち切り」が実現するかもね(笑)
ま、知らんけど。