明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)43・44話感想

 

第43話「長官の体に潜入せよ」


脚本:井上敏樹/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
田切長官の体内にバイオ次元獣ヒルドリルが侵入した。長官はバイラムに操られ、ジェットマンを苦しめる。長官の体の中にヒルドリルを発見した竜たちは、イカロスをミクロ化し長官の体内に潜入した。3分を過ぎるとジェットイカロスは元の大きさに戻る。時間が迫る中、ジェットイカロスはエネルギーを吸収され……。


<感想>
今回の話は「ミクロの決死圏」を戦隊用に焼き直した…というよりはどっちかといえば「ドラえもん」の「たとえ胃の中水の中」の方がネタとしては近いかもしれません。
内容は完全に体内侵入もののパロディですが、それを戦隊でやったのは後にも先にもこの回くらいでしょうか、他の戦隊でもほとんど見ない回です。
現在配信中の「仮面ライダーBLACK RX」でも体内侵入ネタは2回ありますが、なぜターゲットが小田切長官だったのかはわかりません(笑)


はっきり言って体内侵入ネタ自体はただ作り手がやりたかっただけという印象は拭えず、大して面白いものではありません。
しかし、次回とも繋がるのですが、ドラマとしてのワンシーンならばむしろ意味があるのは凱と香の方でしょうか。
前回に続いて正装で食事するシーンが描かれますが、ここで改めて凱と香が両親へのご挨拶を兼ねた食事会となりますが、ここでのやり取りが見どころです。


「しかし驚いたなあ、香にこんなボーイフレンドが居たとは」
「本当!大学はどちらを出たのかしら?両親は何をなさっているの?」
「お父様お母様、失礼ですわ!いきなりそんな……」
「いいじゃないか、我々としても現在の職業を知っておきたい。たとえば、現在の職業とか」
「やっぱり、香と付き合うんだから一流の方よねえ?エリート商社マンとか、弁護士さんとか!」
「おいおい、ビールじゃないんだ。ロマネ・コンティの逸品だよ?」
「わかったわ。ひょっとして、検事さんじゃない?目つきが鋭いし」
「…………失礼します」


非常に短いのですが、やたらなローアングルといい顔のアップといい、どこか小津映画というか黄金期の邦画のようなワンシーンになっています。
戦隊シリーズでこういう映画的なワンシーンもなかなかありませんが、ここでのポイントは決して香の両親が「悪い人」として描かれていないということ。
凱と香の目線で見るとついこの両親が悪人に見えがちなのですが、そんな安っぽい見せ方を本作のスタッフがするわけがありません。
この後、凱はバイクに乗りながら香に向かって改めて本音を口にします。


「凱!」
「お前には悪いが、俺には我慢ならねえ!人をレッテルでしか判断できねえ連中だぜ!」
「そんな…あんまりじゃない。お父様たちだって、話せばきっとわかってくれるわ!」


ここで凱が何も言わずにバイクで去っていくところは意図的な「仮面ライダー」のパロディとも取れるのですが、香の両親が出てきたことで問題となったのは2人の生まれ育ちの違いです。
序盤の感想で私は「上級国民の香は端から凱や雷太に興味がない」ということを書きましたが、香が中盤でのやり取りも含めて竜という男に惹かれた理由の1つに、同じ上流階級出身だからというのがあるでしょう。
これまで書いてきたように、竜と香が最終回の結末も含めてよくできているのは同じ「エリート」の身分ということであり、竜は実家が漬物屋の田舎者とはいえ、きちんとした大学を出て誇れる仕事をしています。
彼と同じくらいステータスの高い人間となるとこの中では香しかいないわけで、単純に一般人4人が出てきたというだけではなく、実はそれぞれに社会背景の意味が織り込まれているのが見事です。


農家の跡継ぎとして一次産業に従事している雷太、まだ社会に出ていない高校生のアコ、財閥の娘として生まれ育ち不労所得で働かなくても生活できる香、そして定職につかず酒と女に現を抜かす凱。
これらの背景設定があった上で人間関係を作っているわけであり、だから単なる惚れた腫れたに終始しないでロジカルな身分差に基づくシビアな恋愛や友情が構築されているのです。
その上で面白いのは、男の友情と女の友情、そして男女の恋はそうした身分差など関係ないが、それが「結婚」という現実的な要素の問題となれば話は違うのが示されていることでしょう。
単純にふらふらと遊んでいたいのであれば凱と香でもいいのかもしれませんが、それが将来を見据えた「結婚」となれば話は違うところであり、香の両親は何も悪くありません。


凱がワインの上品な飲み方やテーブルマナーを香の両親から指摘されているのも(しかも本物のロマネ・コンティまで持ってきているのがあざとい)凱という人間の教養のなさを白日の元に晒しているのです。
井上先生はどちらかといえば竜や香に近い上流家庭で育ったでしょうから(なにせ小さい頃から太宰治やら読んでる文学少年だったし)、そういう身分の差というものをわかっている人なのでしょう。
これが何に繋がっているのかといえば、「ヒーローとしての活躍」と「人間としてのステータス」はあくまでも異なるものとして表現されているということです。
凱が後半からこっちどれだけ成長してカッコよくなろうが、それは所詮後天的に得たものであって、凱自身の生まれ育ちの人間性を底上げしてくれるものではありません。


この辺りの「エリートと貧民」という階級の差は後に「タイムレンジャー」の竜也と直人を通して描かれていますが、その萌芽は既にここであったのだなあと。
ついでに井上敏樹つながりで最新作となる「ドン・ブラザーズ」で各キャラクターに複雑な家庭事情が織り込まれているのは本作で仕込まれている要素への原点回帰かもしれません。
内容自体は月並みであり、ラストは結局「ブチギレた長官はやっぱり真性ドS」という身も蓋もないものでしたが、凱と香のワンシーンをしっかり描いたことで面白いものとなりました。
評価はC(佳作)、内容自体はありきたりだったのですが、そこに次回以降へ繋がっていく要素を織り込んでおり、こういうキャラクター描写の丁寧さは本作のとてもいいところです。


第44話「魔人ロボ!ベロニカ」


脚本:井上敏樹/演出:雨宮慶太


<あらすじ>
凱は香の家庭に違和感を感じていた。最近うまくいってない、とグチをこぼす香。一方、ついに史上最強の魔人ロボ・ベロニカが完成。四大幹部が搭乗し、ベロニカは破壊の限りを尽くす。生身の人間の生体エネルギーから生まれるベロニカのパワーはグレートイカロスをも上回る。ジェットマンはこのピンチを切り抜けられるのか?


<感想>
今回と次回は魔人ロボ・ベロニカとの決戦編ですが、これは後のシリーズに繋がる「クリスマス決戦編」の元祖というところでしょうか。
明確なクリスマス決戦編をやるようになったのは「ダイレンジャー」「カクレンジャー」辺りからですが、そういった総力戦の元祖とも言えます。
さて、まずは前回の続きですが、とうとう関係性が破局してしまった香と凱ですが、女子高生のアコによってバッサリぶった切られました。


「ま、なんだね、私としては駄目になると思ってたよ」


アコは本当に良くも悪くも視聴者視点というか、清涼剤というよりは狂言回しの意味合いが強く、結構視聴者の思っていることを口にしてくれます。
プールサイドでガールフレンドたちから「つまんない男になった」と言われるわけですが、ここで改めて凱と香の性格も含めたスタンスの違いがはっきり出ました。
凱はあくまで香と「恋人らしいことをする」のが好きなのであって「将来を歩みたい」などということは微塵も思っていません
3話で婦警をナンパしていましたが、凱が香に対してやっていたことはあくまで「ナンパ」であって「真剣な恋愛」などではないのです。


これは凱と香の関係を竜とリエのそれと比べるとわかりやすいですが、竜とリエは第一話で生き別れになったとはいえ、将来を共に歩もうと誓った仲だったことが伺えます。
リエのことになると仕事ができなくなってしまう彼ですが、表現として重すぎるだけで彼のリエに対する愛とはそれくらい将来を視野に入れての真剣なものだったのです。
しかし、凱はあくまでも女を「侍らせて抱ければ十分」というか、なんだったら「自分の所有物」になればそれで十分とさえ思っている節があります。
つまり凱とはそれだけ我儘な男なのであり、やはり香の両親が悪いのではなく、凱の素行だけではない根っこの人間性に問題があるということです。


前回の感想でこのワンシーンを小津映画に例えてみましたが、原節子が「小早川家の秋」で原節子がこんなことを言うのです。


「品性の悪い人だけはごめんだわ。品行はなおせても、品性はなおらないもの」


そして凱は相対的にみて「品性の悪い人」ということなのかもしれません、あまりにもファンから美化されがちですけど、凱って根っこはチンピラですしね。
だから表向きの品行だけを見れば凱って「かっこいい男」に見えるのかもしれませんが、生まれ育ちというか「ジェットマンになる前まで」を見たら、酒とタバコと女の匂いがプンプンするやつです。
ちゃんと真っ当に働いて生きているのならともかく、そうでない可能性が濃厚で20年以上も生きて大人になった彼にとって竜や香は眩し過ぎて手に入らないものなのかも。
そんな彼でもカッコよく見えてしまうのは良くも悪くも「自分」であることを他者に認めてもらいたいという承認欲求の表れだったのだと言えます。


凱の主張って半分以上は真に受けてはならないもので、特に「戦士である前に人間だ!男と女だ!」は一見正論のようでいて、その実己の我儘を通すための論理のすり替えを行っているのです。
彼の本音は結局「俺を見てくれ!俺を見ろ!」であり、まさにサブタイにあった「俺に惚れろ!」こそが凱の生き様であり、そんな奥底にあるこの思いこそが凱という男なのかもしれません。
だから、竜もそうなんですけど、本作は「カーレンジャー」「メガレンジャー」に先駆けて「等身大の正義」路線を打ち出して、ヒーロー性という仮面を極限まで低くしています。
そうすることで逆説的にヒーローにとって何が大切かを描こうとしているアンチヒーロー作品であるともいえ、だからこそ竜も凱も問題行動が多いのにファンから高く評価されているのでしょう。


それでは香はどうなのかというと、そんな困った男2人に振り回され、しかし自分もまたその2人を振り回してきた人であり、決して単なる「いい女」として描かれているわけではありません
香ってその見た目の華奢さとお嬢様としての世間ズレも合わせてとにかく「めんどくさい女」であり、単なる「世間知らずのお嬢様」という括りに収まる女ではないのです。
前にも書きました通り、どっちかというと女らしいのは香よりもアコの方ですしね、アコは表向き明るく見せてますけど内面は乙女で結構精神的に脆い一面があります。
ではそんな香が本作のヒロインなのかという話ですが、これに関しては最終回前と最終回に取っておくとして、結局のところ「身分の違い」とは人が思う以上に大きな壁として立ちはだかるのでしょう。


そしてそんな2人の関係を打ち崩すかのように現れたのが魔人ロボ・ベロニカであり、トランザの指揮のもとに対グレートイカロスの決戦兵器が誕生。


「魔人ロボ・ベロニカ、出陣」


雨宮慶太監督自らがデザインしたロボットが出撃し、ラディゲ、マリア、グレイも乗り込んでの戦いとなりますが、流れとしては中盤のセミマル戦の発展版という感じです。
最初はジェットイカロスとガルーダが押しますが、しかしスペックは完全にベロニカが上で、という見せ方が如何にも「持ち上げて落とす」を得意とするトランザっぽいやらしい攻め方ですね。
このシーンの特撮もまた気合が入っており、今回と次回はとにかく全編にわたって「特撮!特撮!特撮!」という感じで、しっかり盛り上げてきます。


「貴様達の悲鳴ほど、心地よい音楽はない。最後だ、ジェットマン。ふふふふふふふ!ははははははは」
ジェットマンは俺の獲物!どけ!トドメはこの手で刺してやる!」
「ラディゲ、貴様……!」


ここでいよいよ本格的に下剋上を目論んできたラディゲとトランザの喧嘩が始まるのですが、いよいよバイラム崩壊の兆しが表面化してきたという感じです。
そもそも組織として成り立っているのかどうかすら怪しいバイラムでしたから、こうなるのは必然だったと言えるのですが、こんな決戦時にまで力を合わせられないのが実にバイラム(笑
そして遂にベロニカはグレートイカロスの装甲すらも突き破ってしまい、雷太、アコ、香の3人が内側にとらわれてしまうというかつてない大ピンチに。
状況的には竜と凱だけが残され、もう必然的に「凱に残されたのは竜との男の友情だけ」になりましたが、ズルいのは香関連であんだけ情けなかった凱が竜と絡むとカッコよさ5割増であることです。


凱と香の恋人関係の自然消滅とバイラムの仲間割れというのはドラマの対比として組み込んできた要素なのでしょうが、凱と香のそれは結果としてジェットマンがチームとしてまとまるプラスの要素に繋がっています。
それに対して、完全なマイナス要素にしかなっていないのがラディゲとトランザの仲間割れであり、しかも突発的なものではなく、物語の蓄積を踏まえた上でのことなので説得力が段違いです。
一見奇を衒ったようなことをしていても、根っこの部分できちんと「ヒーロー」「戦隊」を忘れていないのが本作の絶妙なバランス感覚であり、評価はS(傑作)

 

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