明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)37・38話感想

 

第37話「誕生!帝王トランザ」


脚本:井上敏樹/演出:雨宮慶太


<あらすじ>
前回の戦いで屈辱的な敗北を喫したトランは、怒りで成長が早まり帝王トランザとなった。大人になりパワーアップしたトランザが、長野の竜たちの前に屈辱を晴らすため再び姿をあらわす。ジェットマンに対し圧倒的な強さを見せ付ける無敵のトランザ。他の3人の幹部までを敵に回し、四大幹部の頂点を目指し始める。

 

<感想>

 

「秋だってのにかわずがうるさいぜ。井の中のかわずってやつだ」
「お前より女にモテる奴だっているんだぜ、ふっ」
「なーんだ、自慢の胃袋もその程度か、失礼」


のっけから物凄く慇懃無礼な挑発で1人1人を煽りながら見せていく展開が実に井上先生らしくて面白いですが、これでも元トランというのが面白いところ。
慰安旅行に来てまで道着で木刀振るってる竜の修行バカ(というかリエバカ)っぷりもさることながら、それすらも完全に持って行ってしまう広瀬匠の圧倒的インパクト。
さすがは「フラッシュマン」「ライブマン」と出ていただけあって貫禄もすごく、何よりここまで見せつけた後のこの台詞がすごい。


「サナギを破り、蝶は舞う。トランの殻を破った時、このトランザが……天に輝く!」


さあついにその姿を現したトラン完全体ことトランザ…前回「子供だから」とバカにされただけでここまでやり返してみせるというのが実にいいですね。
竜たちからしたら「なんだこいつ」でしかないのですが、その竜たちが前回やったことの報いを受けていると思えば一応トントンのバランスではあるのか。
トランザはトランから更にバージョンアップした能力でジェットマンから武器を奪い、ジェットマンをコテンパンに伸した挙句ラディゲたちまで配下に敷くというね。
これまで明らかにトランが1ランク下なイメージがあったのですが、ここに来て完全に力関係が逆転し、トランザがトップに上り詰めることになりました。


そんな急転直下の事態に竜はどうするのかといえば、なぜか丸太を受け止める訓練をしていた!(笑)


すごいなあ、竜ってこれまでちょくちょく「この人はMなんじゃないか?」と思いましたが、とうとう昭和のスポ根まで本格的にやるとはな。
で、こんな訓練が何の役に立つのかというと、いわゆる「真剣白刃取り」ではなく「真剣体受け止め」という荒技を披露。
えーっと、つまり「打撃に耐える」のが目的であって「かわす」のでも「カウンターする」でもないというのが新境地でしょうか。
しかもここでラディゲ嫌がらせで放った魚雷ピラニアによってトランザ共々吹き飛ばされてしまうというとんでもないことになりました。


思えばこの時から、崩れ落ちていくトランザの予兆があったといえますね、対する竜も竜で完全に満身創痍ながらも良く耐えています。
で、そんな竜を欠いた状態となると、凱がサブリーダーとしてまとめあげるという構図がしっかり成立しているのも見事です。
その上でピラニアは元気ピンピンの4人がバードブラスターを浴びせて魚雷発射口を狙って暴発させ、見事に撃墜しました。


「貴様たちはこれから、俺の手足となって働くのだ。ラディゲ、俺の名を言ってみろ。俺の名を言ってみろ!」
「う、トランザ……」
「……なに?」
「トランザ……トランザ様ぁぁぁぁぁぁ!!」


何だかカノッサの屈辱を彷彿させるようなやり取りですが、バイラムの内輪揉めって名前などから見るに中世ヨーロッパの叙任権闘争なのかもしれません。
これまでジェットマン側がずっと起こしていた内輪揉めを今度はバイラムが引き起こすこととなりましたが、ここからどう巻き返していくかが楽しみです。
一方で慰安旅行で骨抜きになりかけた竜たちにとってもトランザという新たな脅威が台頭してきたことにより、チーム全体にしっかり危機感を与えています。
このまままとまって快進撃とはならなず、きっちり一波乱入れてくるところはさすがの井上先生といったところですが、どのように転んでいくかお手並み拝見です。


単なる地方ロケで終わらせるのではなく、空気キャラと化していたトランにしっかり見せ場を与え、敵側にも味方側にもうまいこと盛り上がりが生まれました。
総合評価はS(傑作)、ここから最終章手前までは実質のトランザ編ということができ、それでいて既存のキャラクターが食われないバランスが絶妙です。


第38話「いきなりハンマー!」


脚本:増田貴彦/演出:蓑輪雅夫


<あらすじ>
ジェットマンはバイオ次元虫を冷凍捕獲することに成功した。竜の親友、柳が所属する研究所で分析を依頼するが、竜に対する劣等感を抱いていた柳は次元虫の研究成果を独り占めしようとする。次元虫を横取りした柳は、取り返しにきたトランザとハンマーカメレオンに狙われることに……。


<感想>
トランザの台頭によって、危機意識が高まったのか、ジェットマンはバイオ次元獣を倒した後すぐに処分せず、大元の次元虫を捕まえて分析しようとします。
おお、ようやくジェットマンも本来の軍人戦隊らしいことをし始めたか…スカイフォース所属というのが今まで名ばかりだったもんなあ。
そして面白いのがやはりバイラム側であり、当然失態をやらかした3幹部がトランザから攻められます。


「次元虫の弱点を握られれば我らの最後だ。表次元侵略を諦めねばならん」


そ、そこまで追い詰められてたのかバイラム!?


あー、そうか、今まで無敵の強さっぽく見えていたバイラムですが、バイラムっていわゆる「個々は強いけど組織全体としては破綻している」というゴロツキの集まりか。
まあいわゆる個人事業主の集まりみたいなもので、設定面を思えばジェットマンが公的機関の所属なのに対して、バイラムが完全な私設組織というのはかなり意図的に狙った設定だったのでしょう。
ちなみに「タイムレンジャー」ではこれが逆転してしまい、タイムレンジャー側が個人事業主の集まり、そしてロンダーズファミリーがファミリーという組織所属なのが面白いところです。
そういう意味ではバイラムって歴代初の「帝国」というしっかりした組織じゃない野党集団の始まりであり、これは「ジュウレンジャー」以後にも継承されていく設定となりました。


その一方、ジェットマン側では竜が旧友の柳という若き科学者と顔を合わせます。


「竜、俺はお前が羨ましいよ。地球を守る英雄として、華々しく活躍している。それに比べ俺は……」


…………うーん、これぞ正しく「隣の芝生は青く見える」という奴だなあと(笑)


メンバーの人心が落ち着いていて、かつ竜がまだリエ絡みの狂気を見せていないからそう見えるだけで、リエ絡みで公私混同しまくっている井上脚本の竜を見たら柳は何と言うでしょうか?
ただ、ここでホッとしたのは竜の学生時代が補強されたことにより、唯一の正規戦士というエリート設定が飾りではなくちゃんとしたバックボーンのあるものになったことです。
井上脚本ではほとんど掘り下げられていない設定であるため、本作初参加となる増田氏がとてもいい仕事をしており、やっとここで竜が本当に「エリート」に見えました。
で、柳が嫉妬心と功名心から抜け駆けしていたのですが、ここでずっと奥底で燻っていたコンプレックスを爆発させます。


「お前はいつも栄光に包まれていた。だが俺は……」
「次元虫を横取りして、それで栄光が掴めるとでも思ったのか!」
「軽蔑しろよ。お前はいつもそうだ。何気ない顔して、心の底では他人を見下してるんだ!」


まあ竜は竜でそのエリートであるが故の苦しみを抱えることになっているのですが、それ以外の視点からそんな竜でも周りにとっては羨望の対象になるというのは納得行く流れ。
竜って学生時代は体育会系というか学級委員気質で、いわゆる「いい子」だった反面、周りの気持ちには疎いという典型的な朴念仁タイプだったのでしょう。
実際初期の凱もそれ故に竜に反発していましたし、雷太や香たちが反発しながらも憧れを持ったのもまさにその部分でしたからね。
それをジェットマンのメンバーではなく学友という第三者委員会がきちんと裏付けることによって、竜のバックボーンが強固になりました。


ちなみに柳を演じているのはチェンジドラゴンを演じた方なのですが、その「チェンジマン」ではまさに中盤で「アースフォースに選ばれなかった者たち」を描いていましたので、そのセルフオマージュでもあったか。
しかし、竜も竜で凱たちとの関わりの中で向き合う強さを身につけたのか、改めて柳との友情を再結成しますが…うん、凱たちも完全に割って入れない綺麗な友情です。
そしてそのあとはスピーディーな戦闘シーンを入れ、改めてレッドホークとトランザが前回からこっちで完全なライバルとなりました…ラディゲ(涙)
まあラディゲは所詮鳩ごときに池に落とされた小物ですからねえ、ある意味この扱いも宜なるかなと。


そしてラストは2人の爽やかな友情で復活となりましたが、本作にしては極めて珍しい青春・友情という路線をしっかり描いた一本。
井上脚本回じゃない方がまともに見えがちなのが竜、というか「ジェットマン」の何とも不憫なところですが、その不憫ささえも魅力に変えてしまえるのがジェットマンの凄さですね。
まあ嫉妬するのが元レッドというのはちょっと説得力としてどうなんだろうと思いますが、凱以外の視点から竜の優等生キャラにしっかり切り込みを入れたのはよかったところです。
正しいとされる人間は存在自体が周りにコンプレックスを植え付けかねない存在ですから、バランスとしてはまあまあこの辺りでよかったのかもしれません。


評価はB(良作)、終盤に入れるべき話かどうかは微妙なところですが、ただまあ32話でチームが一度まとまったからこそ出来た話でもあり、タイミングとしてはここしかなかったのでしょう。

 

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