明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ23作目『救急戦隊ゴーゴーファイブ』(1999)13・14話感想

 

第13話「弟たちの反乱」


脚本:小林靖子/演出:小中肇


<あらすじ>
救急のプロとして、マトイはオフであるはずの日も弟達に訓練を強要する。そんなマトイの横暴な振る舞いに嫌気が差していた弟達は訓練をボイコットし、マトイを爪弾きにして頂いたギフトの食事券4枚で豪華な料理を食べることにした。一方、災魔一族は暴食サイマ獣ジュウキを繰り出し、街中にあるビルを次々と食わせて破壊するという作戦に打ち出す。弟たちはレストランでマトイの愚痴を言いながらも楽しく食事するが、そこでジュウキの暴食テロに巻き込まれてしまうが、ゴーゴーブレスはスーツ性能強化のためモンドの元にあった。マトイは弟たちのボイコットに怒りつつも、ビルで発生している火災を止めることができるのだろうか?


<感想>
さあ、いよいよやってきましたマトイ兄さんメイン回。主人公なのにそのキャラクターが掘り下げられるのが2クール最初というのも意外に珍しいのではないでしょうか。
まあそもそもマトイ兄さんは演じる西岡氏のビジュアルと演技力もあって、画面に映っているだけで存在感はありましたが、そのバックボーンが掘り下げられたことはありませんでした。
今回やっとそこを掘り下げてくれた感じですが、もう小林さんが本作ではサブライターであるのをいいことにマトイ兄さんを使って遊び放題だなあと(笑)
これまでもマトイ兄さんはどこか横暴なイメージがありましたが、今回でそれがもろに露呈してしまった感じで、やっぱり小林女史はこういうのを書かせると上手い。


そしてこの回で露呈したのはマトイ兄さんがいわゆる「レスキューバ」であることが判明…いわゆる「ボウケンジャー」「シンケンジャー」にも通ずる「専門バカ」のキャラクターですね。
つまり救急のプロとしては一流だけど、それ以外のことは何もできないどころか、むしろ人間力は歴代屈指の最低ぶりという…改めて弟たちの回想で描かれてましたけど、こんな無神経な長男嫌だなあ(笑)
だってさあ、年頃の女性が風呂入ってるのに空気読まず平気で入ったり、次男が開発していたマイクロチップを勝手に潰したり、三男に運転させて自分はグースカ寝てたり、将棋で負けかけたらスリッパで叩いたり…。
改めて私の長男はこんなに横暴な長男じゃなくてよかったなあと思ってしまいます…うん、私がマトイを心底「嫌い」とまでは言わなくとも、好きにもなれないのはこの弟たちに対する粗雑な扱いにあるのですよね。


環境や状況的に仕方がないとはいえ、やっぱりマトイって歴代の中でもかなり横暴な長男だと思うんですよね、それこそ横暴さというか無神経さでいえば「ニンニンジャー」のタカ兄といい勝負です。
個人的に理想的な長男タイプというと、やっぱり「ファイブマン」の学兄さん、「ギンガマン」のヒュウガ辺りが浮かぶのですが、マトイ兄さんはその2人と比べると圧倒的に人間力が低いなあと思います。
ただ、じゃあそれが悪いかというとそういうわけじゃなく、むしろ長男の人間力が低いからこそ弟や妹たちが必死にその足りない部分をフォローしなきゃって気にさせるんですよね。
この辺りは持ちつ持たれつというか、マトイ兄さんがそれだけ欠けてしまっているからこそ、それを必死に埋める弟たちの優しさ、特にマツリの優しさが光ると思うのですよ。


しかし、これだけで終わりと単にマトイ兄さんを下げただけで終わるので、ここで大事なのはその1点が全て「人の命は地球の未来」という使命に一直線な長所があることでカバーしているところなんですよね。
そう、単なる無神経で横暴な長男で終わるのではなく誰よりも人の命を救うこと、そして地球の平和を守ることに一直線だからこそ、どれだけ欠点だらけでも弟たちや妹たちがついて行きたくなるのです。
今回のポイントは後半、マトイ兄さんが炎の中を掻い潜りながら取り残された弟たちを救うところでの弟たちの一言にあります。


「前言撤回!何が優秀なレスキュー隊員だ!」
「やっぱり無茶苦茶で、自分中心で!」
「喧嘩っ早くて……」
「でも、いつも私たちのそばにいてくれるんだよね」


そう、どれだけ横暴だろうと嫌われようと、自分中心と言われようと、全力で命を張って矢面に立って弟たちを守り、そして家族を守って支えてきた…この1点において間違いなくマトイは最高の長男であり頼れるレッドです。
かなり親父臭い感じのキャラクターにはなってしまいましたが、おそらく小林女史としては前作でリョウマとヒュウガを通して「理想のヒーロー」を描き切ったことで、余裕が生まれたのでしょうね。
同時に本作のテイストや作風を見ながら、「マトイのキャラだったらここまで遊んでもいい」「前作のリョウマとどうやったら差別化を図れるのか?」を考えてこのような結果になったのかもしれません。
そしてそんな小林脚本の遊びにしっかり応えられるだけの演技力を持つ西岡氏だからこそ、マトイがこれだけ横暴なキャラでも魅力的に映るのだと思うのですよね…本当にマトイは不思議なレッドだなあと。


歴代レッドとの比較で言うならば、マトイは「暑苦しい」けど「バカレッド」ではないんですよね。やたらに根性論を振りかざすけど、それだけではないというか、決して表面的な軽い熱血ではないという。
これは西岡氏が自身のYouTubeチャンネで喋ってましたけど、最終オーディションで「マトイってキャラは熱いやつなんだけど、それを演じ切ることができるか?」と問われたそうです。
その時に周囲が全員揃って「できます!」と答える中で西岡氏は1人だけ「僕、もともと熱いんで、出来ないわけないと思います」と答えてたらしく、こういうところがもうすでにマトイだったのだなと。
何が言いたいかというと、マトイの熱さって00年代以降の記号的な熱血表現じゃなく、奥底がマグマのように滾ってるような火傷する感じのハードボイルドな熱さなんですよね、もう次元が違う熱さ。


それは前作のリョウマの爽やかな熱さとはまた違うのですけど、その意味でもこのマトイのキャラクターはまさに西岡氏にうってつけの役で、「当たり役」とはまさにこのことをいうのだと思いました。
リョウマが平成戦隊のニュースタンダード像となる「理想」を行くヒーローならば、マトイは「現実」に居そうなヒーローという感じで、江戸っ子気質も相まって非常にいいキャラだと思います。
それから細かいのですが、前回のグランドライナーでの大ダメージを受けて、モンド博士がスーツを改修・強化しているから弟たちがスーツを着られずピンチに陥る流れにも説得力が生まれました。
9話のマツリ回の時点ではやや疑問も感じたようですが、本作のゴーゴーブレスは予備品を量産できるわけではなく、それぞれに合わせて作られたオーダーメイドカスタムであることが判明。
だからこそ、マトイ兄さんが一度弟たちを捨てて戻ったように見えてしまう流れもうまく繋がっており、やっぱりこういうのを書かせると上手いなあと思うのです。


まあそれだけかっこいいところを見せておきながら、ラストではきっちり呼びのカップラーメンを勝手に食べたことで弟たちからまたもや反乱を食らって落とされてしまうのですが(笑)
しかし、こういう「専門バカ」というイメージを「ギンガマン」の翌年にして既に描いていたのは興味深く、マトイ兄さんのこのキャラ造形がのちのボウケンレッドやシンケンレッドにも繋がっているのかなと。
ある意味ではマトイもチーフも、そして殿もリョウマを1つのモデルとして、「完璧超人にいかに弱さを与えるのか?」ということで考えられた末の造形だと思うのすが、この辺りを比較してみるといいかもしれません。
これまで表面的に単なる「横暴な長男」でしかなかったマトイ兄さんの長所も短所もひっくるめてしっかり描かれたことで、単なる熱血長男からまた奥行きが生まれて、非常に面白みのあるキャラとなりました。
好きではありませんが、間違いなくゴーレッド/巽マトイのキャラクターの掘り下げには成功したたため評価としてはA(名作)でしょうか。


第14話「恐怖のウイルス」


脚本:宮下隼一/演出:小中肇


<あらすじ>
死んだサイマ獣を強力なゴレムサイマ獣として蘇生させるゴレムカードの存在を知ったピエールは各地で探索を行ったが無駄足で終わった。ジルフィーザが電脳サイマ獣サイバギルドを生み出し、コンピュータへのハッキング作戦を開始する。一方、マトイ達は京子が差し入れとして持ってきた寿司をご馳走になっていたが、首都各地でコンピュータの異常が起こっているという報せを受ける。その被害はベイエリア55にも及びかけたが、ナガレは自分の開発したアンチウイルスシステムでウイルスの消去に成功した。ナガレはサイマ獣が潜む場所を予測するも、サイバギルドの放つウイルスはアンチハザードスーツに異常を起こす可能性があるそうだが…。


<感想>
前回のマトイメイン回に続き、今回はナガレメイン回。3話以来やっとこさ出番が回ってきたナガレメイン回ですが、この回でようやくナガレもそのクールな知性派の血を覚醒させて一気にキャラ立ちしました
まず災害といっても単純な自然災害だけではなく、サイバーテロという形でのウイルスの起こし方自体は定番の流れになっていますが、その上でベイエリア55にも侵入しようというのが秀逸。
というか、むしろなんで今までやらなかったのだろうと思うのですけどね、「ギンガマン」なんて2話目で既に敵側がギンガの森を襲撃していたというのに…やっぱり災魔一族って頭いいんだか悪いんだかわからない。


まあそんな今回の話ですが、メインはスバリナガレとモンドの天才科学者対決であり、一番モンドの血を濃く受け継いでいるのが次男坊のナガレであることがこの回で浮き彫りとなりました。
今回はコンピューターウイルスにどう対応するのかが見どころだったのですが、ここでモンドからナガレへの次の一言が痛烈です。


「科学を実戦の場で使うには理論だけでは不十分だ。それがわからんうちはナガレはまだまだワシには勝てん」


これはまさにモンド博士だからこそ言えたセリフであり、思えばこれまでナガレのその長所が生かされた場面はなく、二番手なのにこれといった見せ場は特にありませんでした。
しかし父親は立ち上がりの段階で既にベイエリア55を始め様々な基地を開発しているわけで、それに加えて対災魔用の武装まで数々生み出しているから説得力があります。
それに対して、ナガレはまだまだ机上の空論の領域に終始していて、そこからどう実戦に活かすかという発想がなかったのです。
その「天才科学者」としての側面をフィーチャーして、ナガレがいよいよ内側にクールな熱さを秘めた参謀に覚醒する様が今回描かれています。


しかも、ここで終わりではなく、後の回でもしっかり受け継がれていますので、その観点から見ても今回はナガレが大きく飛躍していく第一歩となりました。
最終的に今回出てきた敵が死霊サイマ獣だったことでグランドライナーでは倒せず、アクセススコープで裏付けをとった上でビクトリーロボのブレイバーソードで倒すことに。
正直12話で出たすぐさま後でこの流れは厳しいものがあるのですが、ここで「死霊サイマ獣」という属性の問題を与えることでグランドライナーを決して咬ませ犬にしていません
その上で、もう出てこないと思われていたビクトリーロボにしっかり活躍の場を与えるという持っていき方が見事で、本作本当にメカニック描写が用意周到にできています。


どっちが優れているかじゃない。柔軟かつ最適な戦略こそが大事」と言ってみせたナガレの一言は本当にその通りで、ナガレは決して冷たいわけじゃなく、合理的な判断のできる人なのだろうなと。
これでダメだったら別の方法を探すという風に思考の切り替えがしっかりできる人で、思えばモンド博士もそういうことができるタイプだったのではないでしょうか。
全体の流れとしてはベタといえばベタで、前回のマトイのドラマほどキャラが立体的になったわけではないのですが、「科学者」という一面にフィーチャーしてきたのは大きい。
そこを現在進行形で描くことによって、眠れる獅子を覚ましたというか、改めてナガレが非常に前向きになったのはいいことだと思うのです。


単なるコンピューターウイルスによるサイバーテロだけではなく、そこでモンドとナガレの競争を絡めてナガレのキャラクターをしっかりと作り上げました。
この回以降ナガレはゴーゴーファイブに欠かせない優秀な二番手、技術開発部門として活躍していくことになるのですが、その原点を描いた回。
スロースターター気味だったゴーゴーファイブですが、この回までで5人のキャラ立てが完了し、ようやくゴーゴーファイブの基本が完成した感じです。
ここからどのように物語が膨らんでいき、世界観が拡張して行くのかを楽しみにし、評価はA(名作)としておきましょう。

 

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