明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ22作目『星獣戦隊ギンガマン』(1998)33・34話感想

 

第三十三章「憧れのサヤ」


脚本:小林靖子/演出:辻野正人


<あらすじ>
八百屋の息子である恭平が学校の帰り道に常連で来てくれるサヤと出くわし、実はかねがねさやに惚れている。彼はサヤが忘れていったタマネギを届けることになったのだが、そこでサヤから「木登りしないか?」と勧められた。しかし、恭平は木登りが子供っぽくてカッコ悪いことだと思ってしまい断る。一方バルバンの方では作戦失敗続きによりもう後がなくなったイリエスが自分の切り札にして弟でもあるデスフィアスを繰り出し、人々に嘆きの仮面を被らせて泣かせる。リョウマたちも仮面を被せられて泣き顔にされてしまうのだが、頼みの綱がさやしかいない。サヤを追って来た恭平が彼女にいいところを見せようとデスフィアスに立ち向かうが…。


<感想>
さて、今回は第二十七章以来のサヤメイン回ですが、小林女史が書いたにしてはどうにもなあ…という感じで、荒川脚本や武上脚本よりはマシですが、やはり展開的には今ひとつ面白みがありません
というのも、こういう「子供たちを優しく導く戦士」に関しては第一章の段階からリョウマと勇太を通じて丁寧に描いて来たことであって、恭平くんのキャラクターが勇太ほどの存在感がないんですよね。
また、サヤが実は八百屋の常連だったというのもかなり唐突な後付設定になった感じは否めず、どうにも苦しい展開が多く、その場で取ってつけた感じがしてしまいます。
そもそもここまでサヤメイン回はサブライターの武上氏と荒川氏しか書いていないので、小林女史はほぼノータッチのまんまここに来ているんですよね。


「恭平、格好いいとこあるじゃない」
「え?」
「出来ないって正直に言うの、凄く勇気がいるもんね」
「サヤ」
「無茶する恭平より、今の素直な恭平の方が好きだよ!」


この辺りも単独で見れば「少年に優しいお姉さん」という、まあ今風にいえば「おねショタ」みたいな展開なのですが、サヤのキャラクターの根本がよく分からないのでリョウマの劣化版という印象に。
強いてサヤのキャラの軸を挙げるとすれば、以前にも書きましたが「ヒュウガへの恋心ともつかない憧れ」であり、しかしその方向で活かそうと思うとリョウマが障壁として立ち塞がるんですよね。
また、いわゆる料理や花を愛するなどもゴウキが担当していますし、かといって今回のような未熟な少年を導く役もリョウマがよりうまくやっているので、結局彼女のキャラ立てになるものが何もないという。
女らしくいようとするわけでもないので、どうにもサヤに関しては作り手からスポイルされてしまった印象で、サヤのキャラ立ちが上手くいかなかったのもまた本作の数少ない欠点の1つです。


また、恭平のキャラクターもまたバックボーンが不足している感じが否めず、八百屋の息子でサヤに憧れを抱いていること以外にないのがどうしても痒いところに手が届いていません。
例えば恭平が勇太のクラスメイトで、勇太の紹介を通してギンガマンを知ったとか、恭平も最初は「嘘だ」とバカにしつつも戦いの中でギンガマンの凄さを知って行くとかでよかったはずです。
それが無理なら恭平なんて突発的なゲストキャラを出さずに、勇太とサヤを絡ませる展開でもよかったはずで、その辺りから見てもかなり詰めが一歩も二歩も足りないエピソードとなってしまいました。
サヤと恭平、2人のキャラクター強度の弱さに加えて、それがギンガマンらしいヒロイズムにつながるわけでも世界観の拡張につながるわけでもないという、奥行きや深みのなさが出ています。


まあただ、面白いところがないわけでもなく、ギンガマンの男性陣がこぞって泣き顔の演技に挑戦しているところは迂闊にも笑ってしまいました。
特にリョウマは笑顔、ハヤテは渋い顔が似合うので、どうしてもこの態とらしい泣きの演技が普段とのギャップで相当面白いことになった感じです。
ちなみにゴウキだけは全く違和感がないのですが、演じる照英氏はそもそも泣き顔が一番絵になる人なので、泣きの演技をさせたら本作で彼の右に出る者はいません
それからもう1つ思ったのですが、イリエス魔人族が持っていた「人々の負の感情を集める」は後年の臨獣殿アクガタや外道衆が得意としていたことでしょうか。
あちらは嘆き悲しませること自体が目的であるのに対して、こちらは嘆きや悲しみをダイタニクス復活のエネルギーとする、という違いはありますが。


内容的にはまずまずといったところですが、戦士に憧れる少年という話としてはイマイチだったので、評価はE(不作)となります。


第三十四章「不死身のイリエス


脚本:小林靖子/演出:辻野正人


<あらすじ>
ゼイハブはとうとう後がなくなったイリエスに自ら出陣する代わりに、作戦成功したら金貨を倍にすると海老で鯛を釣る提案を行い、イリエスは意気揚々と出撃していく。イリエスは9000人分の血をダイタニクスに送ることで復活させようとするが、実はゼイハブの中ではとっくにイリエスの信用残高はなく、遅かれ早かれ損切りするつもりだったのだ。一方でギンガマンはイリエスの作戦を阻止しようと駆けつけると、塔の中には変身解除する特殊な結界が貼られていて、生身で戦うしかなくなってしまう。更に彼女はこれまでの倒された魔人たちの怨念を魔術によって取り込み、邪帝イリエスへと変身したのだった。


<感想>
今回の話はイリエス編の最期にして実質の3クール目完結となりましたが、流石に幹部の退場だけあって非常に濃密なエピソードとなっています。
幹部決戦編を長石監督以外の人が担当するのは本作だとここが最初で最後ですが、まずは冒頭のシーンから1つ1つをチェックしていきましょう。
まずはバルバンのシーンから始まりますが、まずゼイハブがバットバスとビズネラからダイタニクスの体が腐ってることを知らされ、一計を案じます。
そこでイリエスに自ら出撃することを促し、成功したら金貨を倍にするという「海老で鯛を釣る」作戦で出撃させるです。


「わかりましたわ。命を賭けた最高の魔術の力、ご覧に入れましょう」
「命を賭けた、か……期待してるぞ」
「私が死ぬと思ってるならお生憎よ。宇宙で最強の魔術を極めたこの私はたとえ死んでも何度でも復活できるわ。ほほほほほ」


この展開、あまりにもゼイハブたちの対応が温厚すぎるので、おかしいなあと思っていたのですが、その後すぐに真意が明らかとなります。
裏でこっそりゼイハブと腹心の部下であるバットバス、シェリンダが今回の命令の意図を話すのです。


「イリエスはたとえ死んでもその魂を魔力の塊にして遺す。何度でも復活する為にな。だが、それだけ強力な魔力の塊なら、ダイタニクスが腐ることぐれえは止められるってもんじゃねえか?しかしだ、イリエスのあの欲深さと小狡さは始末に終えねえ。どっちにしろ奴はここまでだ。そうなりゃ今度はてめえの出番よ、バットバス」


そう、サンバッシュやブドーの時とは明らかに対応が違っていて、サンバッシュやブドーの時は明らかに厳しく追及していました。
特にサンバッシュは「てめえ指詰めるか?」レベルの恫喝をしており、ブドーに至っては最終的に牢獄入りとなるのです。
しかし、それはゼイハブが決して裏切りを働かない部下だと信用したからであって、期待の表れでもあります。
一方のイリエスはというと、お金に目が眩む上に私情で仲間を裏切り組織に不義理を働く可能性がある厄介な相手です。
しかもそこで言外にブクラテスを除け者にしているところもポイントで、この前振りがラストの方で生きてきます。


あれだけ厳しい船長がイリエスに対してだけは妙に優しく対応しているなと思ったら、やはりその作戦には裏があってのことでした。
しかし、それに気づいておらず掌の上で踊らされているだけのイリエスはやる気満々で前に出ていて、ここもやはりサンバッシュ、ブドーの時と同じ構図です。
要するに後がなくなった幹部たちが決死の覚悟で飛び出て戦うということなのですが、イリエスはその2人とはまた違う変化をつけています。


「ようこそ、ギンガマン。我が生け贄の街に」


サンバッシュやブドーと違い肉弾戦で戦っては負けてしまうことが第二十八章で証明されたので、イリエスは流石に同じ轍を踏みません。
これまでに散っていった部下の魔人たちの怨念を取り込み、全身に魔人の仮面がついた遺影フォームもとい邪帝イリエスへとパワーアップ。
しかもそこには特殊な結界が貼られているので、ギンガマンたちは対応できません…というか、これガチの遺影フォームだから困ります。
ちなみに本作より11年後と13年後に今度はヒーロー側が遺影フォームを出すようになるのですが、まずは「仮面ライダーディケイド」の遺影フォームがこちら。

 

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続きまして、「ゴーカイジャー」の遺影フォームがこちら。

 

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うん、あまりにも全身お面だらけでマジキモい!(笑)


というか、絶対ディケイドのコンプリートフォームとゴーカイシルバーゴールドモードは邪帝イリエスからパクってきただろうと。
特にゴーカイシルバー遺影フォームは同じ宇宙海賊繋がりなので、絶対荒川氏あたりが本作からまんまパクったとしか思えません。
まあそれが悪いわけじゃないのですが、ただただビジュアルとしてかっこ悪いというか、悪役っぽく見えちゃうんですよね。
イリエスはキャラクター自体が気持ち悪い、かつ肉弾戦ではリョウマたちに敵わないから遺影フォームにパワーアップする理由もわかります。


しかし、ディケイドやゴーカイシルバーの遺影フォームはどう考えても「パワーアップのためのパワーアップ」以上の意味がないんですよね。
だからどうしても微妙になってしまうというか…そんなこんなでギンガマンは一度撤退を余儀なくされてしまいます。
無策で突っ込むのではなく一度きちんと作戦を練り直すところがやっぱり戦闘民族ギンガマンだなあと思うのですよね。
思えば「ガオレンジャー」のウラ究極体が出てきたときも似たようなシチュエーションだったのに、あっち6人中3人が無策で突っ込んで死んだという…。


そして改めてギンガマンたちはモークから状況を知らされた上で、改めて決意を固めます。


「つまり広場にたどり着くには相当な覚悟が必要ってことだな。助け合っている余裕はない」
「たとえ誰が倒れても、残った者はそれに構わず広場を目指す」
「行こう!街の人達を救えるのは俺たちだけだ。最後の1人になったとしても、その1人がバルバンを倒す!」


ここからギンガマンは久々に星銃剣を背負って戦いに走るのですが、ここでの疾走感溢れるBGMとリョウマたちの走りがいかにも「決戦!」という感じでテンション上がります。
広場を目指すギンガマンですが、次々と繰り出される魔人の防衛にサヤ、ヒカル、そしてヒュウガと次々にドロップアウトしていく。
ヒュウガがドロップアウトする時にリョウマたちに年上トリオへの叱咤激励がまた秀逸です。


「行くんだ!たとえ最後の1人になっても、その後ろで仲間が支えてることを信じろ!」


ここでどうしても仲間を置いてけぼりにできないリョウマの甘さをヒュウガが叱咤しつつ、同時に第二十六章で変化した「リョウマが先陣を切り、ヒュウガが後ろから支える」という構図がしっかり描かれています。
同時に「その後ろで仲間が支えている」ということで、単なる「死を厭わない自己犠牲」ではなく、先を行くリョウマたちが未来を勝ち取るであろうことを信じているのです。
この「公も私も双方を守る」というギンガマンのヒロイズムがここでもしかり示されており、本作が徹底して「自己犠牲」のための戦いに否定的なのは好感が持てます。
まあその自己犠牲は他ならぬ敵側のバルバンがやっているのですが、ここで「俺の屍を越えていけ!」という展開は王道的なのですが、まさに王道中の王道をいくギンガマンにふさわしい展開です。


また、ここでいわゆる魔人たちが立ち塞がる展開はいわゆる「再生怪人」なのですが、リョウマたちがその再生怪人を生身で相手するしかないことでうまいハンデになっています。
特撮作品だと再生怪人は基本的にやられ役でしかないのですが、本作では安易にやられ役にすることを回避し、もう一度イリエスの部下たちにしっかり出番を与えているのです。
そして案の定戦闘力最強のリョウマと怪力と爆発力のあるゴウキが広場にたどり着き、ゴウキがバルキバルキを食い止めるのは同じ怪力持ちとして奇跡的に噛み合いました。
リョウマがまるでディズニーに出てきそうな三角コーンの塔えとたどり着くと、星銃剣を持った勇太が冷徹にリョウマに襲いかかります。


この「リョウマにとっての精神的弱点」である存在を罠として使う手法は第十二章のサンバッシュが使った作戦と同じですが、その相手がヒュウガではなく勇太なのが細かい。
しかも星獣剣を握っても違和感がないのはこれまでの勇太の活躍を描いているからであり、やはり勇太の存在感がいかにこの作品にとって大事かが伝わります。
しかし、ここでやられっぱなしのリョウマではなく、冷静に判断するようになりました。


「(影がない!ということはこれは幻!)炎のたてがみ!」


見事な判断力で勇太の幻影を破ったリョウマはイリエス遺影フォームに苦戦を強いられるも、触手をぶった切り、遺影フォームを踏み台にして作戦阻止に成功したのです。
そのあとは仲間たちも変身した状態で駆けつけ、リョウマとゴウキも銀河転生し、ここからは遠慮なしのカタルシスで盛り上げます。


「「「「「「ギンガマン!!」」」」」」


光星獣剣&獣装の爪&キック→黒の一撃→ギンガの閃光で追い詰めるも、文字通りしぶとい遺影フォームはバルバエキスではなく魔術で巨大化しました。
さりげなく凄い能力を見せつけたイリエスですが、本作の幹部で唯一巨大戦を描いてもらえたという意味ではかなり優遇された方ではないでしょうか。
そして超装光ギンガイオーはすっかり咬ませ犬体質となり、今回はライノスとフェニックスの両方が出撃してフルボッコ
最終的にはいつも通り銀河大獣王斬りで倒し…しかし、その魂は決して死ぬことなく、またもや宝石になるのでした。
これをブクラテスが回収し、儀式で復活させようとするのですが…ブクラテス!うしろ!うしろーーー!!!


誰もがそう思った瞬間、背後をバッサリ切られてしまったブクラテスの後ろに居たのはなんとゼイハブだった!


「先生、俺は大抵のことには目を瞑る…たとえてめえとイリエスがブドーを陥れたってな!」
「な!?」
「だが今度だけは別だ。先生、長い付き合いだったが残念だぜ」


ここで改めてゼイハブの洞察力の高さと抜け目の無さが伺えるところで、単に偉そうにしているだけではなく、部下の不義理や裏切り者まで見抜いていたという。
以前にも書きましたが、ゼイハブが組織のトップとして優れているのは利食い」と「損切り」の使い分けがとても上手なところですが、それがここにきて最良の形で発揮されます。
サンバッシュやブドーと同じくらいの信頼価値を置いていましたが、そのブクラテスがイリエスと結託して不義理を働き組織の足を引っ張るようなら話は別というのが流石です。
このカリスマ性故にどれだけ仲間割れがあろうとも組織として威厳を失うことがなくやれたのですが、基本的にバットバスとシェリンダ、そして魔獣ダイタニクスがあればOKということでしょう。


そこから見えてくるバルバンという悪の本質…それはギンガマンとは対極的に「大事なものを次々に切り捨ててしまう」ということではないでしょうか。
欲望のためなら他者を傷つけ、殺すことも失うことも厭わない…それは正に第二クールの復讐鬼となったブルブラックが落ちかけていたところでもあります。
逆に言えば、どれだけの力があって強かったとしても、心の闇に飲まれてしまえばそれは単なる生物兵器でしかないのです。
まあそもそも第五章でバクターがサンバッシュに自在剣機刃を盗んでた時点で怪しかったのですが、バルバンの致命的欠陥がここで露呈することに。


仲間を大事にし、星を守り人を守るというギンガマンのヒロイズムとは対照的なバルバンの悪の美学がここで強烈なバックボーンとして浮かび上がります。
そしてイリエスの魂であった宝石は無残にもバットバスによって砕かれてしまい、ブドーを陥れたブクラテスとイリエスがとうとう自業自得な展開に遭うことに。


「諦めな爺さん。こいつはダイタニクスの為に使わせてもらうぜ」
「イリエス、イリエスぅ……!!」
「バットバス、たった今からてめえが行動隊長だ」
「任せときな船長。ダイタニクスは必ず復活させてやるぜえ!くははははははは!!」


ここで第4クールに向けていよいよバルバンが本気を出すであろうというのが窺い知れますが、思えば本作でこのように正義のヒーロー側ではなくヴィラン側で締めくくるのは珍しいかもしれません。
これから来るべき4クール目に向けての勢いをということだったのでしょうが、ギンガマン側のヒロイズムとバルバンの悪の美学を徹底的に対比させる構造をイリエスの最期で示したのが見事です。
思えば第3クールのイリエス編は黒騎士編のまとめだった二十五章と二十六章以外はどうにも箸休めというか、脚本的にも演出的にもパワーダウンした展開が多かった印象でした。
まあ「シンケンジャー」の中盤ほどグダグダではなかったのですが、本筋があまり進まなかったのと、想定外の外側からの注文に少し揺らぎがあって落ちた部分があったかなと思います。


しかし、イリエスの最期をきっちり面白くまとめあげてみせた功績はお見事で、評価は言うまでもなくS(傑作)であり、始まりと終わりはしっかり盛り上げました。
後は本命のバットバス編となりますが、ここからどう盛り上げていくのかが楽しみです。

 

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