明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ15作目『鳥人戦隊ジェットマン』(1991)21・22話感想

 

 

第21話「歩くゴミ」


脚本:荒木憲一/演出:東條昭平


<あらすじ>
アコが壊れてしまったぬいぐるみのプータンをゴミに出した日、プータンはゴミ処理場に運ばれると、トランのいたずらでその人形からゴミジゲンへと変わってしまった。ゴミジゲンには壊れたものを元に戻す能力があったが、とんでもない悪臭と見た目で人々からは忌み嫌われる。マリアは業を煮やしてゴミジゲンを助けようとすうるが、そこにジェットマンがやってきてゴミジゲンを助けたが…。


<感想>
今回は高校生戦士以来のアコメイン回ですが、彼女のメイン回としては今までの中で一番面白かったかもしれません。
井上先生が手がけたメインエピソード以外のサブエピソードとして挙がる一作として有名で、ファンの間では「帰ってきたウルトラマン」の「怪獣使いと少年」との類似性なども指摘されています。
同じ東條監督作品なので、どこかそういった社会派のテーマを描いていた70年代のウルトラシリーズへの原点回帰という意識も込めて作られていたのではないでしょうか。
どちらかといえば脚本よりも演出の色の方が強く出ているので、アコのキャラクターは脚本よりも内田氏の演技と東條監督の演出で膨らませています。


まあ一番凄かったのはゴミジゲン相手にこのようなことを言い放つマリアでしたけどね。

 


「人間が憎いか?姿が違うというだけで差別し憎しみ抹殺する…それが人間だ。人間こそ腐ったゴミなのだ!」


ものすごくストレートな社会風刺で、ここだけ単品で見ると凄く安っぽいのですが、思えば「ジェットマン」は第1話の段階から人間の醜さに焦点を当てた作品ではありました。
凱も第2話の段階で「しかしよお、いっそのこと人間なんざ滅んだ方がいいんじゃねえのか。公害問題に人種差別。確かに人類って愚かなもんだ」って言ってましたしね。
脇のエピソードでは金にがめつい人間の欲望が描かれたり、アコにしつこいストーカーを繰り返してるキモヲタ浪人生の話もありましたし…うん、なんなんだろうこの作品?
まあ一番人間の醜悪を描いているのは痴情の縺れで足の引っ張り合いをやらかした結果とんだ失態を招く話を作っている井上先生なんですけどね!


凄いなあ、今回の話って井上先生がメインライターじゃなかったらもっと衝撃的なんでしょうけど、メインライターの癖が強すぎるせいでかえって薄味に見えてしまうという(笑)
最終的にゴミジゲンはプータンとしての記憶を取り戻し、アコと和解して終わった…と思いきや、無残にもマリアの攻撃を受けて死んでしまったのでした。
どちらかといえば、個人的には「怪獣使いと少年」よりも玩具やぬいぐるみの処分をテーマにしたという意味で「トイストーリー2」の方が連想されます。
ラストはアコがまたもや無神経な業者がゴミを投げ捨てる描写を見て「バカヤロウ!!」と叫んで終わりますが、内容的にはもっとひねりが欲しかったところです。
まあアコちゃんメイン回の中では、彼女の内側に潜む優しさや乙女チックな感じが目立ってましたし、必ずしも敵をハッピーエンドにしないという本作のパターンに沿ってはいますが。


この時代にはゴミの不法投棄をはじめ環境問題など人間の醜悪をテーマにした作品も多かったので、その辺りに多少意識を向けて社会派の問題も描こうという試みでしょうか。
しかし、戦隊シリーズで社会派のテーマを描こうとすると、「タイムレンジャー」のレベルまで行かないと厳しいので、まだ本作では厳しかったのかと思われます。
評価としては甘めではありますがB(良作)、マリアのドSさとアコの優しさが対比で光りました。


第22話「爆発する恋」


脚本:井上敏樹/演出:東條昭平


<あらすじ>
ある日のこと、竜は突然凱の香に対する気持ちが本物なのかを訪ねる。一方ラディゲが手に入れたセミマルは裏で着実に成長し、もうすぐ誕生の日が近いことを喜んでいた。次の日、香のところに凱からデートの誘いがやってきて困惑するが、その後かかってきた竜の電話の方に強く反応し竜と共にある場所へ向かう。竜が香を連れて行った場所は亡き恋人・葵リエの墓だった…。


<感想>
さて、やってきました。今回から24話まではセミマル登場編、実質の前半の総決算となるエピソードです。
18話以来の井上脚本回ですが、今回の話はラストでバトルシーンが入るまでほとんど修羅場ばかりで、本来なら戦闘シーンが一切ないままの予定でした。
しかし、それだと流石にまずいのか、急遽戦闘シーンが差し込まれたらしく、ギリギリのところで特撮番組という体裁だけは守った模様です。


その導入編である今回は18話までを経て、竜の核心に迫っていく話が展開されています。
序盤ですっかり隠されていた竜の復讐心の動機となっていた「リエの喪失」をついに竜は香に打ち明け、香に自分を諦めさせ凱と付き合わせるようにするのですが、これがかえって不味かったのです。
まず冒頭の竜と凱のやり取りが大事なのですが、それよりも見所は社内での竜と香のやり取りであり、辛い心境の竜とウキウキしている香の温度差が物凄いことになっています。
しかし、この温度差は竜がリエの墓に連れていき、真実を話すことによって脆くも打ち消されてしまうのです。

 


「リエ……俺が愛したたった1人の女性だった。今でも俺は忘れられない。リエの声、ちょっとした仕草……初めてのデートの時、どんな服を着ていたのか。リエが死んでも、俺たちはずっと一緒だった。ずっと一緒に――戦ってきた」


そうして竜はブレスレットの中に収めているリエの写真を香に見せつけ…うわあ!そ、そこまで行ってたのか竜!


いやもうこれは愛とかバカップルとかそんなレベルじゃなく完全な狂気、もはやこの人の頭の中の9割はリエで構成されているんじゃないかというくらいに…うん、ドン引きです。
幾ら何でも組織から支給されている備品に愛する人の写真なんて貼り付けるバカはいませんよ…こんなことしてた奴なんてそれこそ「仮面ライダー555」の草加雅人くらいでしょう。
彼に関しては「仮面ライダー555」の感想を書く機会があればその時にでも書きたいのですが、いわゆる「闇落ちした天堂竜」みたいなもので、愛する人の小さき頃の写真を忘れ形見として保存していました。
忘れ形見であるのは構いませんが、それを見せびらかすなんて正気ですか…でもまあ竜はめちゃくちゃ不器用な性格ですから、こうなるのも仕方がないか。
でもそれで諦めさせて「凱を、凱を見てやってくれ!あいつは本気でおまえのことを!」はやっちゃあかんって…凱と香の感情の機微を何もわかってませんこの人は。


案の定、上級国民の香はショックを受けてしまい、傷心中の凱に公園で慰めてもらうのですが、ここで良かったのは凱が無駄に口説こうとしなかったこと。
今までの経験から「押してダメなら引いてみろ」を学んだのか、香を一旦受け入れた上で自分のものにしようとします…しかし、香はそれでも凱に気持ちが傾きません。
それもそのはず、香のターゲットはあくまで竜なのであり、それ以外の凱も雷太も全員「大事な仲間」以上のものではなく、下級国民でしかないのですから。
それで万事丸く収まるのかと思いきや、今度は香が面倒臭いことになりました。

 


「私、決めたんです。リエさんと戦おうって」


はあ!?あなた正気ですか!?


ここで香が潔く竜を諦めて凱に向かうかと思いきやまさかの略奪宣言で、なんかもうデジモンで言うスカルグレイモン並の暗黒進化じゃないですか?
もしくは「デジモンアドベンチャー02」のデジモンカイザーにぶちぎれた時の高石タケルのような暗黒進化…うん、もう誰も彼も皆正気を失っています。
すごいですねえ、18話までで凱の戦犯率が修正され少しはまともになったかと思いきや、今度は竜と香の戦犯率が圧倒的に増してしまうというね。
ただし竜にとってはまさか香がそんな面倒臭いことをしてくるとは思わず、とりあえずコンサートは凱とともに行ってこいと促します。
ところがこれがまたせっかく大人しくなったはずの凱を刺激してしまい、とうとうかつてないまでにブチ切れてしまうのです。

 


「誰がてめえに仲人なんか頼んだ!?香を、俺の気持ちを考えたことがあんのか!この馬鹿野郎!!」


第2話以来の取っ組み合いの喧嘩ですが、いよいよここでジェットマン崩壊寸前まで行くほどの大問題に発展してしまいます。
うんまあこれに関しては少なくとも凱は悪くないですよね…だって凱の香に対する気持ちと竜へのライバル心は何度も示されていたのですから。
竜としてはジェットマンを維持させるために善意でやったことなのでしょうけど、それが裏目に出てしまうという最悪の展開に…酷い(褒め言葉です)
まあフォローを入れておきますと、これまでずっと「お前は戦士なんだ!」理論を振りかざしてマウントを取っていた竜が初めて因果応報を食らった瞬間です。


しかも、比喩的な意味での泥沼ではなく、本当に泥沼の中で汚れながら喧嘩しているものだから、演出的にもかなりシュールだなあと。
「やめて!みんなやめてぇ!」と香は完全に「私のために争わないで!」みたいな少女漫画の主人公ですが、とりあえずアコか小田切長官は香をしばいてやってください
ここで普通の昼ドラや恋愛ものなら竜が凱と香を損切りして絶縁してしまってお終いにもできますが、忘れてはならないのは彼らは「地球を守るヒーロー」なのです。
そう、チームとして一度組むと決めた以上、人間関係には逃げ場がなく竜も面倒臭いけど凱と香、そしてリエの問題に真正面から向き合わないといけません。


逆に言いますと、竜は今まで「俺はジェットマンのリーダーだ!戦士だ!何を差し置いても全てに優先するんだ!」という自己暗示をかけて逃げていたと言えます。
本当は竜だって凱や香のように自分の内面を曝け出していければ楽でしょうけど、ヒーローとして完璧超人ぽく振る舞っておかないといけません。
それくらい理性で強引に自分をコントロールしないと、竜と長官以外使命感も戦う意味も正義感もそんなにないバラバラな素人の寄せ集めでしかないのですから。
普通の戦隊ならここで香と凱の問題も含めてあっさり解決して「みんなでGO」をするのでしょうが、むしろ香と凱に向き合った結果余計に面倒臭くなるのが面白いところです。


それと同時に、直接的に描かれていませんが、これは井上先生なりの「チームワーク」「団結」「絆」といった日本の集団主義に対するカウンターなのかなと思います。
従来のヒーローに懐疑的といわれる井上脚本ですが、特に典型的な日本の集団主義の象徴であるスーパー戦隊シリーズであっさり団結ができあってしまうのが気持ち悪く見えたのでしょう。
また、「男女が同じ組織に所属していながら、何もトラブルが起きないのが不自然だ」とも言っていて、ジェットマンにとって真の敵はバイラムよりもむしろ内部の人間関係にありました。
そしてそれは同時に戦隊シリーズ集団主義が持つファシズム的な危険性すらも綺麗に隠蔽してしまっているという事実を浮き彫りにしたのです。


特に小林靖子女史の作品でも使われる言葉に「」がありますが、実は「絆」とは現在でこそ人との信頼関係を意味する良き言葉のように便利に使われています。
しかし「絆」とはもともと「牛馬を縛る綱」が語源であり、結びつきを強制的に作り出すものであり、個人の字ううを雁字搦めにしてしまう諸刃の剣でもあるのです。
いつだったか、それこそ2011年の3.11(東日本大震災)でやたらに「絆」を連呼していて気持ち悪かったのですが、ああいうのが日本の集団主義の不気味な点でしょう。
まあ「絆」に関しては現在並行して感想を書いている「シンケンジャー」終盤のサブタイトルにも出てくるので、詳しくはそこで語らせてもらいます。


そんな風にチームがまとまろうとしている段階で、今度は竜と香の2人の方から思わぬ爆弾が投げ込まれてチームにまたもや軋轢が生じてしまった今回の話。
単なる好いた惚れたのすったもんだに終始せず、それを「戦隊ヒーロー」と結びつけて本質的な問題に繋げていく井上先生の発想力と脚本の切れ味が天才的です。
そしてここからどう女帝ジューザの遺産であるセミマル退治へと繋げていくのか、楽しみであり評価はもちろんS(傑作)

 

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