明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ第37作目『獣電戦隊キョウリュウジャー』(2013)

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出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B071V6KZK4

スーパー戦隊シリーズ第37作目『獣電戦隊キョウリュウジャー』は前作「ゴーバスターズ」の失敗を受けた反省からか、またもや王道路線へと回帰しました。
スタッフも初のチーフプロデューサーとなる大森大森敬仁氏、さらには「ダイの大冒険」「冒険王ビィト」「仮面ライダーW」で実績を出している三上陸氏をメインライターに抜擢しています。
しかも歴代で唯一全話を書くという挑戦をしており、そのようなことをやった作品となると00年代以降では「仮面ライダー555」くらいですから、まあ偉大なる挑戦ではあったのでしょう。
しかし、私に言わせれば本作は「踏み絵」のようなものだと思っており、ちょうど真ん中の評価がなく極端な高評価か低評価に二分し、それがほぼ「好き嫌い」と直結する作品です。


で、私は三条氏の脚本に関してはいまいち評価していないのですが、本作を見て改めてその理由がわかった気がします…この人は結局「漫画」っぽい脚本しか書けないからです。
具体的に後述しますが、私は三条氏が稲田浩司氏との連携で描いていた「ダイの大冒険」は大好きですし、漫画のようなハッタリやごまかしが通用しやすい媒体なら彼の脚本でもいいと思います。
ただし、これは「ゲキレンジャー」「ゴセイジャー」でも感じたことですが、スーパー戦隊シリーズはあくまで実写特撮であり、架空性は高くても演じるのは三次元の生身の人間です。
その辺りの差分をわかっていない上、しかもダイのような典型的な完璧超人型の主人公しか書けない人が2010年代にスーパー戦隊を書くとどうなるかということの反面教師でありましょう。


つまり、本作は「見方」ではなく「見え方」が評価の鍵を握る作品であり、凄くいい作品に映ればそのまま好きになり、悪い作品に映ってしまえばそのまま嫌いになってしまいます。
私の評価はもちろん後者であり、「ゴーゴーファイブ」「タイムレンジャー」のように「高評価だけど好きではない」とか「ダイレンジャー」のように「低評価だけど好き」とかはありません。
リアルタイム当時からそういう印象をずっと持ち続けており、つい最近までやっていたYouTubeの無料配信を見直してそれがもはや確信に変わりました。
そのためファンの方にとっては間違いなく絶賛大酷評のひどい記事になってしまうであろうことは予告しておきますので、覚悟の上で評価をご覧ください。

 

 


(1)これが本当の「恐竜戦隊ジュウレンジャー」!?


本作を最後まで見終えて率直に感じたことは「これが本当の「恐竜戦隊ジュウレンジャー」!?」ということであり、開いた口が塞がりませんでした。
だって、まさか恐竜を10体も出して、恐竜戦士を10人も出して勢揃いの名乗りという、まさか「ジュウレンジャー」放送当時のギャグをそのままやるとは思わなかったのです。
ジュウレンジャー」の記事では書きませんでしたが、当時私は家族や同級生の友達と「ジュウレンジャーなのに10人じゃない」と散々ネタにしていました。
もちろん公式もそう言われることを考慮してタイトルロゴに「獣連者」という漢字を当てていたし、しかもその冗談をネタにして作品評価まではしていません。


その当時戦隊ファンがネタにしていたであろうことをまさか3度目の恐竜戦隊でやるとは運命のいたずらを感じます…もちろん悪い意味で
本作では最終的に10人の戦士が出てきて、しかも「シアン」だの「グレー」だの「なんでそんな中途半端な色なんだ?」という色まで出しています。
そして全員揃った時の名乗りがなぜだかとてもチープな絵面に見えてしまい、いくらなんでもここまで酷い戦隊の名乗りは見たことがありません。
大人数での名乗りというと戦隊のVSシリーズとか、あるいは「マジレンジャー」「ゴーオンジャー」も絵面的にはかなり大人数での名乗りでした。


しかし、「マジレンジャー」の家族全員での名乗りは小津一家の物語の集大成として、最後は家族全員で勢揃いするところにカタルシスがあるのです。
また「ゴーオンジャー」の最終回で見せた名乗りもまあ予定調和ではありますが、主題歌に合わせたあの顔出し+スーツでの名乗りは見応えがありました。
一方の「キョウリュウジャー」の10人全員にはそのような全員が一致団結したことへのカタルシスとか見応えとかは一切感じられません
ただただ空虚な「10人の恐竜戦士揃えて「恐竜戦隊ジュウレンジャー」をやりましたよ?ほら、面白いでしょ?」という作り手の自己満足しか見えないのです。


これに限らず、本作は内輪受けのギャグやパロディが多く、過去戦隊のキャストの大量出演や三条氏自身の過去作のセルフパロディなどが散見されます。
しかし、そんなくだらないことをやりたいがために、本来あるべき最低限のストーリーやキャラクター、世界観をないがしろにしていいことは何もありません
こんなしょうもないスタッフの自己満足に付き合わされてろくに演技力を成長させることができなかった役者たちに私はむしろ同情してしまいます。


(2)まるで人間味のないキャラクターたち


冒頭でも書きましたが、本作に出てくるキャラクターたちにはまるで人間味が感じられないというか、表向きは清廉潔白な若者たちなのに「オーレンジャー」「ゴセイジャー」と同等かそれ以上のハリボテに見えてしまいます。
中でも本作を象徴する主人公にして最大のガンであるキョウリュウレッド・キングこと桐生ダイゴ…もう彼の存在からして私はとても不快感を覚えたというか、こんなのが戦隊レッドであってほしくありません
彼はいわゆる戦隊版のダイやビィトであり、三条氏をはじめスタッフとしては久々の完璧超人型レッドを作ったつもりかもしれませんが、彼の言動といい行動といい全てが不愉快なのです。
「俺たちは戦隊だ!」などと言いつつ仲間を置き去りにした独断専行が目立ちますし、しかもそれで反省したかと思いきやまたやらかして、挙げ句の果てに周囲が「さすがキング」と持ち上げる様は宗教にしか見えませんでした。


確かに過去にレッドとその他の戦士で扱いに格差がある戦隊はありましたし、それこそ近作でいえば「シンケンジャー」の殿と家臣たちがそうでしたが、あれだって終始殿ばっか持ち上げてたわけではありません。
それどころか終盤では本物の志葉家当主である薫姫が出てきたことで丈瑠は存在感も何もかもを失ってしまい、十臓との死闘の中で危うく外道に落ちかけるところまで行ったのです。
また、家臣たちも殿をいじったり仲間はずれにしたりすることがあり、殿自身もコミュニケーション力がないなど、不完全な部分もあるからこそ、作品としてバランスが取れていました。
その点キングはいわゆる「できすぎる嫌味な人」になってしまっていて、しかもそれが誰からも突っ込まれることなく劇中で正当化され甘やかされてしまうというとんでもないことになります。


また、キングだけならまだしもずっといじられ役どころか「いじめられっ子」でしかないノっさんや訳の分からない女子力の高いキャラにされたウッチー、さらに悪女としか思えないアミィなどなど…。
もはや人格分裂症を起こしているとしか思えないほど破綻しているとしか思えないヒーロー側に対して、敵側であるデーボス軍もまたやることがショボくて全く脅威感がありません。
唯一ラッキューロあたりは感情移入できなくもなかったのですが、他はデーボスを始め幹部連中も怪人連中も没個性通り越して無味乾燥な連中ばっかで、こんなの相手に勝ってもカタルシスがないのです。
本作は基本的にキョウリュウジャーが終始強く描かれてはいるのですが、それだったらそれでデーボス軍も相応に強くしてオーバースペックな連中として描かないとダメでしょう。


そもそもの根本的な悪のキャラクターと美学、行動指針といったところがきちんとできてこそヒーローとヴィランの戦いは成立するのです。
まあもっとも、この辺りに入るとそもそもスーパー戦隊シリーズ自体が何と戦っているのかが分からなくなりつつありますが、本作はそもそも悪が何かすらきちんと定義できていません。
そんな風に味方も敵も本当にハリボテのなかのハリボテみたいな奴らばかりで、「俺たちは戦隊だ」「戦隊力」「ブレイブ」といったわけわからん言葉だけが宙にふわふわと浮いています
子供達の目はそれで誤魔化せるのかもしれませんが、残念ながらシリーズを数重ねて見てきている戦隊ファンは決してそのようなものに惑わされることはないのです。

 

(3)精彩を欠いている佐橋俊彦先生の音楽


これはもう完全に個人的な評価になってしまうのですが、本作は「ギンガマン」以来久々の佐橋サウンドを聴けるチャンスなのに、その音楽はどれも精彩を欠いていました
確かに表面上キャッチーで明るい音楽ではありますが、それはあくまでも作品の世界観やキャラクター、ストーリーにきちんとした芯が通っていてこそなのです。
特に佐橋氏が音楽を務めた「カーレンジャー」「ギンガマン」は脚本家もチーフプロデューサーもそういうのを凄く大切になさるプロフェッショナルな方々ばかりでした。
だからこそスーパー戦隊史上に残る素晴らしい楽曲・劇伴の数々が生み出されたわけであり、今でもよくこれら2作の音楽を聴くのだなと強く思っています。


しかし、本作に関してはわざわざサントラを買って、音楽をきちんと聞きたいか、聞いてその作品の世界観に浸れるかといったら全然浸ることができません
むしろ虫唾が走るレベルで絶対に聞きたくはならないのです…佐橋先生もおそらく本作の音楽に関して「とにかく勇壮で強いイメージ」くらいにしか思ってなかったのでしょう。
具体的なイメージを掴めないものは絶対に実現不可能とはよく言われますが、本作の佐橋サウンドの迷走ぶりほどそのことを強く実感したことはないのです。
むしろどこかで聞いたことある既視感バリバリの音楽ばかりで、そんな貧相な音楽をまさかスーパー戦隊シリーズで聞かされることになるとは思いもしませんでした。


スーパー戦隊シリーズの歴代作曲家でいうと、佐橋先生はそれこそ私が特に大好きな矢野立美氏と川村栄二氏に匹敵するレベルの高評価かつ大好きな作曲家です。
だからこそ、期待があまりにも大きすぎたせいでかえってショックを受けてしまいました…本当にあの素晴らしい音楽を返せと言いたくなってしまいます。
まあもっとも、これに関しては佐橋先生よりはむしろ他スタッフの責任なのかもしれませんが、何れにしても音楽も個人的には全く刺さりませんでした。


(4)明らかに戦隊ファンを舐めた作品作り


まあ結局のところ、本作の最終的な評価は「明らかに戦隊ファンを舐めた作品」としか言いようがなく、具体的にどこがというより作品の端々からそれが伝わってきます。
そもそも三条氏が漫画っぽい脚本しか書けないような人であるなら、どうしてサブライターとして実績のあるプロの人を呼んでこなかったのでしょうか?
まずその時点で年間の構成としては失敗していますし、それからサブライターとして下積みしていない人をメインに据えてもいけないのだなと思いました。
スーパー戦隊シリーズは一見単純明快なようでいて、その実一作ごとに「破る部分」と「破っていない部分」を取捨選択し、また時にはシリーズ全体を再考する作業もしています。


私が以前「00年代戦隊は中身がない」「思考停止」というようなことを書きましたが、でもその中においてさえ作り手は常に「どうすればいいものを作れるか?」を考えていました。
そしてその結果が「ゴーオンジャー」を経た後の「シンケンジャー」で「アンチ00年代戦隊」を見事やり遂げ、そのお気楽さや熱血バカに頼って作品作りをする姿勢に歯止めをかけたのです。
だからこそ、そこからまた「どうやって新しい戦隊ヒーローを作るべきか?」と真剣に向き合い、格闘して35作品目の「ゴーカイジャー」という1つの集大成につなげています。
そういった先人たちが積み上げてきたスーパー戦隊の歴史を本作はことごとく冷や水浴びせてバカにしているというか、「ほらお前らこういうのが好きなんだろ?」という舐め腐った態度がすけて見えるのです。


だから本作は「俺たちは戦隊だ」「ブレイブ」「戦隊力」といったさも聞こえのいい言葉や表向きの明るさを装いつつ、その実パロディにすらなってないくだらないノイズで次々とシリーズそのものをスポイルしています
まあ確かに玩具は魅力的でしたし、実際玩具売上は前作からかなり回復しましたから名目は果たせたのでしょうが、商業的ノルマを達成することと素晴らしい作品であることは別物です。
むしろ商業作品であることを考慮に入れれば、商業的なノルマをどう達成するかを視野に入れつつ、それに負けないようじっくり作品を作っていかなければなりません。
その努力を怠ってしまったら子供だけではなく戦隊ファンはすぐに見抜いてしまい、「手抜きしやがった」と思ってしまうものです。


そしてその結果は前作からさらに下がった視聴率に数字となって現れ、結局「商品としては売れた」が「作品としては人気を出せなかった」ということになってしまいます。
もしも本作がいわゆる「カーレンジャー」のような戦隊シリーズそのものを茶化すような目的のパロディ戦隊として作っているのであれば、それはそれでいいでしょう。
しかし、長い蓄積のあるシリーズをパロディし、それを面白さへ繋げていくのは決して並大抵のことではなく、シリーズそのもののお約束を理解していないければできません。
そういう戦隊シリーズそのものへの深い愛や本質への理解がない人が見よう見まねだけで「戦隊ってこうなんだろ?」で作ったらどうなるかを作って見事に大ゴケした、世紀の大駄作です。


(5)まとめ

 

本作は前作「ゴーバスターズ」の失敗から「数字の回復」という名目の元に「王道戦隊」として作り直し、確かに表面上のノルマは達成しました。
しかし、内実はもう見るに堪えない産廃レベルのものでしかなく、それこそ世紀の大駄作と評された実写版「デビルマン」「ドラゴンボール」と変わらないレベルの大駄作です。
逆に言えば、たとえどんなにひどい駄作であっても今までのスーパー戦隊は作り手の意地や「ここだけは」という一線のようなものは最低限守られていたことが今回わかりました。
総合評価は言うまでもなくF(駄作)、歴代のFラン戦隊の中でもこれはもう間違いなくブッチギリのワーストです。
しかし、次作「トッキュウジャー」でまたもやスーパー戦隊シリーズは息を吹き返します。

 

 

獣電戦隊キョウリュウジャー

ストーリー

F

キャラクター

F

アクション

F

カニック

F

演出

F

音楽

F

総合評価

F

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

 

 

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