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スーパー戦隊シリーズ第28作目『特捜戦隊デカレンジャー』(2004)

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出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/4065095158

スーパー戦隊シリーズ第28作目『特捜戦隊デカレンジャー』は前作「アバレンジャー」の失敗を教訓化し、非常にシンプルな作劇に揺り戻した作品です。
私はリアルタイム当時大学受験のために予備校で浪人していましたので、本作に関してはほぼノータッチで、改めてYouTube配信などで見ていました。
スタッフが日笠Pから塚田Pに変わったことでまた作品の世界観や演出のタッチなども変わり、作品としてもまた情報量が大きく増えています。
また、本作は荒川氏がメインライターではあるものの、「ガオレンジャー」以来となる武上純希氏や横手美智子氏など様々なゲストライターがいるのです。


しかも連続性のある大河ストーリーではなく、いわゆる「ダイナマン」までのようなシンプルな1話完結(ないし2話完結)型の金太郎飴方式の物語となっています。
本作のバン達デカレンジャーは基本的にどこを切り取っても変わらない性格であり、最初から最後まで変化や成長というものを一切描かないのです。
そのため、本作は久々の「1年かけてじっくりと描く長距離走」ではなく「1年間毎年同じところを走り続ける短距離走」の作品となっています。
というのも、この時期に入るとお隣の平成ライダーシリーズおよび「ふたりはプリキュア」という新たな女児向けバトルアニメとの差別化があったからです。


スーパー戦隊シリーズが長いこと続けていた大河ドラマ方式のストーリーは「ガオレンジャー」「ハリケンジャー」ではお隣の「アギト」「龍騎」に譲っていました。
でもそれだけでは受け手が飽きてしまうから「アバレンジャー」で久々に大河ドラマをやろうとした結果大失敗し、本作ではそれをしないことになったのです。
そのようにして作られたのが本作ですから、世界観やビジュアルなどもしっかり整合性が取れており、また極端な破綻もなく安心して見られる作品となっています。
バンをはじめとして5人のキャラクターや上司のドギー・クルーガーなどなど各キャラクターの個性が絶妙で、役者のキャスティングもまた素晴らしいです。


それから、本作のバン、そして次作「マジレンジャー」の魁をもっていわゆる「バカレッド」と呼ばれる戦隊レッドの新ジャンルが形成されるようになります。
このバカレッドはその後「ゴーオンジャー」の走輔まで続いていくのですが、その理由については後で具体的に述べることにしましょう。
それでは具体的な作品の魅力について語りますので、ぜひご覧ください。

 

 


(1)狙いは明るい「ジャッカー電撃隊」か?


本作を最初に見て感じ取った印象は明るい「ジャッカー電撃隊」ではないかという感想です…言ってみれば「ジャッカー」のリターンマッチというか。
バンたちはサイボーグヒーローではないものの、いわゆる何かに葛藤したり正義について悩んだりすることは年間を通してほとんどありません
それどころか非番ではショッピングを楽しんだり風呂に入ったりしているので、まるで「ジャッカー」の終盤で出てきた番場壮吉みたく屈託がないのです。
選ばれたスペシャルポリスでありながら、悲壮感あふれる感じではなく任務は真剣に、そしてオフは楽しむという余裕のある感じが魅力的でした。


本作のSPDは設定としては「ジュウレンジャー」「ギンガマン」辺りに近く、訓練を受けてスペシャルポリスの資格を勝ち取った者達が警察官となっています。
少なくとも熱血火の玉野郎のデカレッド・バンが入るまでの4人はそのようにして選ばれたプロ中のプロ警察官がなっているのです。
まあウメコはプロとしての自覚にイマイチ欠ける部分があったり、テツに至っては最初クール気取りだったのがいつの間にか下っ端キャラになったりはしてますけどね。
そんな風に本作は犯罪者達を相手にしていながら、刑事ものとしては異色なくらいに明るい作風で基本的にあまりシリアスな話はありません。


まあ正確にはホージー関連でそういう話がちょこちょこあるのですけど、それでもガチガチのシリアスな領域にまでは行き切らないのです。
かといってギャグに走りすぎているわけでもなく、警察官として締めるべき部分ではしっかり締めますからいい加減な作りにはなっていません。
この「シリアスすぎずギャグに走りすぎず」というバランスが本作のとても良くできたところであり、安心して見られる要因ではないでしょうか。
まあ個人的には肝心の主人公であるデカレッド・バンがあまりにも品性のなさすぎるバカで今ひとつ好感を持てないところが見ていて辛いのですけどね。


しかし、脇のセンちゃんやホージージャスミンウメコなどが重石としていてくれるおかげでバンが浮かずに済んでいるというのはあります。
全員が一様に熱血なのではなく、あくまでも少年漫画的な熱血要素はレッドのみに集約させ、クールキャラを他のキャラに割り振っているのです。
特にセンちゃんとジャスミンの存在は作品のいいアクセントになっていて、こういう尖ったクールビューティと知性派のジェントルマンタイプがいるとそれだけでも違います。
また、「メガレンジャー」以来久々のダブルヒロイン制に戻ったことで女性陣がいることの「華」がしっかりと戻ってきました。


(2)圧縮冷凍に取って代わるジャッジメントシステム


2つ目のポイントは本作の力の源を大きく規定している「ジャッジメントシステム」ですが、これは「タイムレンジャー」で用いられた圧縮冷凍との意識的な差別化でありましょう。
というのも、「タイムレンジャー」では圧縮冷凍によって敵を倒さず逮捕という秀逸なシステムを使っているのですが、これには敵にトドメを刺せずカタルシスを得られないという問題がありました。
作品のテーマとしっかり無駄なく連動していた圧縮冷凍は大変考えられたSFガジェットですが、同時に敵をすっきり倒すことでカタルシスを得るスーパー戦隊シリーズとは相性が悪いのです。
もちろん小林女史を始め作り手はそのことを覚悟の上で作りましたが、結果として視聴率は高かったものの玩具売上は歴代最低クラスという痛い結果を残すことになりました。


だから、本作ではなんとかしてデカレンジャーが犯罪者を殺してもいいように「ジャッジメント」という、宇宙最高裁判に判決を委ねて「○」が出た敵だけを倒すという形にしたのでしょう。
裁判という手続きを踏むことで、むやみやたらと力をふるっていいわけではないことの証明にもなりますし、圧縮冷凍との差別化にもつながるので結果的にはこれがよかったのかもしれません。
そのため、デカレンジャーの5人は警察官でありながら、同時に死刑執行人の役割も担っており、結果として歴代の中でも相当に殺意の高い戦隊という評価になるのです。
しかし、このジャッジメントというSFガジェットには大きな問題点もあり、配信で見直した今日でもスッキリしない問題点として作劇にも大きな支障が出ています。


というのも、○×方式で犯罪者を抹消してしまと、結局のところ「国家権力を笠に着れば、無自覚に正義をふるってもいいのか?」という問題があるからです。
人が人の身で犯罪者を断罪するなど本来あってはならないことであり、その意味ではSPDという組織は正義の権化にしてとても危険な存在であるとも言えます。
私は基本的に本作に関しては好きな方ではありますが、諸手挙げてそのヒーロー像を肯定しきれないのは国家権力が全て正しいかのように規定されているからです。
ましてやそれは「風の時代」に入り、権力を持っていた者がどんどんその正当性を失っている今日の視点で見ると、ますます普遍性のない要素に思えてしまいます。


このジャッジメントシステムの正当性に関しては当時から批判や疑問の声が多く挙がっていたらしく、私もこのシステムはどうなんだろうと思ってしまうのです。
カーレンジャー」のシグナルマンのように「道路交通戦争」というルールがあり、ボーゾックが法律など通用しないならず者であれば殺すのもまあやむなしとは思いますが。
この辺り、「犯罪防止」ではなく「犯罪の皮を被った戦争」という風に銘打ってデカレンジャーが犯罪者を殺せる下地を作っておいた方がよかったのではないでしょうか。


(3)久々の頼れる司令官ドギー・クルーガーとヒロインのスワンさん


ただまあそんな疑問が大きく残る一方で、個人的に嬉しかったのは久々に頼れる司令官であるドギー・クルーガーとそのヒロインであるスワンさんの存在でしょうか。
そもそも「ゴーゴーファイブ」のモンド博士を最後に長らくスーパー戦隊は「頼れる司令官」がいなかったし、ましてや戦闘力もあるタイプとなると「オーレンジャー」の三浦参謀長まで遡らないといけません。
その点でデカマスターことドギー・クルーガーの存在は久々に鉄山将軍、嵐山長官、伊吹長官、三浦参謀長に匹敵するレベルのカリスマ型司令官が出てきたという感じです。
声優の稲田徹氏の透き通った声量のある声もまた素晴らしく、最初は「こんなふざけた犬顔がカッコいいわけないだろ」と思ったのですが、実際に本編で見るとめちゃくちゃかっこいいではありませんか。


そしてまた、そんなデカマスターのヒロインにして、デカレンジャーの6人にとっては母親的存在であるデカスワンこと白鳥さんもまたいい味を出していました。
とても包容力のあるあのキャラクターをベテランの石野真子氏が安定感のある芝居で演じ切ってくれたことで、チーム全体に安定感が生まれたのです。
デカレンジャーというチームがなんだかんだ安定していたのも、こういった頼れる父親・母親的存在が常にいてくれたことが大きかったのではないでしょうか。
しかも、デカレンジャーが上司に依存せず自分たちの判断で動けるかどうかを問うエピソードもあり、決して上司2人に依存していません。


これは同時に「ガオレンジャー」「ハリケンジャー」「アバレンジャー」という作品が抱えていた構造的欠陥でもありました。
というのもこの3作品は司令官と呼べる人たちに威厳がなく、いまいちチームとしてのまとまりや統率力といった部分にかけるからです。
そのように見ていくと、やはりスーパー戦隊シリーズに頼れる司令官は必要であることを本作は再認識させてくれました。
このデカマスターデカスワンの成功は次作「マジレンジャー」にも受け継がれていく要素です。


(4)「正義とは何か?」について考えない作品


これまで説明してきたことを総括すると、結局のところ本作は「正義とは何か?」について考えない作品、なのではないかと思います。
メインライターの荒川氏や塚田プロデューサーをはじめ、本作は警察官という絶対的な正義を標榜する存在として描くことで、正義と悪の問題への深入りを避けました。
なぜこのようなスタイルを敢えて取ったのかというと、この時代にはあまりにも「正義」「善と悪」が曖昧になりすぎていたからです。
社会的に何が正しく何が間違いなのかが見えなくなっていた2000年代初頭はそういう漠然とした不安が社会全体を覆っていました。


特に大きなきっかけになったのが2001年の9.11、アメリカ同時多発テロ事件であり、それまで世界最強を誇っていたアメリカの安全神話が崩壊したのです。
平成ライダーシリーズはその事件を受けていち早く反応し、「龍騎」「555」「剣」でその「目に見えない悪」という身近で相対的な正義と向き合っていました。
また、ジャンプ漫画の「ONE PIECE」「NARUTO」ですらも一見正義の面をしているいい人っぽい人が裏では汚いことを平然とやらかしていたりする様を描いています。
こんな風に時代とともに正義と悪の形は複雑化しており、スーパー戦隊シリーズはまたもや「オーレンジャー」の時同様に「タイムレンジャー」までで完成した文法が通用しなくなってきたのです。


むしろ「正義とは何か?」について考えようとあれこれ試そうとした結果、前作「アバレンジャー」のように墓穴を掘ってストーリーもキャラクターも支離滅裂になってしまいました。
そんなことになるのであれば、いっそのこと「正義とは何か?」については一切考えず、批判されてもいいから真正面からプロの警察官を描こうとしたのでしょう。
そうすることによって、絶対的正義としての警察官を描き、あえて回避して描くことによって何とか本作は乗り切ったのです…そう、スーパークールにパーフェクトなやり方で。
とはいえ、全く問題がなかったわけではなく、ジャッジメントの問題もありましたし、また単発の面白さで勝負しないといけない分面白い回とそうでない回の差が出ました。


そのため、本作は安定した面白さはあるものの、長い目で見たときに時代の試練に耐えうるだけの普遍性と強固なバックボーンは持ち得ない作品ということになります。
そうした反省点は次作「マジレンジャー」へと活かされていくのですが、まあ全体的には楽しい作品と言えるでしょう。


(5)「デカレンジャー」の好きな回TOP5


それでは最後にデカレンジャーの好きな回TOP5を選出いたします。出来のいいエピソードとそうでないエピソードの差が激しいので、各メンバーで最も出来のいい回からの選出です。

 

  • 第5位…Episode.06「グリーン・ミステリー」
  • 第4位…Episode.39「レクイエム・ワールド
  • 第3位…Episode.37「ハードボイルド・ライセンス」
  • 第2位…Episode.13「ハイヌーン・ドッグファイト
  • 第1位…Episode.14「プリーズ・ボス」


まず5位はデカグリーンことセンちゃんの初メイン回であり、このエピソードが結局は1番「センちゃんとはどんなキャラか?」を的確に描き切っていました。
次に4位はジャスミンウメコのコンビ回であり、同年の「ふたりはプリキュア」への対抗意識もあったのか、2人の掛け合い漫才のようなコンビネーションが見事です。
3位はホージーメイン回で1番好きな回で、本作で1番「正義とは何か?」について真正面から突っ込んだ名エピソードではないでしょうか。
2位は我らがボスことデカマスターの初メイン回であり、伝説の100人斬り無双と共にスワンさんのヒロインぶりも際立った傑作エピソード。
そして堂々の1位はそんなボスとデカレンジャーの関係性についてしっかり定義した回であり、ボスに依存せず動けるデカレンジャーを描いた傑作回でした。


えーっと、追加戦士のテツが入っていませんでしたが、御免なさい、テツは全く印象に残っていません。歴代でもかなり扱いが悲惨な追加戦士だったことだけは覚えています。


(6)まとめ

 

本作は前作「アバレンジャー」の失敗を受けて、改めてスーパー戦隊シリーズそのものをニュートラルな状態に引き戻した作品です。
シンプルすぎず複雑すぎず、まずは1話完結方式で各キャラクターのメイン回とチームワークを描くという基本の見直しから行いました。
おかげでかなり立て直したものの、同時にジャッジメントシステムをはじめ普遍性がなく耐久年数が過ぎている要素もあります。
物語の弱さは多少仕方ないとしても、まだまだ磨けば光る可能性は残してある作品であり、フルに生かし切れていなかった感じです。
総合評価はB(良作)、何とか立て直しには成功し次作「マジレンジャー」へとバトンを繋ぎましたね。

 

 

特捜戦隊デカレンジャー

ストーリー

C

キャラクター

A

アクション

A

カニック

A

演出

D

音楽

B

総合評価

B

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

 

 

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