明日の伝説

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スーパー戦隊シリーズ第27作目『爆竜戦隊アバレンジャー』(2003)

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出典元:https://www.amazon.co.jp/dp/B06WWPHS8Q

スーパー戦隊シリーズ第27作目『爆竜戦隊アバレンジャー』は前2作を教訓化しつつ、よりシリアスなドラマを取り込んでいこうという新たな試みを行った作品です。
ジェットマン」以来ずっとスーパー戦隊シリーズのサブライターを務め、「仮面ライダークウガ」で初のメインライターに抜擢された荒川稔久氏がメインライターに就任。
本作以後「デカレンジャー」「ゴーカイジャー」「キラメイジャー」とメインライターを務めることになりますが、その実験段階として入ったという印象が強いです。
しかもこの年はお隣の「仮面ライダー555」「明日のナージャ」がいずれも昼ドラ路線だったので、当時は「鬱タイム」なんて呼ばれるほどに暗かった印象があります。


さて、そんな本作ですが、「ジュウレンジャー」以来の恐竜モチーフであり、しかも主人公の相棒的存在というより近い視点のキャラとして描かれています。
また、最初から最後までずっと敵キャラであり続けるアバレキラーや司令官と戦士を兼任するアバレブラックなど、色々と「お約束外し」が行われているのです。
表向きはコミカルでライトな作風にしつつ、その中に「ジェットマン」「タイムレンジャー」のようなギスギスした大人のドラマを持ち込もうとしたのでしょう。
そういう作風のせいか、当時は「仮面ライダークウガ2」とも言われていたそうですが、まあメインライターが同じ荒川稔久氏なので言い得て妙ではあります。


そんな本作ですが、最初に述べておくと私はこの作品は「嫌い」かつ「低評価」なので、どうしても辛口気味の評価になってしまうのです。
というか、そもそも「ガオレンジャー」「ハリケンジャー」「アバレンジャー」の3作自体がどうにも好みからも外れている上、内容も明後日の方向にズレています
サブライターとしては「カーレンジャー」以来となる浦沢義雄先生やのちに「ボウケンジャー」でメインライターに抜擢される會川昇先生も参戦となりました。
そんな風に脇をしっかり固めたはずなのですが、売上はともかく作品としてうまくいかなかった理由について、改めて分析していきましょう。

 

 


(1)「喋る相棒キャラ」の爆竜とアバレンジャーのキャラの薄さ


本作初の試みとして「喋る相棒キャラ」の爆竜が挙げられるのですが、どうしてこのような要素があったのかというと理由は2つ考えられます。
まず1つには「デジモン」シリーズの成功があったことであり、デジモンはいわゆる本作の爆竜や「ゴーオンジャー」の炎神の原型のような「喋る相棒キャラ」です。
いわゆる人がモンスターを使役する「ポケモン」とは違い、擬似人格を持たせて喋らせることでキャラを際立たせようという風な工夫が凝らされていました。
そうしたアニメチックな作風、演出をスーパー戦隊シリーズのファンタジーという分野においても取り入れようという試みがなされたのだと思われます。


2つ目にファンタジー戦隊が抱えていた問題として「あっちが立てばこっちが立たず」があり、キャラが立てばメカニックが立たず、メカニックが立てばキャラが立たないのです。
例えば「ダイレンジャー」「ギンガマン」辺りはキャラこそ上手に立ったものの、メカニックの気伝獣や星獣に関しては魅力的に描き切れたとは言えない側面がありました。
また、その逆に「ジュウレンジャー」「カクレンジャー」「ガオレンジャー」ではメカニックの方こそうまく立っていたのですが、反面キャラクターに関してはやや背後に追いやられています。
まあ「カクレンジャー」はその点まだキャラとメカニックのバランスはよかった方ですが、「ガオレンジャー」はパワーアニマルを前面に押し出すために戦士全員を没個性にしてしまいました


このようなジンクスを解消するために「喋る相棒キャラ」を設定して、アバレンジャーとそのパートナーである爆竜たちとの絡みを増やしてキャラを立てようとしたのでしょう。
上手くいけば、相乗効果でお互いのキャラクターが強固になり、より魅力的な作品となって一貫性のあるものが生まれるはずだと作り手が考えたとしても不思議ではありません。
ではそれが上手く行ったのかといえばこれが逆で、まずアバレンジャーの4人も爆竜もキャラクターの魅力が薄すぎて、そんな連中が絡みを増やして会話を多くしたところで面白みがないのです。
まずこれは企画の時点で失敗だとわかっていたため、作り手も爆竜に特徴的な台詞回しや語尾を入れて差別化を図ろうとしましたが、これが失敗に終わってしまいます。


また、アバレンジャーの3人とアスカも正直キャラクターが立っているとは言えず、それは演じる役者たちがあまりにも「華」がなく演技力もない素人というのが原因ですが、それだけではありません。
そもそも荒川氏はサブならまだしも自分で1からキャラクターを作った経験などほぼなく、「クウガ」で上手く行ったのは高寺Pの考えを清書したからであり、あれは実質高寺Pがメインライターです。
そのため、本当の意味で1から命を削り、思索を深めて文芸をやったという経験値はなく、悪く言ってしまえば他者が作り上げた二次創作だけで成り上がってきた脚本家であると言えます。
もちろん二次創作上がりでも面白いものを書ける人はいますが、そういう人は大体オリジナルでも面白いものを書ける人であり、荒川氏は間違ってもそのようなタイプではありません。
そうした本作のキャラ付けの薄さに関しては最後まで解消することができず、どうにも微妙な印象を視聴者に与えてしまいました。


(2)最初から最後まで基本敵の男・アバレキラー


本作最大の特徴としてファンからも語り継がれるのが最初から最後まで基本敵として立ちはだかることになるアバレキラーですが、これはドラゴンレンジャーやブルブラック、タイムファイヤーの系譜でしょう。
要するに主人公に立ち塞がってくる追加戦士・番外戦士の系譜なのですが、ドラゴンレンジャーやブルブラックが「復讐」、そしてタイムファイヤーは「そもそもの考え方が違う」から別々に行動していました。
その点アバレキラーはいわゆるネジレンジャーのような「悪の戦隊」を1人でやっているようなものであり、しかもその理由が「ときめきが欲しい」、要するに「楽しみたいから」という独特の理由です。
言ってしまえばアバレキラーは天才医者でありながらサイコパスの領域にいる人なのですが、荒川氏としてはいわゆるブラックコンドル・結城凱のようなピカレスクヒーローを描きたかったのでしょう。


というのも、荒川氏は後に「ゴーカイジャー」というピカレスクヒーローを描いていますから、このアバレキラーに関しては相当ノリノリで書いていたに違いありませんし、実際アバレンジャーの3人よりキャラ立ちしていました。
逆に言えば、アバレキラーの登場でただでさえ影の薄かったアバレンジャー3人と爆竜たちが完全に存在感を食われてしまっているのですが、「ジュウレンジャー」然り本作然り主人公たちのキャラが薄いですね。
ただし、そのこととアバレキラーというキャラクターが魅力的に描けていたかどうかは別問題であり、アバレッドとの対比も正直上手くいってたとは言い難い側面があります。
何よりも、決着をつけさせないためかバトルの途中で「腹痛が起きて撤退」という流れを繰り返しすぎたせいで、かえってアバレキラーのキャラが薄まってしまいました。


それに、私がアバレキラーについて釈然としないのは、荒川氏をはじめ作り手がどうにもアバレキラーのようなアウトローを美化してカッコ良く見せようとしているところにあるのです。
結城凱やブルブラック、直人といった歴代のアウトローキャラは単にキザな格好付けだから人気が出たわけじゃなく、その奥底に抱えている「弱さ」「脆さ」と表裏一体だから人気が出ています。
最後はそれぞれに「死」という形でその生を終えていますが、決して「死」そのものを感動的になど描いておらず、あくまでもキャラの「生き方」に向き合った結果でしかありません。
その点でアバレキラーの最後だけ味方になって死をもって償わせる演出は一見感動的なようでいて、その実「死で終われば人気が出るんだろう?」という作り手の浅慮さが透けて見えます。


私は別にスーパー戦隊シリーズやヒーロー作品に「感動」なんて求めていませんし、そのような作られたわざとらしい感動なんて24時間テレビで十分だと思っているタイプです。
だから、作り手が魅力的に見せたいであろうアバレキラーに関しても結局表面的な記号のアウトロー以上のものにはなり得ず、深みのあるキャラとはならなかったなと冷めた目で見てしまいました。


(3)戦隊シリーズで×××シーン!?


そして本作で物議を醸したのがアスカとその恋人にして実質のヒロインであったマホロの過去で流れる×××シーンなのですが、どうしてこんなシーンを流したのかさっぱりわかりません。
念のため言っておくと、特撮作品で別にそういう濡れ場や裸を出すなと言っているわけではなく、そういうシーンを流せば視聴者の興奮をそそるだろという作り手の安易さに辟易とするのです。
例えば「ダイナマン」なんて、記事では触れませんでしたが女性幹部が裸体を晒すシーンがありますし、それこそ「真仮面ライダー序章」ではプールのシーンで男女の裸が写っています。
だから、特撮ものでそういう路線をやるなと言っているわけではなく、きちんと表現したいものがそこにあるならそういうシーンを出しても別に構わないとは思うのです。


この点はなんだかんだお隣の「仮面ライダー555」を書いていた井上敏樹先生の方がまだきちんと配慮はしていて、子供向けの時間帯では流石にそういうシーンは書かないと言っていました。
その分食事シーンとか会話のやり取りとかでキャラを膨らましていますし、むしろそういうエログロ系は小説版「異形の花々」の方で存分に描いていますから、読みたい人はそちらを読めばいいのです。
つまり、真に面白いクリエイターはそういうシーンに頼らずとも面白いストーリーやキャラクターはいくらでも作れるわけであり、単に本作のクリエイターがそれだけの技量がなかったということでしょう。
まあそもそもアイドル回しかりラブコメ然り、荒川氏が書くものはいかにもまともな恋愛を経験したことがない童貞オタク感丸出しのものばかりですが、本作でシリアスな文芸で勝負したことでそれが露呈してしまったなと。


そんな風に本作はキャラクターが敵味方共に薄いやつばっかりなのですが、唯一私が「こいつは面白い」と思えたキャラクターが1人いまして、それが今中笑里こと「えみポン」の存在です。
彼女のキャラクターは「ヒーローに憧れる鈍臭いオタク」なのですが、これがいかにも当時の荒川氏の分身としか思えないキャラクターであり、実に生き生きと演じられていました。
ヒーローに憧れ頑張るもイマイチうまくいかず空回りというのはまんま荒川氏のキャラクターで、このえみポンのキャラクターはその後「ゴーカイジャー」の猪狩鎧に継承されていきます。
こういういかにもオタクらしいオタクを書かせたら荒川氏は抜群にうまく、思えば「カーレンジャー」に出てきたホワイトレーサーもえみポンや鎧のようなミーハーオタクでしたね。
まあとにかく、シリアスな文芸などこの人には書けないということが×××のシーンから判明してしまったということではないでしょうか。


(4)結局うまくまとまりきらず


そんな本作ですが、結局のところ何が問題といって上記で打ち出したチャレンジ精神というべき要素がことごとく空回りして不発に終わってしまったことです。
アバレンジャー3人のキャラクターも爆竜のキャラクターも、そしてアバレキラーもアバレブラックもマホロもエヴォリアンも、全て不完全燃焼で終わってしまいました。
まあ不完全燃焼で終わってもいいのですが、最低限のキャラ立てとストーリーくらいはきっちり担保して欲しかったところであり、いわゆる「アンパンマン」「ドラえもん」のレベルにすら至っていません。
別にシリアスな作風を狙っていないのであれば割り切って見られるのですが、本作はなまじ中途半端にそういうシリアスなドラマ路線を打ち出してしまったものだから余計にそう思わざるを得ないのです。


なぜこんな無謀な挑戦を本作がやったのかというと、「ガオレンジャー」「ハリケンジャー」が子供向けを狙いすぎたあまりにスーパー戦隊シリーズのブランドそのものを安売りしたからでしょう。
玩具売上を回復させることやお隣の平成ライダーとの差別化を図ることを考えたら戦隊シリーズで高年齢層向けのシリアスなドラマはやりにくくなっていました。
そして何より「タイムレンジャー」という作品という例があり、あの作品は文芸的には好調で視聴率も高かったけど、反面玩具売上は歴代最低を記録したのです。
かといって、ずっとストーリーとキャラクターをないがしろにして玩具を売りつける子供騙しのような手法がなんども通用するわけでもありませんし、戦隊ファンはそんなに甘くありません。


だからこそコミカルでライトな路線を保ちながらも、その中にシリアスなドラマをということで本作のような作品が志向されたのではないでしょうか。
しかし結果は散々であり、視聴率は下がって玩具売り上げだけが成功するという、結局前作までとそんなに変わらない結果になってしまいました。
こうしたストーリーやキャラクターをないがしろにした阿漕なやり方が本作で限界を迎え、大きな反省点として残ってしまったのです。
まあだからこそ次作「デカレンジャー」以降でまたもやスーパー戦隊シリーズは大きく回復していくことにはなるのですけどね。


(5)まとめ


シリーズ27作目として制作された本作は前2作の商業的大成功を受け止めつつも、そこからさらなる冒険・挑戦を試み、それが大失敗してしまった一作です。
クウガ」のメインんライターとして実績を挙げた荒川氏や「カーレンジャー」の浦沢先生、そして會川先生など頼れる戦力は揃っていました。
しかし、どんなに頼れる戦力がいたとしても、そもそもの企画の段階で無理が祟っており、そこを軌道修正できぬまま見切り発車でやって大失敗したのが本作でしょう。
シリアスなドラマをやるならやるできちんと詰めておく必要があったわけであり、本作をもって「ゴーゴーファイブ」から5年連続担当した日笠Pは一旦降りることになります。
総合評価はF(駄作)、前2作が作品として抱えていた欠点が完全に露呈してしまったのが本作ではないでしょうか。

 

 

爆竜戦隊アバレンジャー

ストーリー

F

キャラクター

F

アクション

D

カニック

F

演出

F

音楽

D

総合評価

F

 

評価基準=S(傑作)A(名作)B(良作)C(佳作)D(凡作)E(不作)F(駄作)

 

 

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